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佐藤多佳子『サマータイム』

2007-03-13 20:17:59 | ノンジャンル
 今日の佐藤多佳子作品は、中編の「サマータイム」と「五月の道しるべ」2編を収めた「サマータイム」です。
 「サマータイム」では、夏休み、天気の悪い日にプールに行った進は、左手が義手で2才上の広一と出会い、雨の中でぬれねずみになった二人は広一の家で暖をとります。広一の話では、母はジャズピアニストで、広一が母の演奏で一番好きな「サマータイム」を右手だけで弾いてくれます。また、広一の左手は事故で失い、その事故で父が死んだことも話してくれます。
 後日、進が広一の家を訪ねていくと、彼の母・友子がピアノを弾いていました。彼女の話では、先日雨に濡れたことで肺炎を起こして広一は入院しているとのことなので、彼女と進と、病院に行く途中で会った進の姉の佳奈がお見舞いに行き、病室で友子が「サマータイム」を口づさみます。
 夏最後の日、進は広一を自宅に招き、佳奈が作ったゼリーの失敗作を3人で食べますが、空色のゼリーから海を思い、「夏が終ったね」と佳奈が言い、広一は「サマータイム」をピアノで弾きます。
 佳奈は広一が自転車に乗れるように練習を始め、進は広一を姉に取られたようで嫉妬します。秋になって、佳奈は広一を「いくじなし」となじり、イライラから進の自転車をぶっこわし、二人はそれ以後会わなくなります。進は広一の影響からピアノを始め、高校ではジャズ研に入り、「サマータイム」に再会し、無性に広一親子に会いたくなります。
 そんなある日、大人っぽくなった広一が訪ねてきます。進がピアノを弾くというと、彼はすごく喜びます。そして佳奈をうしろに乗せて広一は右手だけで自転車をうまく漕いで行き、それを見ていた進の頭の中には「サマータイム」のメロディが響き出すのでした、という話。
 「五月の道しるべ」では、小学生の佳奈の家にピアノが届きます。佳奈はその大きさに恐怖を感じ、一目で嫌いになります。弟の進は誕生日に彼が一番ほしがってた自転車を買ってもらい、佳奈は差別を感じます。ピアノはキッチンの横に置かれたので、常に母の監視のもと、佳奈はピアノの練習をし、進の好きなアニメの時間に合わせて練習し、嫌がらせをしてやります。
 五月になり、胸がわくわくしだした佳奈は、進にこれからは自分のことをカーナと呼ぶようにさせます。ある日、学校からの帰り、つつじが見事に咲いているところを見つけ、思わず花をちぎって蜜を吸い、線上に落ちた花びらを見て、自分の家までの道しるべを花びらで作ろうとしますが、たまたま通りかかった進の自転車に轢かれて、台なしになります。進に明日までに元通りにしろ、と命令し、家に帰って風呂に入っていると、いきなり進がばらばらにちぎられたつつじの花びらを風呂場じゅうにまき散らします。始めは驚いた佳奈でしたが、進がセロテープとセメダインで花びらを元通りにしようとしていたことを知り、花びらを頭に乗せた自分を「5月のつつじのカーナよ」と宣言するのでした、という話。
 もうお分かりのように、昨日ご紹介した2編と今日の2編は佳奈と進の姉弟、ジャズピアニストの母・友子と左手が義手の息子・広一らの登場人物や起こる出来事が共通しており、語り手が、「サマータイム」では進、「五月の道しるべ」では佳奈、「九月の雨」では広一、「ホワイト・ピアノ」では再び佳奈、と各話で異なっています。こうした試み自体面白いと思いました。また、登場人物の語り、反応が非常に素直で、ストレートにこちらに訴えて来るのも特徴の一つだと感じました。単行本では2編ずつの2册ですが、文庫本では4話が1冊にまとめられていてお得です。もし興味をお持ちの方がいらっしゃったら、文庫本「サマータイム」をオススメします。