神仏霊場めぐりの金閣~銀閣シリーズ。慈照寺銀閣を後にして、しばらく哲学の道を歩く。琵琶湖疎水に沿って続く散歩道で、沿道はさまざまな木々が植えられている。5月のこの時季は新緑を楽しむことができ、散策する人が行き来する中、ベンチや自前の折り畳み椅子に腰かけて周囲をデッサンする人もちらほら見える。自分の筆でこの景色を表現することそのものが楽しみなのだろう。
哲学の道の名付け親ともいえる哲学者・西田幾多郎の石碑がある。「人は人 吾はわれ也 とにかくに 吾行く道を 吾は行くなり」。自分が進むべき道をひたすらに進む確固たる信念を表現した歌とされる。
慈照寺から次の真正極楽寺まで距離はそれほど離れていないが、白川通に出るよりは山側に並走する哲学の道がいいだろうとたどってきたところ、そろそろ近くなってきたので別れる。白川通を横断して、少し上り坂を歩くと真正極楽寺の本堂前に出た。ただ、横から入って来た形なのでいったん石段を下りて山門まで戻り、改めての参詣とする。
真正極楽寺は真如堂の通称のほうが有名だという。いずれにしても初めての参詣なのだが、平安中期、比叡山延暦寺の僧・戒算が夢のお告げで延暦寺常行堂の阿弥陀如来を移したのが由来とされる。なお、この阿弥陀如来は慈覚大師円仁の作と伝えられる。その後、応仁の乱の時に本尊阿弥陀如来が近江に避難させられたのをはじめとして、寺そのものも移転と再興を繰り返し、現在地に落ち着いたのは江戸中期。現在の本堂もその時の再建とある。
靴を脱いで外陣に入る。この日(5月15日)の神仏霊場めぐりでは、この前まで神社3ヶ所、寺院2ヶ所を訪ねた。神社はともかくとして、2ヶ所の寺院とは鹿苑寺と慈照寺、金閣と銀閣である。一応お勤めはしたものの、これらはいずれも寺というよりはかつての足利将軍の庭園見学の要素が強かった。この日6ヶ所目にしてようやく、寺らしい寺を訪ねることができたと思う(この先、こうした場面は何度となくあるだろうが)。
外陣の広間の畳に座ってのお勤めとする。
また真正極楽寺では、500円で内陣および庭園の拝観ができるという。その受付もかねて、外陣にある納経所に朱印帳を差し出す。「無量寿と書かせていただきました」と返される。無量寿とは阿弥陀如来の別名で、そういえば浄土真宗で読まれる「正信偈」の最初に、「帰命無量寿如来 南無不可思議光」とあったのを覚えている(母方の実家が浄土真宗で、祖父・祖母の葬儀の時に読経されていたような)。後半の不可思議光というのも阿弥陀如来の別名だそうで、この一節はとにかく「阿弥陀様に願い敬う」という意味なのだという。・・・ちょうどこの札所めぐりの行き先をあみだくじに委ねているのだが。
向かった先には広間を挟んで2つの庭園がある。まずは「涅槃の庭」。造園家・曽根三郎氏が1988年に手掛けた枯山水庭園である。テーマは釈迦入滅(涅槃)で、ガンジス川を白砂で表現し、横たわる釈迦とそれを取り囲む弟子や動物たちを石組みで描いている。あの石が釈迦の頭部なのかなとか想像してみる。
もう一方は「隨縁の庭」。作庭家・重森三玲の孫である重森千青氏が2010年に手掛けた庭である。幾何学的な文様があるなと見るに、三井家の家紋をイメージしたものとある。真正極楽寺が江戸時代の豪商である三井家の菩提寺ということからだそうだ。
この真正極楽寺・真如堂、これだけの規模の寺院ながら今回初めて知った。京都の中でも鹿苑寺や慈照寺のように観光客や修学旅行生が多数訪ねるスポットではないようだが、逆に、このくらいの寺ならごく普通にあるという京都の奥深さも感じる。
本堂に戻り、片隅に腰を下ろして神仏霊場めぐりの次の行き先決めである。阿弥陀如来の前でのあみだくじ、ええやないか・・・。
くじ引きによる出走表は以下のとおり。
・唐招提寺(奈良11番)
・談山神社(奈良24番)
・帯解寺(奈良5番)
・八坂神社(京都36番)
・岩船寺(京都49番)
・丹生川上神社上社(奈良27番)
・・・くじ引きアプリがどういう思考回路をしているのかはわからないが、奈良と京都に偏った。ただここで八坂神社が出たならば、この後引き続いて参詣しようと思う。京都の市街地をさらにぐるりと回ることになるが・・。
その中で、あみだくじの結果は2枠に割り当てられた丹生川上神社上社。奈良といっても吉野の向こうである。前のシリーズで壷阪寺と金峯山寺蔵王堂を訪ねたばかり。その時、吉野地区の他の神社はレンタカーで一気に回るか・・と想定していたが、まさか次の次でそうした展開になるとは。丹生川上神社はそれぞれ離れているが、下社・中社・上社の「三社」でつながっていて、次のシリーズはこの三社を回ることがメインになるだろう。
次の行き先が決まったことで、6ヶ所の寺社を回った今回の神仏霊場めぐりはおしまいとする。近くの錦林車庫前からバスに乗り、京阪の出町柳まで出る。
帰りの新幹線にはまだまだ時間があるので、大阪へは出町柳から京阪に乗ることにする。そうなるとお目当ては当然京阪特急のプレミアムカー。1人席にも空席があり、早速の乗車である。今回、新幹線プランを京都ではなく新大阪までとしたことで、大阪まで自由に移動することができる。この日それなりに歩いたことで、プレミアムカーの中での「飲み鉄」も楽しむことにする。
新大阪からは「のぞみ」を予約していたが、思ったよりも早く戻って来たこともあり、(本来ならよろしくないのだろうが)先発する「ひかり」岡山行きと、岡山から「こだま」のそれぞれ自由席を乗り継いで広島に戻る。
今回の神仏霊場めぐりは、あみだくじの結果もあって1日で京都2シリーズ連続となった。京都市街、近郊に札所が固まっているので、この先もこうした展開になるかもしれない。また、楽しむことにしよう・・・。