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8チャールズ・チャップリン&D・ロビンソン『小説 ライムライト チャップリンの映画世界』その2

2019-06-14 11:58:00 | ノンジャンル
 昨日の続きです。

テリーがアーネスト・ネヴィルという若い音楽家の接客をさせられたのも、サルドゥー氏がオーケストラ用の五線紙の置き場所を忘れたためだった。(中略)素早く彼女は五線紙を数枚足し、急いで立ち上がった。(中略)「ちょっとお待ちください。お釣りをお忘れですよ」彼は振り向き、困ったような顔をした。「それは間違いだと思いますよ」「いいえ、カウンターに置いてあります」と彼女はハキハキと答え、彼がお金を置いたところを指さした。頬を真っ赤に染め、彼は決断できずに立ちすくんでいた。テリーは突如、気づいた。自分は愚かだった。(中略)彼女がサルドゥー商会にとどまっているあいだ、ネヴィルは二度と店に来なかった。店を辞めて一週間後、彼女はネヴィルの家の前を通り過ぎたが、五部屋は暗く、静まり返っていた。窓には「貸室あり」という紙が貼ってあった。(中略)

 陽の当たらない部屋に一人でいるとき、彼女はしばしば爪先立ちを試みたが、それには激しい苦痛が伴った。(中略)完全に自棄になって、テリーはノーサップのピクルス工場に勤め始めた。これは気が滅入る仕事だった。(中略)退院して6週間経っても、テリーはまだ体がふらふらし、元気が出なかった。すでに1ヵ月分の家賃を滞納していて、質草にするものもほとんど残っていない。何かをして生きていかなくてはならないという思いが人食い鬼のように目の前に現われたが、そういう雑念は払いのけ、仕事を探そうとした。テリーは市立図書館に定期的に行き、求人広告の欄を見るようにしていた。ある日、「広告写真のためのモデル」という募集を見つけ、これなら自分でもできるのではないかと考えた。その会社に向かう途中、テリーは演劇チケット販売店の前を通り、その窓にあるプラカードに目を奪われた!━━「アーネスト・ネヴィル作曲の新交響曲! アーサー・ローレンス卿指揮による初演、ロイヤル・アルバート・ホールにて!」(中略)金曜日の夜、テリーは天井桟敷の最後列に座っていた。(中略)コンサートが終わってからも、彼女はそこにしばらく座り続けた。(中略)ロイヤル・アルバート・ホールの正面。そこに彼女が着いたとき、小さな集団が入口から出て来て、そのうちに二人が縁石まで下りて来た。一人がアーサー・ローレンス卿で、もう一人がアーネスト・ネヴィルだった! (中略)「おめでとうございます」と彼女は言った。「ありがとうございます」と彼は答えた。(中略)「私のこと、覚えていません? サルドゥー商会で働いていました」彼は心から喜んでいる様子だった。「もちろん、もちろん。暗くてわからなかっただけです。コンサートに来てくれたんですか?」「ええ、美しい音楽でした」と彼女は答えた。(中略)

 カルヴェロは50歳くらいの白髪頭の男で、その容貌と服装は間違いなく役者のものだった。彼は正面玄関のドアに鍵を差し込もうとして、うまくできずにいた。(中略)なかに入り、彼は立ち止まって葉巻を口に持っていった━━火が消えている。(中略)ガスだ! 危険なくらい強い匂い。そして、テリーの部屋に近づくにつれて強くなる。彼は一瞬ためらうが、意を決してドアをノックした。返事がなかったので、ドアノブを回したが、鍵がかかっている。ドア板の節穴にはタオルが詰めてあるが、急いでそれを押し込んで指を通し、なかを覗く。彼の視線は左右をさまよった挙句、ベッドのうえに注がれた。肩でドアにぶつかり、突き破るまで、そう長くはかからなかった。彼は昏睡状態の娘を廊下まで運び出し、階段に横たえた。(中略)

 このうるさ方たちのなかで、全盛時のカルヴェロは深く尊敬されていた。彼らにとって、カルヴェロは真の芸術家の見本だったのである。当時、彼はロンドンの寵児だった。しかし、ゴシップによれば、酒と女と気性が彼のキャリアをぶち壊した。怒りっぽくて気難しい、当てにならないといった評判が立つようになったのだ。舞台に現われないとか、現れても酔っ払っていて芸ができないと言われたこともあった。(中略)一度ノイローゼになり、入院させられたことがあった。退院後、彼の人気は衰え、舞台の仕事は減っていって、ついにまったくなくなった。(中略)それ以来、仕事が見つかればどんな役でも演じてきた。後ろで槍を持つだけのチョイ役もやったが、こういうときは別の名前を使った。(中略)

(また明日へ続きます……)

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