また昨日の続きです。
ところが、テリーが舞台に戻る前に、何かが起こった━━悲劇になりかねなかったことが。(中略)「できない━━続けられないわ!」と彼女は叫んだ。「何だって!」「脚のせいなの! 足がまた麻痺しているの!」(中略)稲妻のような速度で、カルヴェロは彼女の顔をはたいた。テリーは思わず手を頬に当て、その目からは涙が溢れ出した。痛みのあまり、彼女はよろよろとあとずさりした。「見なさい!」(と激しい声で言い、彼女の足を指さす)「君の脚にどこも悪いところはない!」テリーは立ち直り、舞台に向かって走って行った。(中略)
公演が終わったあと、ポスタントはみなを夕食パーティに招いた。食事のとき、テリーは右隣りがネヴィルであることに気づいた。(中略)それからポスタントはネヴィルのほうを向いた。「ところで、君は捕まってしまったそうだな」「誰にですか?」とネヴィルは言った。「軍隊だよ。徴兵されたって聞いたが」「そのとおりです」とネヴィルは答えた。テリーは驚いてネヴィルのほうを向いた。「でも、それってひどいわ」と彼女は言った。「僕もそう思います」と彼は冗談めかして答えた。(中略)
どこでカルヴェロが見つかるかについて、ボダリングが言ったことは正しかった。彼は〈クイーンズヘッド〉で上機嫌だったのである━━これは文字どおりの意味でも、それ以外の意味でもそうだった。そのため、劇場に戻ろうと言われても動こうとしなかった。その代わり、彼はメッセンジャーにテリーへの伝言を託した。心配はしないでほしい。疲れたので、まっすぐ家に帰って寝るから、と。ダンスの後、テリーはボダリングを探し、彼はカルヴェロのメッセージを伝えた。「すぐに帰ったほうがいいわ」と彼女は言った。「馬車を呼んで、家まで送りますよ」とネヴィルは言った。(中略)「さようなら」と彼は言い、手を差し出した。彼女も手を伸ばした。彼はそっと彼女を抱き寄せた。彼女は抵抗しようとした。「やめて……やめて……」と彼女は叫んだ。「愛してるって言ってください」と彼は訴え、彼女を胸に包み込もうとした。(中略)
カルヴェロは静かに起き上がり、廊下を這っていって、階段を一段一段昇った。足取りは怪しかったが、意識ははっきりしていた。たったいま聞いたことが彼を絶望の淵に突き落としたのである。というのも、いけないと思いつつ、彼もテリーを愛するようになっていた。しかしいま、彼女の若い本能が声を上げるという、当然の事態が起きたのだ。(中略)
朝食を食べながら、カルヴェロは劇評を読んだ。すべてが声を揃えてテリーを絶賛し、有望新人と呼んでいる。しかし、彼女は大喜びする様子がない。カルヴェロはその態度に興味を持った。(中略)「君は私を愛したいと思っている。でも、君が愛しているのはネヴィルだ。そのことで君を責めたりはしないよ」「それは嘘よ」(中略)
リハーサルの前、ポスタントはオフィスでボダリングとともにメモを見ていた。「ダンスは素晴らしかった」と彼は言った。「だが、喜劇が━━あの道化はいったいどこから連れて来たんだ? あいつは外さないといかん」(中略)「そりゃ、カルヴェロ並みの芸人を期待しているわけじゃない」「でも、あれはカルヴェロなんですよ」とボダリングは言葉をはさんだ。「何だと!」ポスタントは信じられないというふうに言った。「カルヴェロです」「どうしてチラシに名前がないんだ?」「別の名前で出てるんです。(中略)」「そこまで落ちたか」(中略)「しかし、夕食会にいなかったよな」とポスタントは訊ねた。「現れませんでした。だから、テレーザが心配していたんです」「テレーザ? どういう関係があるんだ?」ボダリングは笑い、それから肩をすくめた。「彼と結婚するようですよ」「何だと! あの老いぼれと!」とポスタントは言った。(中略)
「その仕事が満足いくものではないんだ」とポスタントはぶっきらぼうに言った。カルヴェロは蒼白になった。「わかりました……そうなると、どういうことになりますか?」ポスタントは肩をすくめた。「率直に言って、君ほどの芸術家が自分の名声を汚すのは見たくない。それくらいなら君に3ポンド払って、何もしないでもらったほうがいい」カルヴェロは考え込んで頷き、それから立ち上がった。ポスタントのほうを見もせずに、ゆっくりとドアに向かって歩いて行く。「ありがとうございます」と言って、ドアを閉める。(中略)
(また明日へ続きます……)
ところが、テリーが舞台に戻る前に、何かが起こった━━悲劇になりかねなかったことが。(中略)「できない━━続けられないわ!」と彼女は叫んだ。「何だって!」「脚のせいなの! 足がまた麻痺しているの!」(中略)稲妻のような速度で、カルヴェロは彼女の顔をはたいた。テリーは思わず手を頬に当て、その目からは涙が溢れ出した。痛みのあまり、彼女はよろよろとあとずさりした。「見なさい!」(と激しい声で言い、彼女の足を指さす)「君の脚にどこも悪いところはない!」テリーは立ち直り、舞台に向かって走って行った。(中略)
公演が終わったあと、ポスタントはみなを夕食パーティに招いた。食事のとき、テリーは右隣りがネヴィルであることに気づいた。(中略)それからポスタントはネヴィルのほうを向いた。「ところで、君は捕まってしまったそうだな」「誰にですか?」とネヴィルは言った。「軍隊だよ。徴兵されたって聞いたが」「そのとおりです」とネヴィルは答えた。テリーは驚いてネヴィルのほうを向いた。「でも、それってひどいわ」と彼女は言った。「僕もそう思います」と彼は冗談めかして答えた。(中略)
どこでカルヴェロが見つかるかについて、ボダリングが言ったことは正しかった。彼は〈クイーンズヘッド〉で上機嫌だったのである━━これは文字どおりの意味でも、それ以外の意味でもそうだった。そのため、劇場に戻ろうと言われても動こうとしなかった。その代わり、彼はメッセンジャーにテリーへの伝言を託した。心配はしないでほしい。疲れたので、まっすぐ家に帰って寝るから、と。ダンスの後、テリーはボダリングを探し、彼はカルヴェロのメッセージを伝えた。「すぐに帰ったほうがいいわ」と彼女は言った。「馬車を呼んで、家まで送りますよ」とネヴィルは言った。(中略)「さようなら」と彼は言い、手を差し出した。彼女も手を伸ばした。彼はそっと彼女を抱き寄せた。彼女は抵抗しようとした。「やめて……やめて……」と彼女は叫んだ。「愛してるって言ってください」と彼は訴え、彼女を胸に包み込もうとした。(中略)
カルヴェロは静かに起き上がり、廊下を這っていって、階段を一段一段昇った。足取りは怪しかったが、意識ははっきりしていた。たったいま聞いたことが彼を絶望の淵に突き落としたのである。というのも、いけないと思いつつ、彼もテリーを愛するようになっていた。しかしいま、彼女の若い本能が声を上げるという、当然の事態が起きたのだ。(中略)
朝食を食べながら、カルヴェロは劇評を読んだ。すべてが声を揃えてテリーを絶賛し、有望新人と呼んでいる。しかし、彼女は大喜びする様子がない。カルヴェロはその態度に興味を持った。(中略)「君は私を愛したいと思っている。でも、君が愛しているのはネヴィルだ。そのことで君を責めたりはしないよ」「それは嘘よ」(中略)
リハーサルの前、ポスタントはオフィスでボダリングとともにメモを見ていた。「ダンスは素晴らしかった」と彼は言った。「だが、喜劇が━━あの道化はいったいどこから連れて来たんだ? あいつは外さないといかん」(中略)「そりゃ、カルヴェロ並みの芸人を期待しているわけじゃない」「でも、あれはカルヴェロなんですよ」とボダリングは言葉をはさんだ。「何だと!」ポスタントは信じられないというふうに言った。「カルヴェロです」「どうしてチラシに名前がないんだ?」「別の名前で出てるんです。(中略)」「そこまで落ちたか」(中略)「しかし、夕食会にいなかったよな」とポスタントは訊ねた。「現れませんでした。だから、テレーザが心配していたんです」「テレーザ? どういう関係があるんだ?」ボダリングは笑い、それから肩をすくめた。「彼と結婚するようですよ」「何だと! あの老いぼれと!」とポスタントは言った。(中略)
「その仕事が満足いくものではないんだ」とポスタントはぶっきらぼうに言った。カルヴェロは蒼白になった。「わかりました……そうなると、どういうことになりますか?」ポスタントは肩をすくめた。「率直に言って、君ほどの芸術家が自分の名声を汚すのは見たくない。それくらいなら君に3ポンド払って、何もしないでもらったほうがいい」カルヴェロは考え込んで頷き、それから立ち上がった。ポスタントのほうを見もせずに、ゆっくりとドアに向かって歩いて行く。「ありがとうございます」と言って、ドアを閉める。(中略)
(また明日へ続きます……)
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