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太田光『トリックスターから、空へ』

2007-02-20 16:58:34 | ノンジャンル
 本人曰く「色物」の太田光のエッセイ集「トリックスターから、空へ」です。「色物」の書いた本にしては、本の題名カッコよすぎですが‥‥。
 超まじめな、おふざけ一切なしの、率直な3~4ページのエッセイが68編。率直さが強く現れているのは、例えば『従順』。イラク人質事件のバッシングに対し、「自衛隊の撤退が人質解放の条件であるならば、それを国家に要求することは(人質の)家族として当然のことではないのか。」「国家がその国民を守るのは当然の義務である。」あるいは、『覚悟』。同じくイラク人質事件の自己責任論に対し「政府は自衛隊を派遣するにあたって、サマワが安全でだということをどれだけ強調してきたか。その同じ政府が今度は『あれだけ危険だと言っただろう』と言うのである。」と政府のダブルスタンダートを切り、人質だった高遠さんの「いろんなことがあったけど、イラク人を嫌いになれない」という言葉と政府の対テロの闘いの「覚悟」の違いを鋭くついています。ここでは、すべてが正論で、正面きって論じられています。
 また、真面目に論じる、という点では、例えば「伝える」。栃木リンチ殺人事件で、殺された青年は最後に「生きたまま埋めるのかなぁ、残酷だなぁ」と言ったそうです。この時、彼は両親が彼を探していることを知っていて、両親が彼を救おうとしている、という事実だけが両親から彼に伝わっていたことになります。逆にそれ以外、両親から警察へ(両親の度重なる全身の命乞いを警察は遮断し続けた)、青年から犯人へ、という関係では何も伝わりませんでした。この事実から、著者は何かを伝えようとしている人に耳を傾ける態度の大切さを説きます。また『併せ持つ』では、本「国家の品格」を評価しつつ、あの本が取りこぼした部分(これを著者は「理想」を「野暮」と笑う客観性だとしている)を意識し、それらを「併せ持つ」ことが大切だと言っています。
 もちろん、こうしたエッセイ以外に、太田夫婦の変わった生活を描いた「ある夜の話」とか、著者が大学生の頃、いかにおかしな人間だったか、が分かる「二十歳の頃」など、笑えるものもありますが、あくまでそれは少数派であって、割に政治的発言が多いのが特徴だと思います。
 「世の中、間違ってんじゃないの?」「このまま進んでいっていいの?」とお思いのまじめに世の中のことを考えている方には、ぜひ読んでいただきたい本です。