朝の9時半、天橋立の駅に降り立つ。朝から結構暑い。そろそろ夏本番である。
目指す西国28番の成相寺は、宮津湾と阿蘇海の間を渡る天橋立の対岸にある。公共の乗り物なら阿蘇海を渡る観光船か、モーターボートというのもある。多少遠回りにはなるがバスでケーブル・リフト乗り場まで行き、股のぞきで有名な傘松公園まで上り、さらに登山バスに乗り継ぐ。「天橋立まるごとフリーパス」は、私が持っているのは京都丹後鉄道の乗り放題がセットになっているが、鉄道なしで現地のバス、観光船、ケーブル、リフトが乗り放題のバージョンもある。
ただこの一方で、天橋立そのものを渡る方法もある。距離にして4キロ弱、レンタサイクルという手もあるが、今回はここを歩くことにする。天橋立は何回か来たことがあるが、いずれもバスや観光船、あるいはクルマで行き来しており、中を縦断したことがない。成相寺の山の上まで歩けと言われればちょっと躊躇するが、せめてその麓まで行くのはいいだろう。急ぐわけでもなく、歩いても1時間といったところだろう。
駅から歩いてしばらくのところにあるのが智恩寺。文殊菩薩を本尊としており、日本三文殊の一つとされている。あとの二つは奈良・桜井の安倍文殊院と、これは知らなかったが山形県の大聖寺・亀岡文殊と言われている。そういえば文殊と聞くと、今は稼動を停止している敦賀の「高速増殖炉・もんじゅ」であったり、天橋立への特急列車の「もんじゅ」というのもイメージする。
智恩寺は平安初期には創建されたが、現存するもので古いのは室町時代の多宝塔。後の山門や本堂などは江戸時代以降のものと言われる。それを含めても古刹と言えるが、外と境内を区切る塀があるわけでもなく、駅から観光船乗り場の抜け道に使う人もいるくらいだ。
ユニークなのは手水鉢。元々寺院の湯船として造られた「鉄湯船」というもので、重要文化財にも指定されている。何とも豪快な。
そして、境内の松にぶら下がる扇子のおみくじ。智慧と扇子というのが結びつかないのだが、見ていて縁起がよさそうだ。
さて歩き始める。旋回橋を渡り、松と砂地のところを行く。右に宮津湾、左に阿蘇海というところだが、それぞれの海岸べりの表情は結構異なる。外海と内海というのか。宮津湾沿いには明るい砂地が広がり、そこに波が打ち寄せる。白砂青松という呼び方がぴったりで、夏であれば海水浴で賑わいそうな感じだ。
一方阿蘇海はと言えば、穏やかな湖といった趣だ。智恩寺横の狭い水門のところで外海とはつながっているわけだが、波もほとんど立たない。2つの海の表情を見ながら歩くのも面白い。
また、松の形もいろいろなものがある。独特の地形や気象条件、また杉や檜とは違い、どんな方向にも曲がりながら成長する松の特性というのか。いろいろな呼び名が付けられているのがいい。
天橋立神社というのに出る。その横に磯清水がある。名水百選の一つであるが、その理由というのが、立地条件。左右を見れば海が広がる狭い砂州である。その中で湧き出る水なのに塩分を一切含んでいないということで、古来から珍重されている。「湧水なので飲用には適さない」と立札があるので、ちょっと口に含むくらいで飲んでみると、確かにまろやかな味がする。よほど地下の深いところから出ているのだろう。この水脈が、天橋立の松の命のもとになっているわけだ。
歩いて行くと「消毒中」とあり、作業服姿の人が「少し待ってください」と私を停める。薬剤散布の作業中である。松並木保全のためということで、害虫が発生する夏の時期に行っているとか。何やらブーンという音がするので砂浜に出てみると、ラジコンヘリコプターが飛んでいる。これを木々の間に飛ばして、よりきめ細かな作業ができるとのことである。この松も多く立ち枯れたこともあったが、このところはこうした取り組みが功を奏しているようだ。順次場所を移して行っているようで、通れるようになってもしばらくは作業エリアの中を歩くことになる。その間は作業側も気を遣っているようで、反対側まで行くと「歩行者の方、エリアから出られました」と無線をして、作業再開となった。
