久しぶりに気功のクラスに行った。
4月の末に、気功と太極拳フェスティバルがあり、気持ちのいい公園に集まり、大勢の人達と一緒に気功をした後、一回クラスがあり、その後、講師のミリアムの家族に不幸があって、そうこうしている間に、今度はわたしが忙しくなり過ぎてずっと休んでいた。
エネルギーを身体の中心に集め、それを手の平や指先、それから足の裏から放出させる。
その動作をしている間に、自分の身体や心の中から、負の要素を外に出すことによって、自己治癒の練習をする。
今日はクラスの終わりに、ミリアムから少し話があった。
彼女はこう言った。
「この三週間の間に、命の終わりとしてはあまりにも唐突な父の死がありました。
もちろん父親の死は悲しいことではあるけれど、今回のことでわたしは、母を亡くした4年前の自分を思い出しました。
イスラエルとここアメリカと、遠く離れて暮らすようになって随分長い年月が経ったにも関わらず、哀しみが思いの外激しくて、たくさんのことを後悔し、一日中そういう感情の中にどっぷり浸かってしまっていました。
自分でも、これではいけないと思うのだけど、どうしても抜け出せず、夫はそんなわたしを随分心配していました。
ある日、イスラエルの姉にメールをしたら、姉がこんなことを言ったのです。
『ミリアム、あなたが悲しんだり後悔したり腹を立てたりする気持ちはわかる。そういう気持ちになるな、なんて言わない。
けれども、どうだろう、時間を決めてみない?そうね、例えば20分だけ、みたいに。
そのかわり、その20分は思いっきり悲しんで、思いっきり後悔して、思いっきり腹を立てるの。本当に思いっきりにね』
その言葉が、なぜかわたしにはストンと腑に落ちて、だんだんと気持ちをコントロールできるようになりました。
感情を抑えろ、とは言いません。
感情はとても素晴らしいものです。
けれども、悲しみや後悔や怒りや恨みの感情は、その人を取り込み、がんじがらめにし、その人の一日をその感情一色に染めてしまいます。
そうなると、その人の周りに居る人、その人の仕事、その人の環境に、じわじわとその負の感情がしみ込んでいきます。
その人の一日がそうやって、陽の光が届かない、深い深い穴蔵の中に沈みこんでいくと、それに巻き込まれた人や動物や物も一緒に沈みます。
人の死は悲しい。親の死は特に悲しい。
けれども、悲しみを一日中感じることをやめ、時間を決めて、たとえば20分、もう少し長い間浸りたければ2時間とか、自分で納得できる時間を決めて、気持ちを大切にしてあげることを覚えると、
これまでとは違ったふうに、死そのものを受け取ることができると、わたしなりに学びました」
その話のすぐ後に、瞑想があった。
瞑想の間中、わたしは原発のことばかり考えていた。
これでは瞑想にならないじゃないか!と自分で自分に注意しても、どうしてもいろんな言葉や考えが浮かんできて止められなかった。
瞑想の後、「まうみ、あなたとクラスの後でちょっと話したいことがあるので残って」とミリアムに言われた。
「どうしたの」
「どうしたのって?」
「瞑想中にあなたが苦しんでいるようだったから」
「……」
「なにか難しいことを抱えているの?」
「日本のことが頭から離れなくて、それでインターネットに費やす時間が急に増えて、でも、だからってわたしはなんの力にもなれない」
そう言った途端に、涙がポロポロとこぼれてしまった。
「わかるわ。だってわたしはイスラエル人だもの。
わたしの国は、問題を抱えていない時が無い。いつも争っていて、同じ国民同士で殺し合いをしたり、国を追われたり、他の国から武力干渉を受けたり、いつもどうしようもなくバカバカしい問題を抱えている。
わたしもね、もうずいぶん前のことだけど、アメリカに暮らしながらそんな祖国をなんとかしたい、と思って、あえいで、苦しんで、努力して、けれども何も変わらなくて、何も変えられなくて、それでくたくたに疲れて悲しくなって、随分夫に心配をかけたことがあった。
だからまうみの今の気持ちが、手に取るようにわかるの」
「でも、わたしは43年も日本に居て、何も知ろうとしなかった。何も知らなかった。知っても多分、何もしなかった。
そのツケを今、小さな子供達が払わなくてはならない。
あんな地震だらけの地面に、あんなにたくさんの原発を建てて、核のゴミだらけにして、それを止めようにも止められない」
「まうみ、世界には、もっと酷い所が数えきれないほどあるの。
9才の子供にライフル銃を与え、人殺しの訓練をしている。
5才の子供に売春をさせて、お金をむしり取っている大人がいる。
この世に生まれても、臓器を売るだけ売って死んでいく子供達がいる。
きれいな水が飲めない子がいる。それどころか食べ物が無くて餓死する子供が大勢いる。
政府に楯突いてデモしたら、すぐに撃たれて死んでしまう国がある。
何人もがそうやって死なないと、デモもできない国がある。
インターネットで言いたいことが言えない国がある。
それに比べたら、日本はとても恵まれている。
なんとか頑張れば、市民が立ち上がれば、殺されずに改革が可能かもしれない。
放射能は、本当は知らないだけで、もう世界のそこら中を汚染している。そうでしょ?
