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フリオ・リャマサーレス『無声映画のシーン』その2

2012-11-14 05:09:00 | ノンジャンル
 昨日の続きです。
 「先に挙げた私が書いた最初の2編の長編小説は、友人の木村榮一と出版社が興味を示してくれたことで、日本でも翻訳、出版された。そして、中年にさしかかった時期にある1人の作家の追憶とフィクションを語ったこの小説『無声映画のシーン』が、今回日本の読者の元に届けられることになった。私はもうかなりの年だが、文学のおかげでスペインの遠くはなれた地方にある鉱山町で過ごした少年時代に立ち返ることができた。そこでは、日々の生活を彩っている色彩は白と黒だけであり、子供の空想世界で現実と夢がひとつに結びついているように、時には生と死がひとつに溶け合っていた。」

 上記のような説明の後、「信用証書が通用する間」と題された“まえがき” の部分があり、その後、著者の手許にある写真から掘り起こされた記憶が1枚の写真ごとに語られていて、それが全部で28の章を形成しています。章の名前を最初から書いてみると、「1 遠い地平線」「2 ある亡霊の肖像」「3 悪魔の丘」「4 時間の映写機」「5 一度だけの人生」「6 深遠にかかった橋」「7 冷え込み」「8 夜の訪問者(ストレンジャー)」「9 アメリカの夜」「10 アラブ音楽」「11 顎の上の世界」「12 石の肺」「13 埋められた記憶」「14 月世界旅行」「15 モノクロの生活」「16 世界の色」「17 鯨の肉」「18 フランコを待ちながら」「19 コンポステーラの楽団」「20 ストライキ(成人向け映画)」「21 国道のユダ」「22 タンゴ」「23 若葉」「24 大聖堂の孤児」「25 思春期の道」「26 死んだ写真」「27 犬ブドウ」「28 蜂の巣箱」となっていて、それぞれの題名から想像されるロマンティックな内容そのままに、写真からつむぎ出される記憶を、書き手が書くのと同時に読み手が味わっていけるといった風であり、私は「6 深遠にかかった橋」まで読んだところで、あらすじを書くことをあきらめました。というのも、あらすじを書くということは、ここに書かれた文章の味を薄める役目しか果たさないのではないか、と考え始めたからです。
 この小説はあらすじを気にしながら読むようなものではなく、文章まるごと味わいながら読む、“回想録”の形を偽装した小説であり(というか、回想録がそのまま小説になってしまったかのような錯覚を覚える希有な例であり)、小説を読みながら、自分が回想している気分を味わえる、何ともオシャレな小説だと思いました。ということで、こちらではあらすじを紹介することはあえてせず、とりあえず、私はこの本を図書館に返してしまい、“自分の本”として新たに購入することに決めたという事実だけをお伝えしておこうと思います。それほど魅力的な本であり、一生涯、手許に置いておきたくなるような、そんな本でした。
 ちなみに、リャマサーレスの最初の2つの長編とともに、この小説も訳された木村榮一さんの書かれた「訳者あとがき」によると、リャマサーレスは1955年、スペインの北部のレオン地方の田舎町で生まれていて、この小説で描かれた、今は寂れた炭鉱町に実際にリャマサーレスが住んでいたのは、リャマーレスが2歳から12歳までということになります。
 なお、この本の具体的な一部の内容については、私のサイト( Nature Life(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto/))の「Favorite Novels」の場所にアップしておきましたので、興味のある方は是非ご覧ください。

 →Nature Life(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto

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