福島県の南端にある、東白川群鮫川村。
人口4千人足らずの小さな村です。
福島県内では、比較的空間線量が低い地域で、年間1ミリシーベルトを超す地域は2割ほど。
その村のはずれに建設中の焼却炉が、今、大きな問題となっています。
本来なら、1月に稼働する予定だったこの焼却施設、環境省が計画したもので、
1キロあたり8000ベクレル以上の落ち葉と、それよりも汚染の低い牧草や立木などを混ぜて焼却し、
8000ベクレル以上の汚染物質を減らすことを目的としています。
- 仮設焼却炉工事現場 -
小さいんですね。
小さいですね。わたしが経験した中でも一番小さいですね。
排気は、する?
煙突で。
この上に?
何メートルぐらい?
6メートル。
いや、6メートルなんてのは、ものすごい低いですよ。
あのノリ面が4メーターぐらいですから。
なんか、家庭用の焼却炉みたいな感じですね。こんなこと言ったらなんだけど。
いや、そうです、昔の小学校にあった焼却炉、あれを発想していただければ。
避難区域ではなく、人が暮らしている地域に新たな焼却炉を造り、8000ベクレル以上の汚染物質を燃やすのは、世界でも初めてのこと。
環境省は、高濃度の放射性セシウムを焼却しても、バグフィルターで除去されるため、煙突からは放出されない、としています。
しかし、事例は少なく、フィルタ-に穴が空く事故も報告されています。
今回の焼却炉は小型なため、環境アセスメントなどもせず、住民説明会も開きませんでした。
環境省は、事業者を決める入札の仕様書に、
『焼却施設の入り口の公道から、焼却施設(煙突含む)が見えないように設計すること』という記載をしているため、
住民は、不信感を募らせています。
鮫川村の豊かな自然に魅了され、静岡から24年前に移住してきた、進士徹さん。
ここで(鮫川村運動場)、自然学校を開いています。
原発事故以降は、放射能の影響で、屋外で自由に遊べない子ども達のために、保養プログラムにも取り組んでいます。
あぶくまエヌエスネット・進士徹さん:
もうとにかく、夏、冬、春休みの長期の期間の時に、線量の全く心配の無い所で、子ども達の笑顔と元気を取り戻して欲しいっていう、
まあ、そんなことで、起こした事業なんですけども、はい。
郡山から車で2時間。
福島県内に在りながら、放射線量の低い鮫川村は、子ども達にとって負担の少ない保養先です。
質問:
焼却が始まったらどうしますか?
進士さん:
施設が稼働するっていうこと自体、自然と土と、そういったメッセージを、子供から大人の人に伝えてきましたので、
稼働した時点で、危険な物が目の前にあり、そういう環境ではもう(事業は)続けられないです。
工事が始まって1ヵ月。
鮫川村で、ようやく説明会が開かれました。(12月25日 鮫川村住民説明会)
建設予定地から1.5kmの住民:
「放射性廃棄物を、なぜ焼却をしなければならないのかというところの説明をしていただきたいと思います。
チェルノブイリでも焼却は厳禁、とされています。
放射性廃棄物を焼却することによって濃縮されます」
原田久光課長補佐(環境省 指定廃棄物チーム):
「今、処分場ひとつ決めるのに非常に苦労しておりまして、じゃあ何年間、限られた資源である処分場を、もしくはこれから作るべき処分場でいかに置いておくかということで、必要なもの、というふうに考えております。
焼却処分は必要と」
質問:
なぜ新たに、小型の焼却炉を作るのか?
原田課長補佐(環境省 指定廃棄物チーム):
基本はまず、既存の施設を使う。
ただ、既存の施設でなかなか受け入れられない時にどのように行うか、ということで、
それぞれの市町村単位、もしくは広域でもけっこうですが、そういう所で焼却を行う。
土手内進さん(鮫川村青生野在住”建設予定地”):
放射能の高い◯を運んで、そこで燃やす。その煙が出る。
今わたしら、7ヵ月になる娘がいて、子供に対しても安全なのか、そうでなければ、それをわたしの近くの施設に、そういった物を運ばないで欲しい。
別の市民:
この計画って、◯◯とかもできないんですかね。
大樂勝弘村長:
私はこの事業をさせていただきたい。
えー、こういったそのー、財源が乏しい、財源が乏しい村だから、あー、環境省のお世話になってやりたいんだと、
そうじゃなくて、農家の皆さんに、自信を持って、一日も早く、鮫川村の環境に戻して、意欲的な農業に取り組んでもらいたい。
女性:
今回も、実証実験施設ですよね。
安全性が確認されているのはなぜでしょう?実験施設なのに。
原田課長補佐:
安全性が確認されているところを実証すると、ですから、焼却して、皆さんにお見せすると、
ちゃんと排ガスも、安全に処理されている、で、放射能も漏れていないと、
そういうことをですね、実際に事実規模の物で見ていただくと、いうための事業です。
ただ、実際やるわけですから、もし新たな有用なデータが出ればということで、取らしていただく、いうことです。
いったいなぜ、この小さな村に、焼却炉が誘致されたのでしょうか?