またあるエリアでは全面立ち入り禁止となっている。松の生育環境の調査作業をしているようで、その現状と問題点が看板に表示されている。その中では「土壌の養分は良好な状態である」としたうえで、「松以外の木が旺盛に生育できる環境が整うことで広葉樹林への繊維が進み、松林が衰退してくことにつながっている」とある。また、「地下水位が高いという環境にあって~地下部(根)は貧弱で地上部(幹・枝)は大きすぎるというアンバランスな状況であり、台風や大雪の際、倒れやすくなっている」とある。
先ほど磯清水で「よほど深いところから湧き出ているのだろう」と思ったのだが、事実は逆で、地下水位が高いという環境のようである。また土の状態がよいためにいろんな植物が繁茂し、松にとっては栄養分を先に取られてしまうというのも意外だった。確かに雑草が多く生えて、雑木林に近い感じの一角もあった。
先ほどの薬剤散布もそうだが、こうした調査を行い、地面の手入れも行うことの必要性も考えているという、天橋立の環境保全の取り組みの一端を見ることができたのは面白かった。股のぞきのスポットや観光船から見る美しい眺めも、こうした取り組みがあって保たれているものである。
対岸まで渡りきり、籠神社に出る。丹後国の一の宮、元伊勢の一つである。ここまで歩いてきたことで一息つき、参拝する。
この後で傘松公園に向かう。ケーブルとリフトがあるが、タイミングもよく空いているということもあり、ケーブルに乗る。そう言えばケーブルで上がるのも初めてである。最下段の席に陣取り、発車する。後ろに引っ張り上げられる感覚。少しずつ天橋立の眺めが広がってくる。
そしてたどり着いた傘松公園。ここからの眺望はもう定番である。股のぞきで有名なところだが、私にはこれで見える景色がそこまで評される理由が未だにわからない。
そしてここから目指す成相寺はさらに上にある。ここからは「登山バス」の出番である・・・。
目指す西国28番の成相寺は、宮津湾と阿蘇海の間を渡る天橋立の対岸にある。公共の乗り物なら阿蘇海を渡る観光船か、モーターボートというのもある。多少遠回りにはなるがバスでケーブル・リフト乗り場まで行き、股のぞきで有名な傘松公園まで上り、さらに登山バスに乗り継ぐ。「天橋立まるごとフリーパス」は、私が持っているのは京都丹後鉄道の乗り放題がセットになっているが、鉄道なしで現地のバス、観光船、ケーブル、リフトが乗り放題のバージョンもある。
ただこの一方で、天橋立そのものを渡る方法もある。距離にして4キロ弱、レンタサイクルという手もあるが、今回はここを歩くことにする。天橋立は何回か来たことがあるが、いずれもバスや観光船、あるいはクルマで行き来しており、中を縦断したことがない。成相寺の山の上まで歩けと言われればちょっと躊躇するが、せめてその麓まで行くのはいいだろう。急ぐわけでもなく、歩いても1時間といったところだろう。
駅から歩いてしばらくのところにあるのが智恩寺。文殊菩薩を本尊としており、日本三文殊の一つとされている。あとの二つは奈良・桜井の安倍文殊院と、これは知らなかったが山形県の大聖寺・亀岡文殊と言われている。そういえば文殊と聞くと、今は稼動を停止している敦賀の「高速増殖炉・もんじゅ」であったり、天橋立への特急列車の「もんじゅ」というのもイメージする。
智恩寺は平安初期には創建されたが、現存するもので古いのは室町時代の多宝塔。後の山門や本堂などは江戸時代以降のものと言われる。それを含めても古刹と言えるが、外と境内を区切る塀があるわけでもなく、駅から観光船乗り場の抜け道に使う人もいるくらいだ。
ユニークなのは手水鉢。元々寺院の湯船として造られた「鉄湯船」というもので、重要文化財にも指定されている。何とも豪快な。
そして、境内の松にぶら下がる扇子のおみくじ。智慧と扇子というのが結びつかないのだが、見ていて縁起がよさそうだ。
