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木皿泉『昨夜(ゆうべ)のカレー、明日(あした)のパン』その4

2015-01-22 10:15:00 | ノンジャンル
 昨日の続きです。
ある日、突然涙が止まらなくなった。連太郎だったらどうしよう、絶対イヤだと思い、連太郎の家に向かったが、留守だった。夕子は会社でチビチビと仕事をしている自分こそ、一番見すぼらしいと思った。ふいに、連太郎の家の銀杏の実を拾い集めて、洗っている自分の姿が見え、突然涙が止まった。条件反射的に「死んだ」と確信したが、その時、連太郎が家に入ってきた。夕子を見て驚いている連太郎に「死んだかもしれないって、思ったもんですから」と夕子が言うと、連太郎は「実は、昼間、ちょっとそんなこと考えました」と答えた。座敷から見る銀杏の木は、とても様になっていて、変わらないものが、ここにはあると、夕子は自分の心が安らいでゆくのがわかった。夕子は「私ここで暮らしていいですか?」と言い、連太郎は「夕子さんのせいで誰か死んでいる訳ではない、単なる能力なのだ」と言い、それを聞いた夕子は、気持ちが少し楽になった気がした。夕子は寿退社した。結婚した次の年に、男の子を産んだ。庭にある一本の木のような人になってほしいと、一樹と名付けた。夕子は家事をするだけで十分に幸せだった。それが連太郎の仕事の都合で、東北の方へ一家で移り住むことになってから、気持ちがどんよりとしはじめた。連太郎はパチンコにのめり込むようになった。そして家を売ってマンションを買おうと連太郎は言い出し、夕子は深く絶望して、「パチンコをやめられないなら、私を刺して下さい」と言って包丁を差し出した。夕子のうなじをじっと見つめていた連太郎は「もうやらないよ」と言い、それ以来パチンコを止めた。夕子は、その後、ほとんど泣かなかったが、一度だけひどく泣き続けたことがあった。関西でひどい地震が起こったと聞くと、夕子はようやく泣き止んだ。やがて夕子は不治の病にかかり、自分が、あんなに泣いたのは、死んでゆく誰かを慰めるためだったと分かった。私は、ここに来てよかったんだよね。加藤さんの言葉がよみがえり、言う通りだったと、幸せな気持ちになった。
『男子会』 岩井のアパートにギフが突然訪ねてきた。ギフは大量の水のダンボールを玄関に運び込み、家出をしてきたと言い、泊めてほしいと言う。会社でテツコに尋ねてみると、女の人のところへ行ったみたいだと言った。家に帰ると、家具の入った箱がいくつか増えていた。ギフが言うには、書道教室で知り合った30代後半の女性が北欧の家具の店をやっていて、温泉に誘われ、そこで女は突然、さめざめと泣き出し、「このままじゃ倒産する」と言い、ギフが金を貸そうか?と言うと、じゃあ家具を買って下さいと言われたらしい。配送先を自宅にする訳にはいかず、とっさに岩井の住所を書いてしまったのだとか。女はギフを連れて温泉をすぐに出て、自分の事務所に行き、ギフに水を買ってきてほしいと言うと、そのまま姿を消してしまったのだと言う。寝る場所がなくなった岩井とギフはギフの家に行き、テツコにはギフが一時的に記憶喪失を起こしたということにして、岩井はギフの家に泊まり、テツコがこの生活を失いたくないので、この家に居続けているのだと分かった。家具は岩井の友人たちが買ってくれ、岩井は自分のアパートに戻ると、またギフがやって来て、今度はテツコが家出したと言う。一樹の従兄弟の虎尾に聞いて、一樹のお骨を返しに行ったことは分かった。そこへテツコがやって来て、京都に行って、ギフとテツコが使っているのとおそろいの茶碗を買ってきたと言う。テツコは「一樹は死んだってことでもういいよね」とギフに言い、ギフは、うんうん、とうなずいた。「一樹もそれでいいと言っている」とテツコは続けた。それから岩井は茶碗を持ってギフの家をしばしば訪ねるようになった。どこへ行くのかわからないけど、それでいいと岩井は思った。
『一樹』 「明日のパン、買ってきて」と夕子に言われ、一樹は顔をしかめた。自分で行けばいいのに。パンも嫌いだった。母がつくるものは、どこかぶかっこうで、一樹は自然と人とかかわらない子になっていった。パンを買い、雨の中、傘を差して歩いていると、子犬を抱いている女の子が「入れてください」と飛び込んできた。かすかにカレーの匂いがしたので、「今日のお昼、カレーだったの?」と聞くと、「夕べのカレー」と女の子は答えた。自分が抱えているのはパンだと教えると、女の子は「犬の名前、パンって名前にしていい?」と聞き、「いい名前だと思うよ」と言うと、女の子は、また雨の中を走り抜けて行った。一樹が17才の時、母が亡くなり、話の通じない父と残され、遊んでいても、ふいに恐ろしいほどの悲しさに襲われるようになった。そんな時、成長して女子高生になったあの女の子とばったり出会った。逃げる女の子を追いながら、母が「動くことは生きること」と言っていたことを思い出した。女の子に追いつき、「あの時の犬、どうした?」と聞くと、「パンは生きてるよ」と女の子は言った。一樹は心臓の動悸を感じ、「自分は、今、間違いなく生きている」と思った。

木皿さんの文章は、無駄な文がなく、あらすじにするのにとても苦労しました。最初の短篇『ムムム』だけが、まともなあらすじで、他のものは相当はしょって書いています。アフォリズムも多く出て来て、書き残しておきたい文に多く出会えました。今後も木皿作品は要チェックです。

 →Nature Life(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto/