まつなる的雑文~光輝く明日に向かえ

まつなる兄さんのよしなしごと、旅歩き、野球、寺社巡りを書きます。頼りなく豊かなこの国に、何を賭け、何を夢見よう?

雪中行軍でアイヌ資料を見学

2011年01月18日 | 旅行記A・北海道

雪の旭川駅に降り立つ。これから午後の時間を市内で過ごすことにするが、私の目的地は旭山動物園ではなく、ここからバスで15分ほど走った近文にある。

旭川の近文といえば上川アイヌとして、白老、静内と並ぶ大規模なアイヌの居住地があったところ。北海道を旅行するようになっていつしか、北海道の先住民として、そして交易の民としてのアイヌにも少しずつ興味を持つようになった。アイヌ関連の書物も読むようになった。

近文ではなく静内が舞台ではあるが、この旅行に来る前の予習として、年末年始の北陸行きにも持参していたのが池澤夏樹の『静かな大地』である。淡路島から静内に入植した士族の息子が、当時内地人に経済的に苦しめられていたアイヌのために牧場を開くのだが、その短い期間の繁栄と悲劇を描いた作品である。中にはアイヌの言葉や習俗、民話なども盛り込まれており、テーマは重く読者には歴史や科学の知識を要求しながらももさわやかな言い回しで話を展開させる池澤らしい作風に仕上がっている。

Dscn7034 バスに揺られてやってきたのは「川村カ子トアイヌ記念館」。

Dscn7030 川村カ子ト(カネト)は上川アイヌの長であり、国鉄の測量技手。北海道を中心に各地の鉄道の測量を行ったが、彼の名を有名にしたのは三信鉄道(現在のJR飯田線)の天竜峡での測量。飯田線の中でもあの「秘境駅」の多い難所の区間である。難所で引き受けてのいなかったところをぜひにと請われて従事したという。晩年は国鉄を退いて、1916年にここ近文で日本最古のアイヌ資料館を建設した。

Dscn7029冬のことで、敷地内も深々と雪が積もっている。それでも開館しているのがうれしい。ただこの時期に見学する人もほとんどいないようで、資料館の入口に来ると初めて隣の事務所建物から長髪に髭の男性が出てきた。話はしなかったがこの方が館長で川村カ子トの息子さんに当たる川村シンリツ エオリパック アイヌさんだろうか。写真などで見るアイヌの顔かたちがよくうかがえる。

Dscn7026 館内にはアイヌが狩猟で用いた道具類や衣服、アイヌとともに暮らしていた生物の標本などが数々展示されている。自然とともに暮らしてきた民族の歴史に触れることができる。

Dscn7031 また、チセと呼ばれる彼ら独特の民家も復元されている。雪の時期であるがこれでしのげるのかなと思うが、囲炉裏の回りは結構暖かく、これはこれで風土に合った造りなのかなと思う。

資料館はアイヌ文化の伝承ということで民族楽器の演奏やら刺繍やらの体験もできるとか、また旭川はアイヌ民族運動の盛んな土地ということで(館長も講演活動を積極的にやっているそうだ)その手の催しに触れることもできるようだ。ただ冬だからね・・・。今回は資料に触れたということで後にするが、また季節を変えて訪れてみたいところだ。

Dscn7035 さてここから引き返すが、ちょうどバスが行ってしまった後である。寒い中を待つのも退屈なので、ここは北海道に来たのだからと、雪中行軍を行うことにしよう。歩道も確保されているし(それは懸命の除雪作業あってのおかげだが)、北海道の雪はパウダースノーということで、歩いてもさほど重く感じることがない。時折雪も舞うが、上着のフードをかぶっておけば傘なしでもしのげる。これが新潟や富山あたりのベタ雪とは違うところ。

雪の感触を確かめつつ、結局3キロ以上歩いただろうか。引き続いてやってきたのは、石狩川を渡り、JRの高架橋をくぐり、忠別川をさらに渡って町の南側にある旭川市博物館。ここは昨年の旭川行きの時にも訪れたことがある。

Dscn7048こちらもアイヌに関する展示が充実している。ただどうだろう、先の川村カ子ト記念館はアイヌが建てた施設の資料館、そしてこちらは公立の博物館である。うがった見方をすれば内地人、開拓の民としての視点で展示が構成されているようにも見える・・・?

Dscn7055 そういえば、旭川駅前の観光案内所で川村カ子ト記念館に向かうバスの乗り場を訪ねたところ、係の人は「あそこやってたっけ?(冬だから、という意味だとは思うが・・・)アイヌのこと見るのなら博物館のほうがいいですよ」てな感じのことを言ってたかな。

Dscn7053 ただどうだろう、昨年も見た内容なので流すところもあったが、アイヌの文化、そして明治以降の旭川の開拓の歴史、街の反映、そして自然科学に関すること、さらには新しい形でのアイヌ文化の伝承、というトータルで考えればこちらの博物館のほうが見学にはいいかなと思う。

Dscn7040 アイヌとの関わりというのは他の人権問題と同じように、無知ではいけないし、かといって腫れ物に触るようでもいけないところがあって難しいと思う。現在の歴史にあってアイヌが差別を受けたり、社会的に不利益をこうむってきた側面も否定できない。ただ日本という国が、ヤマト民族だけで成り立っているのではなく、その中にはいろんな民族の歴史があって、それで成り立っているのだということを知るだけでも大きな違いがあると思う。そういうそれぞれの背景を尊重するというのかな。

荷物が増えるがここの土産物コーナーでアイヌ通史に関する書籍を購入して外に出る。先ほどは晴れていたがまた雪雲が垂れ込めており、結構激しく降っている。ここまで来たのだ、もう一歩きしようか・・・。(続く)

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