二十世紀といえば、和ナシの代表種で、今では鳥取県の名産として市場に出回っている。しかし、このナシが明治時代千葉県の松戸で発見されたものであるのはあまり知られていない。明治21年のこと、千葉の松戸に住んでいた松戸覚之助という人が、自宅のゴミ箱の近くに芽生えているのを偶然発見した。これがおいしいナシであることが分かり、来る二十世紀を担う品種として「二十世紀」と命名された。同じころ川崎市の当當間長十郎が、自分のナシ園で実生で発見したものに発見した人の名をとって「長十郎」と命名されたナシがある。なかなか面白い符合だが、以来日本のナシの代表品種として長く親しまれてきた。
戦後になって、ナシの品種改良が行われ、幸水、新水、豊水などが登場した。これらを総称して三水と呼ばれて、今ではナシの代表格である。二十世紀だが、30年ほども前のことだが。当時は福島産の代表品種として有名だった。隣県のことで、知り合いからいただくことも多く、福島市をナシの季節に訪れると必ず皮を剥いてふるまってくれた。その実の白さは奥深く、その甘さに感動したことは今も忘れられない。先日、尾花沢の道の駅で、二十世紀が売られているのを見て、懐かしかったので買ってみた。しかし、ここのものは実が小さく、みずみずしさも今いちであった。これなら、庄内産の刈谷ナシの方がよい。ナシは肩と尻が張ったものが美味しい。尻の方に甘みがあり、実の中心部分は酸味が強いので、大きく芯をとって切りわけるべきだ。
これから、山形では洋ナシの「ラフランス」の収穫が始まる。高価なナシとして贈答品として人気があるが、これもナシの交配用にたまたま植えた品種から偶然においしい洋ナシであることが分かり、市場の出回ることになった。ナシのは、こんな偶然が重なっているのは面白い。
真夜覚めて梨むきゐたりひとりごち 加藤 楸邨