ウィンザー通信

アメリカ東海岸の小さな町で、米国人鍼灸師の夫&空ちゃん海ちゃんと暮らすピアノ弾き&教師の、日々の思いをつづります。

嗚呼むすこ!

2010年11月21日 | 家族とわたし
めちゃくちゃ珍しいことに、今日一日、恭平が家に居た。
一昨日から戻ってきていた拓人は、友達の引っ越しの手伝いをしがてら、もらえる物をいただきに、ロングアイランドまで出かけて行った。
旦那は、マンハッタンでの講習を受けに来ている母親と、親子水入らずの食事をしに、マンハッタンに出かけて行った。
わたしも誘ってくれたのだけど、家の中の、たまっていた仕事を片付けたかったし、久しぶりにきちっと料理もしたかったので行かなかった。

さて、拓人は夕飯の時間に戻ってきそうになかったので、恭平が家に居るか居ないかで、わたしの料理の中身が変わる。
そこでほとんど期待しないまま尋ねると、なんと、一緒に食べると言うではないかっ?!
いそいそと料理を始めた。
料理をする時だけテレビをつけるのでリモコンを押すと、米国版『料理の鉄人』が放映されていた。
なんだかあんまりおもしろくなかったので、チャンネルサーフィンをしていると、いきない日本語が聞こえてきたではないか?!
びっくりして観ていると、それは『呪怨』パート3で、なんのこっちゃない、東京でのシーンの時だけの、ほんの数分の出来事だった。
『呪怨』というと、拓人がまだ高校生だった頃、彼のパソコンのモニターで、拓人は毛布をかぶり、わたしは指で目をほとんど隠しながら、ふたりで観た映画だ。
そしてそれは日本版で、観た後の感じがかなりオゾマシく、しばらくの間は、シャンプー時に目をつむって洗えなくて往生した。
今夜のはハリウッド版。三階から食べに下りてきた恭平に「なんでこんなもん観てんの?」とバカにされながら、せっかくなので最後まで観ることにした。
ところが、あまりにも話の筋がいい加減で、どうして彼が、あるいは彼女が殺されなくてはならないのかも理解できない展開で、
しかも出てくるお化けさん達が、真っ白塗りの、ええと、なんていう舞踏団だっけ……そうそう『山海塾』の方々にそっくり?!
笑うしかないじゃん……。
恭平と久しぶりに向かい合わせで食べながら、ホラー映画を観ながら大笑い。なんだかそれも楽しい母なのであった。

そして……。
ついさきほど、ロングアイランドから戻ってきた拓人。
今日あったことなんかを話し、今週の感謝祭の予定などを確認して、「明日早いし、もう寝るわ」と言って三階に行ったと思いきや、ドドドッとまた下りてきた。
「あかん、仕事の鞄、クイーンズに置いてきてしもた!」
「ほんで?」
「そらもう、帰るっきゃあらしまへん」
「はぁ~?」
慌てて時刻表を調べてみると、数少ない週末の電車なのに、幸運にも最終に間に合うことがわかった。
急いで今日のおかずとご飯をタッパに詰め込み、無理矢理持たせた。
「じゃ、行ってきまぁ~す」

最終電車の時刻は0時10分……どんな時間に行っとんねんっ?!
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遠い道のり

2010年11月21日 | 音楽とわたし
日曜日だというのに、今日しか時間が空いていないアルバートが、ピアノのハンマーの修理をしに来てくれた。
ハンマーはすべて新しいのに替えてもらって、だからそれで問題は片づいたと勘違いしていたのだが、とんでもない、これはほんの始まりなのだった。
ピアノ運送会社のミスで、ハンマーの軸の部分が破損していたのが、今回の修理の始まりだった。
破損部分はもちろん保険でこちらが修理するけれど、ハンマーがもうかなりやられてしまっているので、ついでに直しませんか?という申し出が向こうからあって、600ドルという安い値段だったので、ついお願いしてしまった。
それで戻ってきたのだけれど、なにかおかしい、これではいけない気がする。というのが、見た直後の感想。
そりゃそうだ、ハンマーの頭の部分が、すっきりと一直線に並んでいない。凸凹だけではなく、ハンマーとハンマーの隙間も広かったり狭かったり。

以下はアルバート談。
「こんなお粗末な仕事はなかなか見られないよ。だいたいこのハンマー、どこの会社の製品なのか、その刻印がどこにも無い。こんなのも見たことがない。このハンマーが使い物のなるのかならないのか、それはボクには今の時点ではなんとも言えない」

