外の車が通り抜けると、タイヤと濡れた道路が擦り合う、雨の日独特の音がします。
こちらに来てから10回目の6月ですが、こんなに雨が続いたのは今年が初めて。
いったいどないやっちゅうねん!とひとりごちながら、箱詰めに精を出すわたし。
今日はなにかっていうと旦那と衝突しました。カリカリいらいら、どちらも種火がつきっ放しなので、ちょっとしたことで炎が大きくなってしまいます。
そんなところに、久しぶりの、『日本のノリ』問題が発生しました。
大津の旧道沿いのある町に住んでいた8年間に、いやというほど味わったあの(そやからどないしたらええのよっ!)な気分……久々の登場です。
今回の引っ越しの手伝いをお願いしたT氏。アメリカで引っ越し業を営んで早30年の大ベテランさんですが、
一匹狼であることを好む彼は、日通の下請けなどをしながら、いろんな同業者の人達と連携を組んで、業績を伸ばしてこられた方です。
彼はとても親切な人で、こちらが頼んだ以上のことをしてくれたり、仕事柄、ひょいと入ってくる家具や電気器具などを、とても安価で分けてくれたりしました。
今の家の大きなカウチや本箱、旦那の診療室の棚などは、日本に戻ることになった駐在の家族からのおさがりで、今も便利に使わせてもらっています。
一昨日の夕方、本などを詰めるための小ぶりの段ボール箱を、T氏がわざわざ運んできてくれました。
「ソニーのね、薄型じゃないけど、ちゃんと映るテレビがあるよ。テレビ台もついてるしね。いらない?」
箱の受け取りに出たKとわたし、突然のことで答が出ません。後でまたちゃんと返事させてもらいますと言って、その場は別れました。
Kがそのテレビが欲しいと言うので、昨日の夕方にT氏の家まで取りに行かせました。
そのKが戻ってくるなり、「クーラーとかマス目になった高そうな棚とか、あ、それからカウチもどうぞって。イタリア製やで」とまくしたてます。
「あ、それと、トレーニングマシーン、あれはどうしても欲しい」
はぁ~?!旦那の顔はもうすでにかなり険しくなっています。なんだかとってもいやな予感がします。
T氏も、自宅の総改築の工事のため、一週間後にはホテル住まいになるってんで、まるで引っ越し状態。なので、彼も持ち物を整理したいというタイミング。
旦那の頭の中では、ひとの引っ越しの荷物整理の手伝いをして、うちに欲しくもない、趣味の異なる物が増えるのはまっぴらごめんだ!と叫んでいます。多分。
とりあえず、クーラーはきっと入り用になると思うので、いただくことにしました。トレーニングマシーンは旦那の頭の中ではきっともう消去されているはず。
今日の午後2時半に、留守のKの代わりに、旦那とわたしがT氏の家にお邪魔することになりました。
行きの車の中で「分かってると思うけど、あれもこれもって言われても調子のいい返事をしないこと。ボクはいらない物は入らないんやから」と旦那はブツブツ。
押しの強い、どちらかというと引き下がらないT氏の姿がチラチラと思い浮かんできて、ちょっと重たい気分になるわたし……。
「これ、おいしいよ、ほら、持ってきな。あ、これもね。ほんで、どういうふうに食べるかっちゅうと、これとあれとをこういう風に混ぜて……」
「この器、値打ちもんやから。アメリカ人にはそういうの分からへんやろけど。けど、肉とか油もんは乗せたらあかんで。なんでかっていうとな……」
その当時、旧道沿いの住人にとっては外国人はとても珍しかったので、いろんな人達がやってきて、それぞれ好きな話をしては帰っていきました。
その話の中には、もちろんその人は親切で言ってくれているのだけど、旦那にとっては余計なお世話だったり、押しつけのように感じることがあって、
そうすると、旦那の態度があからさまに不機嫌になったり、あさっての方向を見たり、けれどもそれは言葉が分からないからだと勘違いしている人達は、全く話をやめようとせず、時にはどんどんエスカレートしていってしまったりしました。
わたしはその間に立って、旦那をなだめ、近所の人にはそれを気づかれないように取り繕い、その場は一応平穏に終わらせるのですが、
部屋に戻ってからの、「あれはいったいなんなのだ?!」という旦那の文句と怒りを一身に受けることになるわたし……なかなかタフな時間でした。
物は取り様、物は言い様、親切で言うてくれてるだけなんやから。なんてことを分かってくれるはずもなく、そういうことがあるたびにヘトヘトに疲れたもんです。
T氏の家の中に入ると、もうそこはうちの5倍ほどの物、物、物!ひぇ~!
そして、トレーニングマシーンを見た途端に気を失いそうになってしまいました。
デカいっ!
