昨日、わたしが新しい命の誕生を祝いに家を離れている間に、うちと庭続きの家に50年近く暮らしていたピンキーが亡くなった。
おしどり夫婦でこの近所でも有名なピンキーとポールは、わたし達がこの家に引っ越してきたその日から、とても親切に迎えてくれた。
ポールが心臓の手術の途中に、全くの想定外だった危篤になり、すでに難しい癌の末期を迎え、医者から余命数週間と宣告されていたピンキーに見送られて亡くなったのが9月の終わり。
亡くなる当日の午後に、ありがとうを言いに行ったわたしにピンキーは、「こんなになっちゃった彼を見ているのは辛いけど、もうそれも終わるわ。そしてわたしがすぐ後に逝くから、彼はきっとあんまり躊躇しないと思う」と言っていた。
ポールのお葬式が終わり、ピンキーが独り、今まで彼と暮らしてきた家に戻った。
けれども彼女の容態も急激に悪化したので、ポールのために遠くから戻ってきていた娘や近隣の親族が、そのまま彼女の世話のために残った。
家はいつもとても静かで、窓も戸もすべて閉ざされていた。
わたしは今回、さよならを言いに行かなかった。
ポールを見舞った時に、そっと、でもきっと彼女にはわかっただろう「さよなら」を、心の中で言った。
こんなふうに、両親を亡くす人達のことを思った。
うちの向かえの、小さな家の前庭に、売り家のサインボードが立った。
この家の家族も、ずっと長い長い間、ここに住んでいた。
わたし達は多分、この小さな世界の、新旧の入れ替わりの時期に越してきたのだろう。
「ねえ、ずっと誘ってるのに、なんで泳ぎに来ないの?」
水着姿の長身のピンキーが、プールの中に立ち、ちょっと怒ったような顔をして、窓越しにわたしを誘う声が聞こえる。
低めの、ちょっとドスが効いた、けれども優しい声だ。
とうとう泳がずにふた夏が過ぎた。
ごめんねピンキー、ごめんねポール。そのことだけは後悔してる。
おしどり夫婦でこの近所でも有名なピンキーとポールは、わたし達がこの家に引っ越してきたその日から、とても親切に迎えてくれた。
ポールが心臓の手術の途中に、全くの想定外だった危篤になり、すでに難しい癌の末期を迎え、医者から余命数週間と宣告されていたピンキーに見送られて亡くなったのが9月の終わり。
亡くなる当日の午後に、ありがとうを言いに行ったわたしにピンキーは、「こんなになっちゃった彼を見ているのは辛いけど、もうそれも終わるわ。そしてわたしがすぐ後に逝くから、彼はきっとあんまり躊躇しないと思う」と言っていた。
ポールのお葬式が終わり、ピンキーが独り、今まで彼と暮らしてきた家に戻った。
けれども彼女の容態も急激に悪化したので、ポールのために遠くから戻ってきていた娘や近隣の親族が、そのまま彼女の世話のために残った。
家はいつもとても静かで、窓も戸もすべて閉ざされていた。
わたしは今回、さよならを言いに行かなかった。
ポールを見舞った時に、そっと、でもきっと彼女にはわかっただろう「さよなら」を、心の中で言った。
こんなふうに、両親を亡くす人達のことを思った。
うちの向かえの、小さな家の前庭に、売り家のサインボードが立った。
この家の家族も、ずっと長い長い間、ここに住んでいた。
わたし達は多分、この小さな世界の、新旧の入れ替わりの時期に越してきたのだろう。
「ねえ、ずっと誘ってるのに、なんで泳ぎに来ないの?」
水着姿の長身のピンキーが、プールの中に立ち、ちょっと怒ったような顔をして、窓越しにわたしを誘う声が聞こえる。
低めの、ちょっとドスが効いた、けれども優しい声だ。
とうとう泳がずにふた夏が過ぎた。
ごめんねピンキー、ごめんねポール。そのことだけは後悔してる。