どんなピアノのハンマーでも、大抵はその刻印が押されていて、その会社によって、ハンマーの質の良し悪しがあって、調整をする時には、その作業がどれだけ面倒なことになるのかが、その会社名によってだいたいの予想がつくのだそうな……。
 
そんなんで、かなり暗い表情だったのだけど、ブログ用の写真を撮らせてと頼むと、少し頬が緩んだアルバート。


長年ピアノを弾いているのだけれど、そしてピアノを作る工程なども、何度も見学したり講習を受けたりしてきたのだけれど、今日のアルバートの説明を聞いて、あらためて、本当に細かい部分の手作りを経て、ピアノという楽器は成り立っていることに気がついた。


小さなネジひとつとっても、その締め具合や角度の微妙な変化で、音の鳴り方がまったく違ってくる。
わたしのピアノのハンマーは、まず真っすぐに上がらないものが何個もあった……。
真っすぐに上がらないので、打つべき3本の弦の2本だけ、あるいは3本をとりあえず打っているけれど、微かに傾いているので、均等に打てていない。
アルバートの説明を聞いていると、途方もなく手間と時間がかかる作業なのだということがわかった。
 
ハンマーの頭を取り外し、角度を少しずつ調整しながら糊付けしていく。そのために軸棒を削ったりもする。


彼の仕事用具の一部。


「結局、本当に良くしたいのなら、一気に全部新しくしちゃうことだね、中身だけ」
「全部って……鍵盤とハンマーと、それから弦も?」
「そう」
「ははは、それができたら悩まないよ」
「ごもっとも」
「で、もし、もしも、万が一そんなことをしたとして、いったいいくらぐらいかかるの?」
「鍵盤だけで多分4000ドル」
「でも、それをやったとして、それが自分の好きな音なのかどうか、その保障は無いんでしょ?」
「う~ん、まうみは音にうるさいからねえ」

そこでアルバートは、急に思い出したと言って、ある女性の話をしてくれた。
彼女は、自分の望んでいる音を出すピアノを探し求めて、文字通り全米を駆け回り、ピアノ店というピアノ店をはしごして、その経過を本に書いたのだそうな。
駆け回っているうちに、望みもどんどんどんどん高いものになっていって、それはもうほとんど見つけるのが不可能だと思われた時、とうとう見つけたのがなんと、ニュージャージーのベートーベン社の店舗だったらしい……なにを隠そう、それがこのピアノのピアノ運搬を引き受けてくれた会社なのだった。
彼女は喜び勇んでそのピアノを買い、自宅に運び入れた。
ところが、家に運ばれたそのピアノは、もはや彼女を喜ばせる音を出してくれなかった。
そこでまたピアノ探しの旅が始まり、とうとうアメリカからヨーロッパの方に遠征したのだそうな。
実はまだ彼女は、本命のピアノと出会っていないらしい。出会ったと思って家に持ち帰ると、なぜか違ったり、すごく近しい音が出て喜んでいても、数日弾くと違ってくるのだそうな。
調律師を何人も替え、莫大なお金を注ぎ込んでも、どうしても出会えない幻のピアノ。

「どうしてそんな話をわたしにするの?似た者同士だから?」
「いや、今日まうみが言ったことがおもしろいと思って」

ひとつだけ、今日の仕事に対するお願いができるなら、この煙に包まれたような音をなんとかして欲しい。

「煙に包まれたっていうのがね、彼女の嫌う音のイメージと同じだったんだよ」なるほど……。

確かに、わたしもピアノの音に対する望みはたくさんある。好きな音というので箇条書きしたとするとかなりの行を要する。
本音を言えば、自分の耳が心地良い音を出してくれるピアノを弾きたい。
まあ、そんなことはピアノ弾きだったら誰でも同じことを思っているに違いない。
けれども、それが叶わないからこそ、日常はなんとか折り合いをつけながら練習して、いいホールのいいピアノを、至福の喜びの中で弾けるのかもしれない。
このカルロス氏のピアノの、一番好きなところは低音の響き。心の奥深くを揺さぶるような、荘厳であたたかな音だ。
アルバートはまた、来週の日曜日に仕事をしに来てくれる。
少しずつ少しずつ、良くなってくれると思うけれど、そのたびに、かなりの費用がかかることになる。

まだまだこれから先も、せっせと蟻のように働かにゃ~!


コメント (4)
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