かあちゃん、気分直しにこんなんどう?
今朝、真っ暗な部屋の中で目が覚めた。パチンという音がするくらい、きっぱりとした目覚めだった。
首がまた痛み出したのか?
いや、枕の設定方法をひろさんに教えてもらってから、痛みは鈍痛に移り変わり、今では顔を左右に大きく動かした時ぐらいにしか痛まなくなっている。
では右下の奥歯が原因か?
初夏の日本旅行の直前に奥歯が欠けて、急いで治療してもらいに走ったのだが、治してもらったすぐ後からなにかまたおかしいまま放っている。
などとくよくよ思い出した。これは危ない。気持ちがどんどん暗闇に同化しようとしている。
やめようと思った。そうしないとまた、あの、ひどい不眠で悩んだ夜中の再現になってしまう。
『どうしてわたしはまだ、ピアノの鍵盤を戻してもらえないでいるのだろう……』
しまった!一番行ってはいけない所に気持ちの手が伸びて、その部屋のドアを開けてしまった。
毎週月曜日になると、今週こそは片をつけようと思い、修理を担当しているマイケルに再度メールを送ろうとか、マイケルとわたしの中に入っている調律師のアルバートに連絡しようとか、旦那にもう一度頼んで、適切な英語でメールを送ってもらおうとか思う。
なのに、気がつくと週末になっていて、心の底で、どうして彼は、我々からのメールに全く答えることもせず、向こうの状況を知らせようともしないのだろう……と不満をたっぷり含ませた煙で怒りを燻製し続けては、行動できなかった自分を呪っている。
鍵盤をマサチューセッツにある彼の工場に送ったのが8月の4日。そしてその時、マイケルから伝え聞いた修理費をチェック(個人小切手)で送るようにアルバートから言われたのだけど、その額をきちんと確認したかったわたしは、マイケル本人に確認のメールを送った。
『すぐにチェックを送りたいのですが、この額で良いのですか?確認ができたらすぐに送ります』
それからまるで彼と連絡が取れなくなった。
鍵盤が無事に届いたのか、仕事に取りかかってもらっているのか、心配でならなかったが、夏のバカンスの時期でもあったので、旦那に落ち着けと言われて我慢した。
結局鍵盤は無事に届いていて、わたしのメールには一切返事をしないマイケルも、旦那のメールには2回ほど返事を送ってきた。
『今取りかかっている』
けれどもそこにも、修理費についての答は無くて、わたしももう何度も尋ねるのがバカらしくなって、多分仕事が全部終わってからでないと修理費の金額を出せないのかもしれないと、自分で自分を納得させたりしていた。
二台ピアノ曲の練習ができなくなって、予定していたコンサートを二度も見送った。パートナーもわたしと同じく待たされていてうんざりしている。
いったいわたしは何を待っているのだろう。何を躊躇しているのだろう。こんなにも怒りをためながら……。
周りが明るくなって起きたらすぐに、チェックを書いてマイケルに送ろう。
多分それが原因だったのだ。金額がどうのこうのと悩んで、それを教えてくれないからと、一向に送ろうとしないわたしがアホだったのだ。
職人としては腕のいいことで有名だけれど、うまく会話ができない人なのかもしれない。
普通、こうしたらああするだろうに……なんて期待を抱いて、それが全く叶わないからと、カッカカッカと怒っている自分がアホなのだ。
チェックを送ろう。
チェックに金額を書き入れ、今回のことで待ち疲れていることを手紙に書いているところへ旦那から電話がかかってきた。
「元気?今なにしてるん?」
「マイケルに払うためのチェックを送るから、それに同封する手紙書いてるとこ」
「なんで?まだ向こうから返事が届いてないのに」
「もう待つのはイヤになった。今朝方もそのこと考えて鬱々としてしもて眠れんかったし」
「けど、向こうが◯◯払ってって言うてきてへんのに」
「もうええねん。言わへん人なんやから。それに、この金額は、鍵盤を送る時にアルバートから聞いた額やから、ほぼ合ってると思うし」
「でも、待った方が」
「もうイヤ!もしかしてこのチェックが原因で仕事が遅れてるか後回しにされてるかもしれへん。最悪、まだ始まってへんかもしれへんねんから!送るったら送る!」
「でも……」
「電話はアルバートが中継ぎせなできひんし、かといってメール送ってもろくに返事してけえへんし、そんなん相手に待ってても意味ないし、なによりわたしがもうこれ以上待ちたくないねん!」
「ちょっと待って。今からボクがマイケルに電話するから。落ち着いて」
え?電話よりメールってずっと言うてたのに……。
……チェックの件は全く原因ではなくて、ただ単純に、すごく忙しくて遅れている、のだそうだ。
あと一週間ほどで仕上がるので、そのあと向こうから請求書を送る、のだそうだ。
とても腕が良くて、鍵盤修理の世界では名が知れている人なのだろうけど、二度と頼まないだろう、多分、いやきっと。
首がまた痛み出したのか?
