ベランダの障子を開けると空に青空が見えるが、山は厚い雲に隠れている。予報では、寒波の襲来で明日にかけて平地でも雪。ガスが低山にかかり、山の上から雲海が見えることだろう。昨日、赤穂浪士の討ち入りの日。江戸の理不尽への抵抗は、今日でも映画やドラマで再現されている。権力者の沈黙、それは今日の疑獄事件でもその本質は変わらない。蕪村の句に
易水にねぶか流るる寒さかな
という句ある。さらに遠い歴史の、しかも中国にも語り継がれる暗殺事件があった。権勢を振るった秦の始皇帝を狙った事件だ。詩に映画に、いまなお詠い、語り継がれている。刺客は荊軻、遊侠と呼ばれる壮士である。燕の太子丹は、人質となって始皇帝の囚われの身であったあ。そこから燕に逃げ帰った丹は、強国秦と戦う術もなく、始皇帝暗殺で事態を開こうとする。推挙された荊軻は寒い冬、易水のほとりで送別の宴があった。
この地燕の丹に別る
壮士髪冠を衝く
昔時人既に没し
今日水猶寒し
唐の詩人駱賓王がその送別を詩にしている。これを日本に親しめるようにした歌もある。「風飄々として易水寒く壮士一たび去って復帰らず」このとき、荊軻は始皇帝の気を引くため、献上する地の地図を持参した。その地図に目をやった隙をついて刺殺しようとした。しかし、隠し持った剣がみつかり、この事件は失敗に終る。人々の記憶には、送別の宴の寒さだけが記憶に残った。
この度の寒波は、そんな易水の寒さを想起させる。ほぼ1週間寒波は居座るようだが、南から暖気が入る可能性もある。