「うちには入らないかも」
「でっかいんでしょ、今度の家」
「でもボクとしてはいらないし」
「K君、どうしても欲しいって言ってたよ」
「でも、こんなのどうして運べるか」
「うちのバンを使ったらいいじゃん。この額入りの絵は?カウチはどう?クーラーいる?あ、ヒーターもあるよ。ガレージに棚もあるよ。タイヤは?」
ガレージまでT氏の後をついて行く間、「絶対に棚はいらない。欲しいっていう顔をみせるな」と低~い声で凄む旦那。恐っ!
ところがその棚、多分家具屋とかで買ったらとんでもなく高いだろうな~という代物。正方形のマス目の大きさが楽譜にぴったり!欲しぃ~!
「どうしていらないの~、いいもんだよこれ」と粘るT氏。頑なに断る旦那。後ろの方で、わたしは欲しいんだけどな~といじけるわたし。
結局、T氏のバンをT氏が運転して、トレーニングマシーンとクーラーそして電気ヒーターをウィンザーの家まで運んでもらうことになりました。
まずはマシーンを地下室に。男ふたりでなんとか運べるものの、腰を痛めるのを極度に心配する旦那はきっと、無茶苦茶ムカムカしてるんだろうな~。
帰りがけに、とりあえずこれまでのお礼の気持ちを包んで渡し、T氏を見送ったわたしに、どっか~ん!久しぶりの旦那の爆弾が落ちました。
「断ってるボクの横で、あんな欲しそうな顔するなんて、呆れてモノも言えない。どうしてボクの言ってることが分からないんだ?」
「もうあの極貧の大津時代のボクらじゃないんだ。大型ゴミを拾い集めて暮らしていたボクらじゃないんだ。あんなことをもう二度と繰り返したくないんだ」
ちゃんと分かってますよ。でも、な~んにも無いピアノの部屋に、あの楽譜棚を置くのがどうしてそんなに悪いことなのかなあ。
木の色はわたしの机よりも明るいけれど、色なんてペンキで変えられるし、あんなしっかりした造りの大きいサイズの棚なんて買ったらどんなに高いか……。
でもだめでした。話は平行線のまま、お互いの間にモヤモヤとしたイヤ~な霧がかかっているところに、ルルルル、ルルルル、
「あ、Tだけど、あのねえ、炬燵いる?ちゃんと使えますよ。それと、でっかいカーペット。炬燵の下にいるでしょ?あ、それとつい立てとかちゃぶ台どう?」
炬燵、いただきます。カーペットもいただきます。つい立てもありがとうございます。ちゃぶ台もよろしく。三階に置いて、日本の冬を楽しむんだもんね~。
こちらに来てから10回目の6月ですが、こんなに雨が続いたのは今年が初めて。
いったいどないやっちゅうねん!とひとりごちながら、箱詰めに精を出すわたし。
今日はなにかっていうと旦那と衝突しました。カリカリいらいら、どちらも種火がつきっ放しなので、ちょっとしたことで炎が大きくなってしまいます。
そんなところに、久しぶりの、『日本のノリ』問題が発生しました。
大津の旧道沿いのある町に住んでいた8年間に、いやというほど味わったあの(そやからどないしたらええのよっ!)な気分……久々の登場です。
今回の引っ越しの手伝いをお願いしたT氏。アメリカで引っ越し業を営んで早30年の大ベテランさんですが、
一匹狼であることを好む彼は、日通の下請けなどをしながら、いろんな同業者の人達と連携を組んで、業績を伸ばしてこられた方です。
彼はとても親切な人で、こちらが頼んだ以上のことをしてくれたり、仕事柄、ひょいと入ってくる家具や電気器具などを、とても安価で分けてくれたりしました。
今の家の大きなカウチや本箱、旦那の診療室の棚などは、日本に戻ることになった駐在の家族からのおさがりで、今も便利に使わせてもらっています。
一昨日の夕方、本などを詰めるための小ぶりの段ボール箱を、T氏がわざわざ運んできてくれました。
「ソニーのね、薄型じゃないけど、ちゃんと映るテレビがあるよ。テレビ台もついてるしね。いらない?」
箱の受け取りに出たKとわたし、突然のことで答が出ません。後でまたちゃんと返事させてもらいますと言って、その場は別れました。
Kがそのテレビが欲しいと言うので、昨日の夕方にT氏の家まで取りに行かせました。
そのKが戻ってくるなり、「クーラーとかマス目になった高そうな棚とか、あ、それからカウチもどうぞって。イタリア製やで」とまくしたてます。
「あ、それと、トレーニングマシーン、あれはどうしても欲しい」
はぁ~?!旦那の顔はもうすでにかなり険しくなっています。なんだかとってもいやな予感がします。
T氏も、自宅の総改築の工事のため、一週間後にはホテル住まいになるってんで、まるで引っ越し状態。なので、彼も持ち物を整理したいというタイミング。
旦那の頭の中では、ひとの引っ越しの荷物整理の手伝いをして、うちに欲しくもない、趣味の異なる物が増えるのはまっぴらごめんだ!と叫んでいます。多分。