国の頂上に立とうとする人に、正しい人はいない。それがこの世の一番の不幸よね。
正しい人は政治の世界で一番上に立とうなんて思わない。ましてや軍人として人の上に立つ人に、正しい人など絶対にいない。
だからこそ、世界はこんなにいつも混沌としているのだと思う。
正しいことをしようとするのはいつも市民の側で、それを正しくない連中にさせるためには、ものすごく大きな力がいるの。
そのものすごい力はいつも、まうみのような、たったひとりの人から始まるのよ。
だから、あきらめないで。飽きないで。長い闘いを覚悟して頑張らなくてはならないのだけれど、
さっきわたしが言ったこと、それを守らなければ闘ってはいけない。
時間を決めなさい。
あなたが怒りを感じる日本の政治家や学者、その他のいろいろなことを考えるのは、◯分、あるいは◯時間だけ。そう決めなさい。
そうしないと、ビルが困っているわ。
怒りにまみれたまうみを、どうしたものかと心配しているはず。
もう当分、今までの穏やかな、ふたりの時間を持てないのかと、がっかりしているはず。
まうみは多分、ふたりの時間もちゃんと作っていると思っているかもしれないけれど、
それはきっと、そうしなければならないから作ってあげている、そんな気持ちでいるはずで、それは彼にもちゃんと伝わってしまっているの。
こんなことを続けていると、きっとおかしくなってしまう。
あなたはあなた自身をしっかりと守り、あなたらしい今までの生活を保たなければならないの。
そうやって心と体を鍛えて、強い人にならないと、他の人なんて助けられない。
弱っている人は、他の誰も支えられないし助けられない。そうでしょ」
泣きたい時はワアワア泣け。
怒りたい時は石っころを掴んで、どこか当ててもいい所にぶつけまくれ。
思いっきり泣いたり怒ったりした後は、そんなこと無かったかのように、いつものあなたに戻って、いつもの生活を送りなさい。
ありがとうミリアム。お父さんをたったの2週間で亡くしてしまったあなたに、心からお悔やみと感謝の意を捧げます。
そしてわたしは、旦那と相談して、だいたい何時間だと適切か、という数字をふたりで出そうと思います。
旦那に甘え、自分に甘えて好きなように、感情にまかせて過ごした時間を償うためにも。
4月の末に、気功と太極拳フェスティバルがあり、気持ちのいい公園に集まり、大勢の人達と一緒に気功をした後、一回クラスがあり、その後、講師のミリアムの家族に不幸があって、そうこうしている間に、今度はわたしが忙しくなり過ぎてずっと休んでいた。
エネルギーを身体の中心に集め、それを手の平や指先、それから足の裏から放出させる。
その動作をしている間に、自分の身体や心の中から、負の要素を外に出すことによって、自己治癒の練習をする。
今日はクラスの終わりに、ミリアムから少し話があった。
彼女はこう言った。
「この三週間の間に、命の終わりとしてはあまりにも唐突な父の死がありました。
もちろん父親の死は悲しいことではあるけれど、今回のことでわたしは、母を亡くした4年前の自分を思い出しました。
イスラエルとここアメリカと、遠く離れて暮らすようになって随分長い年月が経ったにも関わらず、哀しみが思いの外激しくて、たくさんのことを後悔し、一日中そういう感情の中にどっぷり浸かってしまっていました。
自分でも、これではいけないと思うのだけど、どうしても抜け出せず、夫はそんなわたしを随分心配していました。
ある日、イスラエルの姉にメールをしたら、姉がこんなことを言ったのです。
『ミリアム、あなたが悲しんだり後悔したり腹を立てたりする気持ちはわかる。そういう気持ちになるな、なんて言わない。
けれども、どうだろう、時間を決めてみない?そうね、例えば20分だけ、みたいに。
そのかわり、その20分は思いっきり悲しんで、思いっきり後悔して、思いっきり腹を立てるの。本当に思いっきりにね』
その言葉が、なぜかわたしにはストンと腑に落ちて、だんだんと気持ちをコントロールできるようになりました。
感情を抑えろ、とは言いません。
感情はとても素晴らしいものです。
けれども、悲しみや後悔や怒りや恨みの感情は、その人を取り込み、がんじがらめにし、その人の一日をその感情一色に染めてしまいます。
そうなると、その人の周りに居る人、その人の仕事、その人の環境に、じわじわとその負の感情がしみ込んでいきます。
その人の一日がそうやって、陽の光が届かない、深い深い穴蔵の中に沈みこんでいくと、それに巻き込まれた人や動物や物も一緒に沈みます。
人の死は悲しい。親の死は特に悲しい。
けれども、悲しみを一日中感じることをやめ、時間を決めて、たとえば20分、もう少し長い間浸りたければ2時間とか、自分で納得できる時間を決めて、気持ちを大切にしてあげることを覚えると、
これまでとは違ったふうに、死そのものを受け取ることができると、わたしなりに学びました」
その話のすぐ後に、瞑想があった。
瞑想の間中、わたしは原発のことばかり考えていた。
これでは瞑想にならないじゃないか!と自分で自分に注意しても、どうしてもいろんな言葉や考えが浮かんできて止められなかった。
瞑想の後、「まうみ、あなたとクラスの後でちょっと話したいことがあるので残って」とミリアムに言われた。
「どうしたの」
「どうしたのって?」
「瞑想中にあなたが苦しんでいるようだったから」
「……」
「なにか難しいことを抱えているの?」
「日本のことが頭から離れなくて、それでインターネットに費やす時間が急に増えて、でも、だからってわたしはなんの力にもなれない」
そう言った途端に、涙がポロポロとこぼれてしまった。
「わかるわ。だってわたしはイスラエル人だもの。
わたしの国は、問題を抱えていない時が無い。いつも争っていて、同じ国民同士で殺し合いをしたり、国を追われたり、他の国から武力干渉を受けたり、いつもどうしようもなくバカバカしい問題を抱えている。
わたしもね、もうずいぶん前のことだけど、アメリカに暮らしながらそんな祖国をなんとかしたい、と思って、あえいで、苦しんで、努力して、けれども何も変わらなくて、何も変えられなくて、それでくたくたに疲れて悲しくなって、随分夫に心配をかけたことがあった。
だからまうみの今の気持ちが、手に取るようにわかるの」
「でも、わたしは43年も日本に居て、何も知ろうとしなかった。何も知らなかった。知っても多分、何もしなかった。
そのツケを今、小さな子供達が払わなくてはならない。
あんな地震だらけの地面に、あんなにたくさんの原発を建てて、核のゴミだらけにして、それを止めようにも止められない」
「まうみ、世界には、もっと酷い所が数えきれないほどあるの。
9才の子供にライフル銃を与え、人殺しの訓練をしている。
5才の子供に売春をさせて、お金をむしり取っている大人がいる。
この世に生まれても、臓器を売るだけ売って死んでいく子供達がいる。
きれいな水が飲めない子がいる。それどころか食べ物が無くて餓死する子供が大勢いる。
政府に楯突いてデモしたら、すぐに撃たれて死んでしまう国がある。
何人もがそうやって死なないと、デモもできない国がある。
インターネットで言いたいことが言えない国がある。
それに比べたら、日本はとても恵まれている。
なんとか頑張れば、市民が立ち上がれば、殺されずに改革が可能かもしれない。
放射能は、本当は知らないだけで、もう世界のそこら中を汚染している。そうでしょ?
国の頂上に立とうとする人に、正しい人はいない。それがこの世の一番の不幸よね。
正しい人は政治の世界で一番上に立とうなんて思わない。ましてや軍人として人の上に立つ人に、正しい人など絶対にいない。
だからこそ、世界はこんなにいつも混沌としているのだと思う。
正しいことをしようとするのはいつも市民の側で、それを正しくない連中にさせるためには、ものすごく大きな力がいるの。
そのものすごい力はいつも、まうみのような、たったひとりの人から始まるのよ。
だから、あきらめないで。飽きないで。長い闘いを覚悟して頑張らなくてはならないのだけれど、
さっきわたしが言ったこと、それを守らなければ闘ってはいけない。
時間を決めなさい。
あなたが怒りを感じる日本の政治家や学者、その他のいろいろなことを考えるのは、◯分、あるいは◯時間だけ。そう決めなさい。
そうしないと、ビルが困っているわ。
怒りにまみれたまうみを、どうしたものかと心配しているはず。
もう当分、今までの穏やかな、ふたりの時間を持てないのかと、がっかりしているはず。
まうみは多分、ふたりの時間もちゃんと作っていると思っているかもしれないけれど、
それはきっと、そうしなければならないから作ってあげている、そんな気持ちでいるはずで、それは彼にもちゃんと伝わってしまっているの。
こんなことを続けていると、きっとおかしくなってしまう。
あなたはあなた自身をしっかりと守り、あなたらしい今までの生活を保たなければならないの。
そうやって心と体を鍛えて、強い人にならないと、他の人なんて助けられない。
弱っている人は、他の誰も支えられないし助けられない。そうでしょ」
泣きたい時はワアワア泣け。
怒りたい時は石っころを掴んで、どこか当ててもいい所にぶつけまくれ。
思いっきり泣いたり怒ったりした後は、そんなこと無かったかのように、いつものあなたに戻って、いつもの生活を送りなさい。
ありがとうミリアム。お父さんをたったの2週間で亡くしてしまったあなたに、心からお悔やみと感謝の意を捧げます。
そしてわたしは、旦那と相談して、だいたい何時間だと適切か、という数字をふたりで出そうと思います。
旦那に甘え、自分に甘えて好きなように、感情にまかせて過ごした時間を償うためにも。