鮫川村はもともと、畜産が盛んな町です。
ところが、原発事故により稲わらが汚染、牛の飼料を時給できなくなりました。
村は、牛の飼料を海外から輸入し、無料支給することを決定、その取り組みは県内でも注目を集めました。
ところが、無料支給を始める初日、農林水産省と、なぜか、環境省の職員が村を訪問。
飼料の無料支給について、問題視するような発言があったといいます。
大樂勝弘村長:
環境省と農林水産省の畜産振興の皆さんが来て、はたしてその、自治体でこういった餌の無償給付やる、行政がやる仕事なのか、
それともその、皆さん、畜産協同組合なんていうグループが、上部団体があるわけだから、こういった所にお任せするのが筋ではないのかって、
こういった問い合わせに来たんですね。
環境省はその席で突然、焼却実験炉の話を持ちかけたのです。
大樂勝弘村長:
環境省の皆さんは、そういった、汚染物質の処理をする担当の皆さんだったんですね。
それで、そういったことでなにか、鮫川村にお手伝いできることはありますかって、そんなお尋ねがあったの。
環境省が焼却炉を村に設置してくれるんだって、そういう思いでわたしは捉えてたから、とても安全だってことがまあ、7割から8割、インプットされちゃったってことかね。
北村孝至さん(建設地から1.5kmの塙町在住):
で、ここにその、ヤマネがけっこういるんですね、うーん、天然記念物の。
まあその他、タヌキもいっぱいいるし、それからフクロウなんかもいるし、ええ、いろんな動物が出てきます。
だからこういう所はね、やっぱりこれ以上汚してはいけないっていうふうに思うんですけどね。
今回の実証実験には、もうひとつの問題があります。
焼却灰を1キログラムあたり、10万ベクレル以下に抑える実験を行い、
中間貯蔵施設ができるまで、敷地内に埋め立てることになっているのです。
しかし、こうしたガレキを移動させる中間貯蔵施設は、目処が立っていません。
建設予定地は、いわき市、塙町、北茨木市の境界付近にあります。
埋め立て地のすぐ脇は、いわき市の水道水の源流になっています。
いわき市では、2月14日(今年)、初めて説明会が開かれました。
いわき市住民説明会
市民:
「いわき市の要請があったから、説明会を開いた、とおっしゃいましたね。
じゃあ、いわき市の要請が無ければ、説明会は開かないつもりだったんですか?
その認識でよろしいでしょうか?
私たちは、放射能に冒されて、今大変な危機の状態にありながら、環境省はその程度の認識で、焼却炉を作って、
近隣の市町村には、言われないうちは何もしないという、そういう態度だったんですか?
こんな大事な焼却所を作る時に、水がどこに流れるか、皆さんわかるでしょう?
たったひとつの村の問題じゃないじゃないですか」
高沢哲也計画官(環境省指定廃棄物対策チーム):
「えっとあのー、これはですね、周辺の方々から、実際に環境省の方とかでも、ご要望とかおみえになりましたけれども、
それだけのお声になっているところが、やはりあのー東京におりまして、なかなかあのー感じない中でっていうのは現実としてあります」
建設予定地の、鮫川村の青生野地区から駆けつけた、土手内進さんです。
土手内進さん(建設予定になっている鮫川村青生野在住):
「青生野地区72戸中、48戸が、白紙撤回という形で、大樂市長の方に出させてもらいました。
◯◯当庁(?)との会話の中で、これだけの声が上がるとは思ってなかった、とおっしゃいましたね。
このような中で稼働させることはない、事業自体を取りやめてもいいと。
違う方向性を見つけようと、そういった回答をいただいたつもりでいます、自分としては」
大樂村長
「見直すんではなくて、皆さん方の不安を払拭しないうちは、皆さんが安全な焼却炉と確認しないうちは、わたくしは、火は入れないですよ、そういうお話をさせていただきました。
ですから、しっかりとこれから、この焼却炉の安全性を訴えて、皆さんの同意をいただきたいと考えております」
いわき市民が、5495筆の、工事中止を求める署名を提出。
「7千名近い方が、署名を寄せてるんです。
お願いいたします。
鮫川村の村長さんも、ご自分の村のことだけではなくて、近隣の住民がみんな心配しているのだということを、どうぞ心して、お願いいたします」
質問:
つまり、不安の声がこれだけ上がっているような説明会になりましたが、持ち帰って検討するということは、事業の説明方に対して、なんらかの形で留まるっていう可能性も含まれてるってことなんでしょうか?
高沢哲也計画官(環境省指定廃棄物対策チーム):
まああの、工事はもう始まっていますので、それをあの、慎重に進めていく、ということしかないと思いますけれども。
隣接しながらも、全く説明がされてこなかった北茨城市では、2月9日、住民説明会が行われ、豊田稔市長は、
「理解が得られるまでは、焼却施設の建設を中止するのが当然だと思う」と、環境省に迫りました。
環境省はこれを受け、2月9日に、工事一時停止を決定。
しかし、工事を中止していることは、メディアに対しても、近隣住民に対しても、公表しませんでした。
副大臣・大臣政務官記者会見
質問:
工事を止めているっていう発言を、全くしてなかったと思うんですけど、それはどうして隠していたんですか?
9日から工事を停止しているっていうのを知ったんですけど、どうしてそれを公表しないで、説明会とかをどんどんやってるんですかね?
原田久光課長補佐(環境省指定廃棄物チーム):
いや、あえてするかどうかっていうことは、特に無いと思いますが、皆さんご承知のことですので。
質問:
地域の人はもう知っているという判断ですか?
原田久光課長補佐:
あの、まあ、すぐ見ればわかることですので、あえて……。
質問:
まあ、工事が止まっていて、これからどのような段階を踏んで、工事を再開させていきたいかっていうのをちょっと。
秋野公造(環境省大臣政務官):
私たちはあの、指定廃棄物の処理のために、仮設焼却炉は必要な物だと考えておりますので、
できるだけ理解を得て、前に進めたいと考えています。
環境省は、中間貯蔵施設や最終処分場の計画が進まない中、鮫川村での実験を成功させ、
この小さな焼却炉を、福島県内の市町村ごとに、設置したいと考えています。
工事再開の見通しがたたない中、2月29日、重機が撤去された。