午前中は法界院で納経帳が埋まらず、また出直しとなってがっかりだったが、ビール列車に乗ってすっかり機嫌を取り直した。まあ、ちょっとしたことで熱くなるがすぐにまたヘロヘロしてしまうのが私の性格の一つなのだが。
和気駅から、かつての片上鉄道の駅舎や車両が保存されている柵原ふれあい鉱山公園に向かう。観光バスに分乗するのだが、東京組はさらに2種類のツアーに分かれるようで(一方はさらにグレードアップのコースのようだ)、バスは合わせて3台出る。私が乗るのはもちろん現地集合テツ分濃い組。車内でもテツ関連の話で盛り上がる人もいる。もう少し静かにしてもらいたい気持ちもあるのだが、またアルコールも入っているし、貸切だから仕方ないか。
吉井川、そしてかつての片上鉄道の線路跡に沿って走る。廃線跡の多くは「片鉄ロマン街道」という自転車道に転用され、ネットにはこれを走破した旅行記も見られる。一方、鉄道廃止からバスに代替となったが、現在は自治体のバスが細々と走る程度。私もドライブでこの道を走って鉱山公園を訪ねたことはあるが、バスには乗ったことがない。そもそも片上鉄道も乗らないまま1991年に廃止になっている。私がもう少し早く生まれていたら、あるいはもう少し早くローカル私鉄も含めた鉄道の旅に興味を持っていたらと思う。
30分ほどで鉱山公園に到着する。かつての吉ヶ原駅舎が保存されていて一行を出迎える。普段は車両は停まった状態で保存されていて、月1回、片上鉄道保存会の人たちの手で気動車が運転される。この日は該当日ではないが一行のために特別に気動車を運転するという。
その前に資料館をのぞいてみる。鉱山町や片上鉄道の歴史が紹介されているのだが、こちらを見る時間は残念ながらなさそうだ。吉ヶ原駅はドラマや映画のロケ地にもなるようで、ロビーには出演者のサインがいろいろ並ぶ。
運転するのはキハ303。まずは向かいの島式ホームから一度資料館側に走る。まずはその走りを外から見る。
そして駅舎側のホームに入ってくる。ドアが開いて乗り込む。もちろん冷房はなく、窓が全開で扇風機が回る。先ほどのラマル号とは正反対だが、これも昔の鉄道風景で面白い。ただ、毎日の通勤がこれだと言われたらちょっと勘弁だが。
一行は座席に腰掛ける人もいれば、運転台の横や後に陣取る人もいる。まずは腰掛ける。中央には片上鉄道グッズを売るテーブルが置かれている。この売り上げも片上鉄道保存会の活動資金となるようで、私もなにがしかの買い物をする。
発車する。数百メートル先まで行って戻るだけだが、それでも面白い一時である。このキハ303は1934年(昭和9年)の製造だから今年で85歳。元々は国鉄の量産型気動車だったが、戦後に片上鉄道に譲渡された。それが今でも短い距離ながら走行できることじたいすごいと思う。
しばらく走って折り返し点に着き、老運転士が反対側の運転台に向かう。復路は私も運転台の後に立つことにした。吉ヶ原駅が少しずつ大きくなる。備前の山奥に昔の風景が広がる。いいなと思う。実際に動いた時間はわずかかもしれないが、貴重な体験ができた一時である。
島式ホームに着いて下車となる。この後キハ303は構内の撮影タイムのためにもう少し動く。線路内に入ってもよいとのことで、2両の気動車をバックに記念撮影する人も多い。
柵原ふれあい鉱山公園には1時間ほどいただろうか、保存会の人たちと手を振りあって後にする。再び吉井川と片上鉄道跡に沿って和気まで戻る。帰りのバス内では、片上鉄道保存会の一日会員の記念きっぷをいただく。
一行が着くのを見計らうようにラマル号が相生側から入線してきた。ホームに居合わせた高校生たちが珍しそうに車両を見つめる。車体に書かれたアルファベットを見て「あれ何て読むん?」と駅員に訊く高校生もいる。うーん、書かれているのはフランス語だし、「ラ・マル・ド・ボァ」と言われても何のことやらだろう。
再びビール列車の客となる。スタッフに言えば一番搾りをサーバーから注いでくれるのだが、この先万富で下車してキリンビール岡山工場の見学がある。ビール工場の見学といえば試飲もついてくるわけで、さすがにこの区間で飲んだ人はほとんどいなかった。私も小休止で、これも飲み放題に含まれる生茶やミネラルウォーターのペットボトルをいただく。
万富に到着。キリンビールの工場は駅のすぐ横にあるが、入るにはぐるりと回り込むことになる。徒歩だと少し遠いので再び先ほどのバス3台に分乗する。「早くビール飲みてぇ~!」という声もあがり、いよいよ旅の終盤のポイントとなる・・・。