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斎藤美奈子さんのコラム・その37

2019-05-08 13:15:00 | ノンジャンル
 恒例となった、東京新聞の水曜日に掲載されている斎藤美奈子さんのコラム。

 まず、4月3日に掲載された「文化財への道」と題されたコラム。全文を転載させていただくと、
「何か書くとき、私の場合、明治・大正・昭和戦前期については西暦と元号を併記している。1945(昭和20)年という具合。戦後は原則的に西暦オンリー。1960年代、70年代と記しただけで十分時代のイメージは伝わるからね。
 それでいくと平成は、昭和以上に元号が形骸化した時代だった。東日本大震災が平成何年だったか覚えています? 答えは平成23年だけど、単に何年かと問えば、多くの人は2011年と答えるはず。元号法制化に尽力した保守派の皆さまは残念だったわよね。せっかく昭和の次を見越して制度を整えたのに、こんなに冷遇されて。
 行政文書に使用されているとはいえ、合理性や国際性が求められる時代に、元号は合わなくなっている。直接生活の役には立たないが、歴史的・文化的な価値があるものを文化財という。従来の機能を失った現在の元号はすでに文化財に近い。平成が価値を持つのは逆にこれからだろう。明治時代や大正時代と同じ、歴史上のひとつの時代を示す指標としてね。
 改元騒ぎでしばらく浮かれた後は、新元号も同じ道をたどるだろう。元号離れは止まらない。ことの性質からいけば、元号は内閣と切り離し、文化庁か宮内庁の管轄にしたっていいほどだ。政治利用よろしく首相が得々と意味を解説するなんて醜悪な姿も見なくてすむし。」

 また、4月10日に掲載された「大阪の幸福」と題されたコラム。
「2012年から2年に1度、日本総研が発表する47都道府県の「幸福度ランキング」。最新の18年度版では、1位が福井県、2位が東京都だった。ちなみに3位は長野、4位は石川、5位は富山で、この上位5都県はほぼ不動である。
 だけど、いまはその話ではなく大阪府についてである。こちらの順位は43位。下から5番目だ。大阪府は毎回このあたりで低迷している。まだ、政令指定都市20市の中で、大阪市は最下位の20位である(1位は浜松市)。
 幸福度ランキングとは人口増加率、一人あたりの県民所得などの基本指標に健康、文化、仕事、生活、教育の5分野のデータを加えて算出した暮らしやすさの指標である。これがすべてとは思わないし、首都東京が何かと有利なこともわかっている。しかしはじめてこのランキングを見たときにはショックを受けた。同じ大都会なのに東京都と大阪のこの差は何?
 大阪が下位に低迷している理由は、完全失業率の高さや正規雇用率の低さといった雇用関係、さらに健康、教育関係の問題が関係している。大阪都構想を実現させれば、それが解消するのだろうか。あるいは大阪万博やカジノ誘致で問題が解決する? それよりも目の前の課題が先決じゃないかと思ってしまう。五輪で浮かれる東京もいえた義理じゃないけど。」

 そして4月17日に掲載された「家族のかたち」と題されたコラム。
「韓国の小説が話題を集めている昨今。『娘について』(古川綾子訳・亜紀書房)は同性愛者の娘を持った母の物語である。
 ひとり暮らしをしながら介護施設で働く母のもとに、失職した娘が転がりこんでくる。七年間つき合っている恋人を連れて。不当解雇された友人のための活動もしている娘。ついに母はブチ切れた。〈三十を過ぎた女が職場もない、結婚するつもりもない、どこからか変な女を家に引っ張り込んでくる、それでもまだ足りなくて、今度は諍(いさか)いを起こすなんて〉
 しかしもちろん、娘にも言い分はある。お前には夫も子どももいないじゃないかという母に娘は反論する。〈どうして夫や子どもだけが家族になるの? 母さん、レインは私の家族よ〉〈私にとって夫で、妻で、子どもなんだって。私の家族なんだってば〉
 母は六十代。娘は三十代。LGBTの当事者はみな、似たような葛藤を経験しているのではないか。十五日、東京地裁で開かれた同性カップル六組の口頭弁論でも、訴えの中心は、法的な家族になれないことの苦痛と生活上の不利益だった。
 小説の中の母は、ラスト近くで娘のパートナーを受け入れる方向に傾くが、それは生活の中で醸成された信頼関係ゆえだった。家族は本来、多様なものだ。同棲婚を認めたら誰が困るの? おせーて!」

 どれも読んでいて勇気づけられる文章でした。