さて歩き始める。旋回橋を渡り、松と砂地のところを行く。右に宮津湾、左に阿蘇海というところだが、それぞれの海岸べりの表情は結構異なる。外海と内海というのか。宮津湾沿いには明るい砂地が広がり、そこに波が打ち寄せる。白砂青松という呼び方がぴったりで、夏であれば海水浴で賑わいそうな感じだ。
一方阿蘇海はと言えば、穏やかな湖といった趣だ。智恩寺横の狭い水門のところで外海とはつながっているわけだが、波もほとんど立たない。2つの海の表情を見ながら歩くのも面白い。
また、松の形もいろいろなものがある。独特の地形や気象条件、また杉や檜とは違い、どんな方向にも曲がりながら成長する松の特性というのか。いろいろな呼び名が付けられているのがいい。
天橋立神社というのに出る。その横に磯清水がある。名水百選の一つであるが、その理由というのが、立地条件。左右を見れば海が広がる狭い砂州である。その中で湧き出る水なのに塩分を一切含んでいないということで、古来から珍重されている。「湧水なので飲用には適さない」と立札があるので、ちょっと口に含むくらいで飲んでみると、確かにまろやかな味がする。よほど地下の深いところから出ているのだろう。この水脈が、天橋立の松の命のもとになっているわけだ。
歩いて行くと「消毒中」とあり、作業服姿の人が「少し待ってください」と私を停める。薬剤散布の作業中である。松並木保全のためということで、害虫が発生する夏の時期に行っているとか。何やらブーンという音がするので砂浜に出てみると、ラジコンヘリコプターが飛んでいる。これを木々の間に飛ばして、よりきめ細かな作業ができるとのことである。この松も多く立ち枯れたこともあったが、このところはこうした取り組みが功を奏しているようだ。順次場所を移して行っているようで、通れるようになってもしばらくは作業エリアの中を歩くことになる。その間は作業側も気を遣っているようで、反対側まで行くと「歩行者の方、エリアから出られました」と無線をして、作業再開となった。
またあるエリアでは全面立ち入り禁止となっている。松の生育環境の調査作業をしているようで、その現状と問題点が看板に表示されている。その中では「土壌の養分は良好な状態である」としたうえで、「松以外の木が旺盛に生育できる環境が整うことで広葉樹林への繊維が進み、松林が衰退してくことにつながっている」とある。また、「地下水位が高いという環境にあって~地下部(根)は貧弱で地上部(幹・枝)は大きすぎるというアンバランスな状況であり、台風や大雪の際、倒れやすくなっている」とある。
先ほど磯清水で「よほど深いところから湧き出ているのだろう」と思ったのだが、事実は逆で、地下水位が高いという環境のようである。また土の状態がよいためにいろんな植物が繁茂し、松にとっては栄養分を先に取られてしまうというのも意外だった。確かに雑草が多く生えて、雑木林に近い感じの一角もあった。
先ほどの薬剤散布もそうだが、こうした調査を行い、地面の手入れも行うことの必要性も考えているという、天橋立の環境保全の取り組みの一端を見ることができたのは面白かった。股のぞきのスポットや観光船から見る美しい眺めも、こうした取り組みがあって保たれているものである。
対岸まで渡りきり、籠神社に出る。丹後国の一の宮、元伊勢の一つである。ここまで歩いてきたことで一息つき、参拝する。
この後で傘松公園に向かう。ケーブルとリフトがあるが、タイミングもよく空いているということもあり、ケーブルに乗る。そう言えばケーブルで上がるのも初めてである。最下段の席に陣取り、発車する。後ろに引っ張り上げられる感覚。少しずつ天橋立の眺めが広がってくる。
そしてたどり着いた傘松公園。ここからの眺望はもう定番である。股のぞきで有名なところだが、私にはこれで見える景色がそこまで評される理由が未だにわからない。
そしてここから目指す成相寺はさらに上にある。ここからは「登山バス」の出番である・・・。