とりあえず、クーラーはきっと入り用になると思うので、いただくことにしました。トレーニングマシーンは旦那の頭の中ではきっともう消去されているはず。
今日の午後2時半に、留守のKの代わりに、旦那とわたしがT氏の家にお邪魔することになりました。
行きの車の中で「分かってると思うけど、あれもこれもって言われても調子のいい返事をしないこと。ボクはいらない物は入らないんやから」と旦那はブツブツ。
押しの強い、どちらかというと引き下がらないT氏の姿がチラチラと思い浮かんできて、ちょっと重たい気分になるわたし……。
「これ、おいしいよ、ほら、持ってきな。あ、これもね。ほんで、どういうふうに食べるかっちゅうと、これとあれとをこういう風に混ぜて……」
「この器、値打ちもんやから。アメリカ人にはそういうの分からへんやろけど。けど、肉とか油もんは乗せたらあかんで。なんでかっていうとな……」
その当時、旧道沿いの住人にとっては外国人はとても珍しかったので、いろんな人達がやってきて、それぞれ好きな話をしては帰っていきました。
その話の中には、もちろんその人は親切で言ってくれているのだけど、旦那にとっては余計なお世話だったり、押しつけのように感じることがあって、
そうすると、旦那の態度があからさまに不機嫌になったり、あさっての方向を見たり、けれどもそれは言葉が分からないからだと勘違いしている人達は、全く話をやめようとせず、時にはどんどんエスカレートしていってしまったりしました。
わたしはその間に立って、旦那をなだめ、近所の人にはそれを気づかれないように取り繕い、その場は一応平穏に終わらせるのですが、
部屋に戻ってからの、「あれはいったいなんなのだ?!」という旦那の文句と怒りを一身に受けることになるわたし……なかなかタフな時間でした。
物は取り様、物は言い様、親切で言うてくれてるだけなんやから。なんてことを分かってくれるはずもなく、そういうことがあるたびにヘトヘトに疲れたもんです。
T氏の家の中に入ると、もうそこはうちの5倍ほどの物、物、物!ひぇ~!
そして、トレーニングマシーンを見た途端に気を失いそうになってしまいました。
デカいっ!
「うちには入らないかも」
「でっかいんでしょ、今度の家」
「でもボクとしてはいらないし」
「K君、どうしても欲しいって言ってたよ」
「でも、こんなのどうして運べるか」
「うちのバンを使ったらいいじゃん。この額入りの絵は?カウチはどう?クーラーいる?あ、ヒーターもあるよ。ガレージに棚もあるよ。タイヤは?」
ガレージまでT氏の後をついて行く間、「絶対に棚はいらない。欲しいっていう顔をみせるな」と低~い声で凄む旦那。恐っ!
ところがその棚、多分家具屋とかで買ったらとんでもなく高いだろうな~という代物。正方形のマス目の大きさが楽譜にぴったり!欲しぃ~!
「どうしていらないの~、いいもんだよこれ」と粘るT氏。頑なに断る旦那。後ろの方で、わたしは欲しいんだけどな~といじけるわたし。
結局、T氏のバンをT氏が運転して、トレーニングマシーンとクーラーそして電気ヒーターをウィンザーの家まで運んでもらうことになりました。
まずはマシーンを地下室に。男ふたりでなんとか運べるものの、腰を痛めるのを極度に心配する旦那はきっと、無茶苦茶ムカムカしてるんだろうな~。
帰りがけに、とりあえずこれまでのお礼の気持ちを包んで渡し、T氏を見送ったわたしに、どっか~ん!久しぶりの旦那の爆弾が落ちました。
「断ってるボクの横で、あんな欲しそうな顔するなんて、呆れてモノも言えない。どうしてボクの言ってることが分からないんだ?」
「もうあの極貧の大津時代のボクらじゃないんだ。大型ゴミを拾い集めて暮らしていたボクらじゃないんだ。あんなことをもう二度と繰り返したくないんだ」
ちゃんと分かってますよ。でも、な~んにも無いピアノの部屋に、あの楽譜棚を置くのがどうしてそんなに悪いことなのかなあ。
木の色はわたしの机よりも明るいけれど、色なんてペンキで変えられるし、あんなしっかりした造りの大きいサイズの棚なんて買ったらどんなに高いか……。
でもだめでした。話は平行線のまま、お互いの間にモヤモヤとしたイヤ~な霧がかかっているところに、ルルルル、ルルルル、
「あ、Tだけど、あのねえ、炬燵いる?ちゃんと使えますよ。それと、でっかいカーペット。炬燵の下にいるでしょ?あ、それとつい立てとかちゃぶ台どう?」
炬燵、いただきます。カーペットもいただきます。つい立てもありがとうございます。ちゃぶ台もよろしく。三階に置いて、日本の冬を楽しむんだもんね~。