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木皿泉『昨夜(ゆうべ)のカレー、明日(あした)のパン』その2

2015-01-20 10:52:00 | ノンジャンル
 昨日の続きです。
 結局、その日、台風は大きくそれた。岩井さんがつくった焼きそばを二人は食べた。岩井さんは、エジプトの砂漠の真ん中で車を降ろされ、それでもフツーに歩いていた自分を見て、驚いた相手が引き返してきた話をして、「オレ、麻痺しちゃってるのかな」と言った。
 岩井さんの家を出ると、ギフからメールが届いた。「ムムムの件ですが、タカラジェンヌはどうでしょう。小田宝が本名です」台風はそれたとは言え、風はまだまだ強かった。虫カゴが風に舞って飛んでいくのが見えた。テツコは、虫をとらえるはずの虫カゴが空を飛んでゆくのを見て、わけもなく気持ちが明るくなった。ギフから、またメールが届いた。「今日は、台風がおさまったから、予定通り寿司屋にでかけましょう」テツコは、思い当たることがあって一人で笑い出した。駅前に新しくできた寿司屋の名前は、たしか「雷寿司」だった。ギフは、カレンダーの稲妻の絵を「雷寿司の日」だと思い込んでいたのだ。虫カゴはどこかへ飛んでいってしまった。それは、たぶん誰も思いも及ばない場所で、そういう場所が、まだきっとあるのだと、テツコは思った。
 『パワースポット』 航空会社の客室乗務員のタカラが、末期ガンのカズちゃんを見舞った後、母からカズちゃんが亡くなったことを知らされ、修学旅行のおみやげにカズちゃんにあげた、雪だるまがスキーしている人形はどうなってしまったんだろうと考える。中堅になった仕事は楽しくなく、ある日突然、笑うことができなくなり、神経クリニックの帰り、笑いが止まらなくなって産婦人科医を辞めたというサカイくんに会い、バイクの事故で正座ができなくなり、住職を辞めた深チンの話を聞き、「3人で、パワースポットでも行く?」と言われる。タカラは仕事を辞め、29才になって実家に戻り、昼間は家にこもり、夜に出かけるようになると、ある晩、カズちゃんのお父さんが流星群を見ているのに出会う。お父さんにカズちゃんが空から見ていると信じてもらえば、自分も救われると思ったタカラは、カズちゃんの形見として雪だるまの人形を求める。それはカズちゃんのお嫁さんの徹子さんからの手紙とともに届けられ、「一樹が残していったものは、案外たくさんあるかもしれないことに気づかせてくれてありがとう」と書いてあった。タカラは後輩に、勤務中はその人形を持っていてほしいと頼み、カズちゃんのお父さんを呼び出し、あの飛行機にカズちゃんが乗ってると言うと、お父さんは「おーいッ! 一樹ッ!」と叫ぶ。そして「一樹がよく言っていた。あれにタカラが乗ってるかも、って。いい名前だな、タカラ。オレ、くたくたになるまで生きるよ」と言い、「私も、くたくたになるまで生きていていいですか?」というタカラに、「見ててあげるよ」と言ってくれた。タカラはサカイ君にまた出会うと、彼は深チンと3人で「パワースポット」という惣菜屋をやろうと言う。タカラは何だか嬉しくて、気がつくと心の底から笑っていた。
 『山ガール』 定年後の趣味を探していたギフは、テツコに友人の32才の山ガールの里子を紹介される。山歩きは思った以上に気持ちのいいもので、頂上で里子に勧められるままにビールを飲み、里子は婚約者にふられた過去を語ると、ギフは「目の前から消えちゃったんだから、死んだのと同じ」と言う。しかしビールの飲み過ぎで、ギフは帰りの途中で歩けなくなり、里子はギフを背負っていくと言う。その首筋を見たギフは、そこから彼女の覚悟を感じた瞬間、力が戻る。それはパチンコにはまっていた時、包丁を自分に渡し、「賭け事をやめられないんなら、私の首を刺せ」と背中を向けた時の妻の首筋を思い出させたのだ。里子は、自分が山登りする理由が、誰かと生死を共にしたかったのだと分かる。「あーあ、また明日から仕事か」と言う里子に、ギフは「いつ誰かと事故に巻き込まれるかもしれない。すでに知らない誰かと生死を共にしている」と言い、「じゃあ、私をふった奴とも共に生きてるんですか」と里子が言うと、ギフは「見えなくても、いるんです」と言い、里子もあの男と共に生きていく覚悟をつける。帰宅したギフはテツコに「オレたちってさ、生死を共にしてんだよなぁ」と言い、テツコは銀杏の実を割りながら、その合いの手のようにギフが唸り声を風呂で上げるのを「これが生死を共にするってことなのかな」と笑った。(また明日へ続きます……)

 →Nature Life(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto/