ウィンザー通信

アメリカ東海岸の小さな町で、米国人鍼灸師の夫&空ちゃん海ちゃんと暮らすピアノ弾き&教師の、日々の思いをつづります。

♪いつまでもいつまでも♪

2010年11月24日 | 音楽とわたし
元ピアノの生徒のブライアンが、「まうみ!ボクのパートナーになってくれ!」とSOSの電話をかけてきました。
何事かと思って話を聞くと、高校4年生の彼は今チューバという楽器を吹いていて、どうしても入りたいオーケストラのオーディション審査のための、デモテープを作らなくてはならなくて、その曲の伴奏をして欲しい、ということなのでした。
「いいよ~、わたしで役に立てるなら」と言うと、「ありがとありがとありがと!こんなとんでもなく急なことなのに、もうほんとにありがと!」と、受話器の穴から飛び出してきそうな勢いでお礼を言ってくれました。

まだ声変わりもしてなかった頃の、クリクリカールのブロンドヘアの可愛い、とてもハンサムな男の子だったブライアン。
今では背丈が180㎝を軽く超え、髪の毛の色も濃くなり、もちろん声はすっかりオッサン化していますが、やっぱりとてもハンサム。
それにしても……ヒョロヒョロと背ぃたかノッポのブライアンが、でっかいチューバを肩に背負って、自分が運転する車から降りてきたのを見た時にゃ……う~ん……わたしはなぁ~んも変わってないのに(いや、年相応にあっちゃこっちゃ変わってはいるけれど)、若い子ってすごいなあ~としみじみ……。
感謝祭の翌日の金曜日に、モントクレア州立大学のスタジオに行き、そこで本番録音をすることになりました。

チューバ……わたしが高校のブラスバンドでクラリネットを吹き始めた時から、あの低音の響きがとても好きで、あの音に我らクラリネットをはじめとする木管楽器のキャラキャラした音が包まれた時の安心感、なぜだかいつも、どっしりと構えた父ちゃんの温かな膝に乗っかって抱っこしてもらっているような気がしたもんです。

今日は感謝祭の前日ということで、3人の生徒のキャンセルがあり、そこにブライアンとの合わせの練習の時間を入れ、待つこと15分……あれ?来ない……。
電話をすると、お母さんが出て、「もう着いてると思うけど……ウィローストリートでしょ?」
へ?ウィンザーやねんけど……。
ということで、間違った住所を教えてもらったブライアン、おぉ~い、君はどこ走ってるアルかぁ~?
遅れること25分、いやはや、予定の時間がほとんど終わってしもてるし……。

ところが、ラッキーなことに、彼の後に来るはずだった兄妹ふたりの生徒ちゃん達も、もともとレッスンがお休みだと思っていたのか、連絡無しでやって来ず、そいじゃ~ってんでガンガン練習できることになりました。
「困ったね、生徒が来なくて」
「え?よかったやん、生徒が来なくて」
「そりゃボクはよかったけど、まうみにはよくないよ」
「いいのいいの、発表会までえらいこっちゃやったから、こういうのんびりした日が必要やったんやから」
「ゆったりできるのはいいけど、お金が入ってこないじゃないか」
「ブライアン、楽して儲けるなんてこたぁ望んじゃいかんのだよ」
「ごもっとも」

すっかり青年になった元生徒のブライアン、「あのね、ボクはこれから大学に行って、その間もなにがしかの音楽を学び続ける。そして卒業したらね、まうみ、ボクはピアノの生徒として戻ってくるからね。だからここから遠くに引っ越しなんかしないでよ」と言ってくれました。
わたしはこちらに引っ越してから、最初の1年を除いて9年間教えています。これからもきっと、ずっと教えていくと思います。
わたしの生徒達のほとんどは超初心者で、ト音記号のドの音から一つずつ音を覚え、音の種類を覚え、調子記号や表現の記号を覚え、拍子の数え方を覚え、少しずつ少しずつ、専門家となる道からは程遠い趣味の世界ではあるけれど、彼らなりに上手に弾けるようになりました。
全員が普通のアメリカンの子供と同じく、ピアノ以外にもたくさんの習い事をしていて、学校の宿題と運動とでヘトヘトな中、なんとか毎日少しでも練習をする癖をつけるべく、家族と本人とわたしとで何回も話し合いを持ち、いろんなアイディアを試してもらっています。
こちらの子供達は、5才であろうが8才であろうが、自分の気持ちを上手に話すことができるので、あるいはウソをつくのもなかなか上手なので、わたしはいつも、耳の穴と心の引き出しをきれいに掃除しておいて、彼らの話をちゃんと聞かなければなりません。
けれどもそれがなかなかに楽しいのです。
ちゃんとコミュニケーションがとれるよう、相手の話をちゃんと聞くこと、わかってもらえるように工夫して話すことなど、たくさんたくさん学びました。
彼らはわたしの英語の先生で、わたしは彼らのピアノの先生です。
彼らはわたしのアメリカ文化や雑学の先生で、わたしは彼らの人生に、音楽をずっと楽しめる心玉を作る魔術師です。

今までに、引っ越しや進学で、ピアノのレッスンに来られなくなり、ピアノをやめてしまった生徒はたくさんいます。
けれども、その子達全員がそれ以降、なんらかの音楽に関わっているというのが、ささやかなわたしの自慢です。
コメント (10)
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