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斎藤美奈子さんのコラム・その38

2019-05-25 00:30:00 | ノンジャンル
 恒例となった、東京新聞の水曜日に掲載されている斎藤美奈子さんのコラム。

 まず、5月1日に掲載された「鯉のぼりの人生」と題された斎藤さんのコラム。全文を転載させていただくと、
「鯉のぼりはいつから集団で行動するようになったのだろう。
 昭和の時代、庭ではためく鯉のぼりは三匹のチームで、イカのお化けみたいな吹き流しを従えていた。大きい真鯉(まごい)はお父さん、小さな緋鯉(ひごい)は子どもたちという歌があっても、緋鯉はお母さんと人間の子どもたちは信じ、そこには核家族のモデルを見ていた。それが今では一戸建て住宅の庭から追い出され、川や公園に結集している。いったい何が起こったのだろうか。
 そういえば五段飾りや七段飾りの雛(ひな)人形も今ではご家族の茶の間を飛び出し、観光地や城下町に『雛人形めぐり』などの形で結集している。
 ま、集団化した理由は簡単。今日の住宅事情と少子化の進行である。子どもたちが独立した後の高齢世帯では鯉のぼりや雛人形は無用の長物で、しかし捨てるには忍びない。かくて彼らは自治体に寄贈され、第二の人生を歩みはじめる。
 平成最初の年(1989年)は合計特殊出生率が過去最低の1.57を記録した、いわば少子化元年だった。鯉のぼりの集団乱舞はそんな時代の光景なのよね。
 まあでも、悲観するには及ばない。家庭での役割を終え、男女別の節句の呪縛からも解放された鯉や人形は意外にも自由を謳歌(おうか)しているのではないか。いずれ廃棄される日が彼らにも来るだろう。それまでは羽ばたけ鯉のぼり。」

 また5月8日に掲載された「ネトウヨ検定」と題されたコラム。
「十連休中、執筆上の必要があって、この二十年ほどの間に出版された歴史修正主義本、ヘイト本をまとめ読みした。
 彼らの主張はだいたいいっしょ。南京大虐殺はなかった(事件の証拠写真は捏造(ねつぞう)である)。慰安婦の強制はなかった(軍の関与を示す資料は存在しない)。日本人の自虐史観はGHQの洗脳によるものである。反日マスコミが歴史を歪(ゆが)めた。沖縄には中国や韓国の工作員が潜伏している。
 最初はアホかと思っても、なにしろ同じことばかりいっているのだ。慣れると麻痺(まひ)し、やがて依存症になるんだろうね。この種の言説の最初の一撃は、小林よしのり『新ゴーマニズム宣言SPECIAL戦争論』(1998年)あたりだったと思うけど、現在ではさらに進化を遂げ、カルト的な「ネトウヨの世界観」が形成されている。
 ミキ・デザキ監督による公開中のドキュメンタリー映画「主戦場」はそんなネトウヨの世界観を知る上で必見の快作だ。ネトウヨ界の重鎮が多数登場、慰安婦問題などを得々と語るのだが、自ら墓穴を掘るわ掘るわ。
 問題は、歴史認識のくるったこの種の世界観を持つ人たちが政財界にも少なくないことだろう。この際、彼らの思想の強度を測る「ネトウヨ検定」を創設したらいいんじゃないか。自民党議員には高得点者続出、安倍首相もきっといい線行くはずだ。」

 また5月15日に掲載された「非現実的です」と題されたコラム。
「北方四島の返還に関連して『戦争しないと、どうしようもなくないですか』と発言、集中砲火を浴びた日本維新の会の丸山穂高衆院議員。
 戦争を肯定するような乱暴さも、日ロ交渉を無視した軽率さも問題だけれど、それ以前に驚くべきはこの発言の非現実性である。え、ロシアと戦争するんですか? いつですか? 勝てると思ってるんですか?
 丸山議員は1984生まれ。戦争で領土を争う戦略ゲームで現実との区別がつかなくなっているのかもしれない。
 とはいえリアルな政治の現場でも、非現実的な事態には事欠かない。
 原子力規制委員会は、電力各社に対し、テロ対策施設が建設できなければ設置期限の延長は認めないとした。ところが各社は難色を示す。一社あたり一兆円近くという試算もある莫大な安全対策費。一度延長しても期限にはとても間に合わない工期。原発に固執する政府の方針自体が、すでに非現実的なのだ。
 同じく政府が固執する辺野古(沖縄県名護市)の新基地建設に関しても非現実的な実態が明らかになりつつある。沖縄県の試算では、軟弱地盤の改良を含めた工期は13年(計画では5年)、工費は約2兆4千億円(当初計画の約十倍)。
 国がデタラメなことをやってるんだもの。若手議員が現実とゲームを混同しても不思議ではないよ」。

 今回も読みごたえのある文章ばかりでした。