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金子勝・武本俊彦『儲かる農業論 エネルギー兼業農家のすすめ』その2

2020-05-20 00:25:00 | ノンジャンル
 今朝の朝日新聞にミシェル・ピコリさんの訃報が報じられていました。私の中でピコりさんと言うと、やっぱりルイス・ブニュエル監督の『昼顔』とジャック・ドゥミ監督の『ロシュフォールの恋人たち』のダム氏の役が頭に浮かびます。素晴らしい俳優、ピコりさんご冥福をお祈り申し上げます。

 さて、昨日の続きです。

 しかし、百姓はもともと一般の人々、あるいは国家に仕えるお役人以外の人々ということですから、農業に従事する人も含まれますが、農業以外の仕事に従事している人も含まれることになります。具体的には、農村では自ら耕作する大規模な農地を持った地主(豪農)、自作農、土地を持たない農業労働者、漁村では漁業者や水産加工業者、山村では林業者・木材業者、町では酒づくり、醤油(しょうゆ)づくりのような醸造業者、繊維・衣料の製造業者、土倉といった金融業者、廻船(かいせん)業をはじめとする運輸業者等、自営業者及びその従業員が、百姓に含まれていたと考えられます。このように考えれば、百姓は農業に関係する人が大きなウエイトを占めていたとしても、百姓≒農民という関係にはなかったと思われます。
 さらに、多くの農民は、農業からの稼ぎと農外(農業以外)の稼ぎで生計を維持していたと考えられます。歴史家の網野善彦氏は、江戸時代の農民の農外の稼ぎを除くと、狭義の農業の比重は40%台になると推計しています。(『「日本」とは何か 日本の歴史00』〈講談社学術文庫〉)。以上からすると、昔から農民は専業農家というよりも、兼業農家であったと考えるのが適切なのではないでしょうか。

「日本の農家経営の本質は兼業」
 今日まで、百姓≒農民、農民≒専業農家という観念は、実態はそうではなかったにもかかわらず、政策当局者をはじめ農業政策に利害関係を有する人々の考えに影響を与えてきました。すなわち、「農民は生きる手段として農業を行っている」という当然の認識ではなく、「農民は農業をするために生きている」という倒錯した考えを持つようになったのです。
 なぜ、そのような考えが生まれることになったのでしょうか。それは、国家の運営に必要となる財源を土地に求め、その負担者は百姓≒農民であるとすることによって、為政者のみならず社会一般に「農業は特別な存在である」という考えが形成されてきたからでしょう。
 これは、社会制度上の用語が農業を中心につくられていることからも明らかでしょう。たとえば、江戸時代の事例として、ごくわずかな農地を持っているだけで一年のほとんどを廻船交易に従事していた人が、たまに帰ってきた時に農業をやっていた場合、主たる生業は廻船の仕事であって、農業は廻船の仕事の合間を縫って行う副業であったことは明らかです。にもかかわらず、この人は、廻船の仕事は「農業」の副業として「農間稼ぎ」「作間稼ぎ」と記録されることになります。本来なら、廻船の仕事が主業ですから、農業を「廻船稼ぎ」と記録すべきでしょうが、そうはならなかったのです。
 このように日本では、国家の意思によって、農民、それも農業専業を望ましいとする考え方が広く一般に流布されました。そのため、今日でも、サラリーマンで、ごくわずかな農地を持って時々農業をやっている程度の家でも、農業所得が農外所得よりも少ない「第二種兼業農家」と呼ばれています。これは、サラリーマンが片手間に土いじりをしているといった方が実態に近いかもしれません。いずれにしても、このような用法の中にも江戸時代の「農間稼ぎ」の考え方と同様、農業を中心とする観念が影響しているといえるでしょう。
 しかし、こうした考え方は現実とは著しく乖離(かいり)してしまいました。第二種兼業農家が圧倒的になり、農業を専業で行っている人はごく少数になったばかりでなく、農業の担い手そのものが高齢化し、食料自給率が先進国の中でも異常に低くなっているからです。しかも、農業物価格が継続的に下落を続けるデフレ経済のもとでは、借金をして規模を拡大し専業農家になれば、かえって生活が破綻(はたん)する危険性が増します。むしろ、リスクを分散するためには兼業を選択する方が理にかなっているといえるでしょう。
 依然として、農業政策を立案する人々は、農家は農業をやるために生きていることを暗黙の前提にしているところがあるようです。しかし、現実には、生きる手段の一つとして農業を選択している農家の人々が少なからず存在するのが事実です。こういう現実感覚に基づいて、農業政策を根本から考え直してみることが大切です。

(また明日へ続きます……)

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