
散歩で通るお宅の庭の片隅にひっそりと頭を垂れる吾亦紅が目につくようになった。地味な花なのに何故か人気がある。源氏物語にも見える草で、古くから愛されてきた。平安の時代に秋の花としてもてはやされたのは女郎花や萩。一方、菊や藤袴、地味な吾亦紅まで香りを持つ花に執着する人もいた。香合せなど香りに風流を求める人たちだ。源氏物語を見ると吾亦紅は吾亦香と香が名に入れられている。
路岐れして何れが是なるわれもこう 漱石
山道のわかれ目に、枝を縦横に伸ばす吾亦紅が咲いていたのであろうか。漱石ならずとも、複雑に枝ゆえに方角が分からなくなることは請け合いだ。葉から伸びてくる枝に秋の淋しさが漂う。昔の人がこの香を袖に炊きしめたということを知れば、平安好み花であることは納得できる。生きている内は匂いがなく枯れるにつれて芳香を放ついう解説があった。