いや、枕の設定方法をひろさんに教えてもらってから、痛みは鈍痛に移り変わり、今では顔を左右に大きく動かした時ぐらいにしか痛まなくなっている。
では右下の奥歯が原因か?
初夏の日本旅行の直前に奥歯が欠けて、急いで治療してもらいに走ったのだが、治してもらったすぐ後からなにかまたおかしいまま放っている。
などとくよくよ思い出した。これは危ない。気持ちがどんどん暗闇に同化しようとしている。
やめようと思った。そうしないとまた、あの、ひどい不眠で悩んだ夜中の再現になってしまう。
『どうしてわたしはまだ、ピアノの鍵盤を戻してもらえないでいるのだろう……』
しまった!一番行ってはいけない所に気持ちの手が伸びて、その部屋のドアを開けてしまった。
毎週月曜日になると、今週こそは片をつけようと思い、修理を担当しているマイケルに再度メールを送ろうとか、マイケルとわたしの中に入っている調律師のアルバートに連絡しようとか、旦那にもう一度頼んで、適切な英語でメールを送ってもらおうとか思う。
なのに、気がつくと週末になっていて、心の底で、どうして彼は、我々からのメールに全く答えることもせず、向こうの状況を知らせようともしないのだろう……と不満をたっぷり含ませた煙で怒りを燻製し続けては、行動できなかった自分を呪っている。
鍵盤をマサチューセッツにある彼の工場に送ったのが8月の4日。そしてその時、マイケルから伝え聞いた修理費をチェック(個人小切手)で送るようにアルバートから言われたのだけど、その額をきちんと確認したかったわたしは、マイケル本人に確認のメールを送った。
『すぐにチェックを送りたいのですが、この額で良いのですか?確認ができたらすぐに送ります』
それからまるで彼と連絡が取れなくなった。
鍵盤が無事に届いたのか、仕事に取りかかってもらっているのか、心配でならなかったが、夏のバカンスの時期でもあったので、旦那に落ち着けと言われて我慢した。
結局鍵盤は無事に届いていて、わたしのメールには一切返事をしないマイケルも、旦那のメールには2回ほど返事を送ってきた。
『今取りかかっている』
けれどもそこにも、修理費についての答は無くて、わたしももう何度も尋ねるのがバカらしくなって、多分仕事が全部終わってからでないと修理費の金額を出せないのかもしれないと、自分で自分を納得させたりしていた。
二台ピアノ曲の練習ができなくなって、予定していたコンサートを二度も見送った。パートナーもわたしと同じく待たされていてうんざりしている。
いったいわたしは何を待っているのだろう。何を躊躇しているのだろう。こんなにも怒りをためながら……。
周りが明るくなって起きたらすぐに、チェックを書いてマイケルに送ろう。
多分それが原因だったのだ。金額がどうのこうのと悩んで、それを教えてくれないからと、一向に送ろうとしないわたしがアホだったのだ。
職人としては腕のいいことで有名だけれど、うまく会話ができない人なのかもしれない。
普通、こうしたらああするだろうに……なんて期待を抱いて、それが全く叶わないからと、カッカカッカと怒っている自分がアホなのだ。
チェックを送ろう。
チェックに金額を書き入れ、今回のことで待ち疲れていることを手紙に書いているところへ旦那から電話がかかってきた。
「元気?今なにしてるん?」
「マイケルに払うためのチェックを送るから、それに同封する手紙書いてるとこ」
「なんで?まだ向こうから返事が届いてないのに」
「もう待つのはイヤになった。今朝方もそのこと考えて鬱々としてしもて眠れんかったし」
「けど、向こうが◯◯払ってって言うてきてへんのに」
「もうええねん。言わへん人なんやから。それに、この金額は、鍵盤を送る時にアルバートから聞いた額やから、ほぼ合ってると思うし」
「でも、待った方が」
「もうイヤ!もしかしてこのチェックが原因で仕事が遅れてるか後回しにされてるかもしれへん。最悪、まだ始まってへんかもしれへんねんから!送るったら送る!」
「でも……」
「電話はアルバートが中継ぎせなできひんし、かといってメール送ってもろくに返事してけえへんし、そんなん相手に待ってても意味ないし、なによりわたしがもうこれ以上待ちたくないねん!」
「ちょっと待って。今からボクがマイケルに電話するから。落ち着いて」
え?電話よりメールってずっと言うてたのに……。
……チェックの件は全く原因ではなくて、ただ単純に、すごく忙しくて遅れている、のだそうだ。
あと一週間ほどで仕上がるので、そのあと向こうから請求書を送る、のだそうだ。
とても腕が良くて、鍵盤修理の世界では名が知れている人なのだろうけど、二度と頼まないだろう、多分、いやきっと。