立春を過ぎて、ぐずついていた天気が晴れ間をみせた。公園の桜の木には、純白の綿のような雪が残っている。昨夜の雪が朝方まで降ったらしい。木の上の空のは春を思わせる雲が浮かんでいる。題名だけで本を買うことがある。木村尚三郎もそんな本のひとつだ。副題に「体験的ヨーロッパ論」とある。西欧を旅して、その風景のなかの文明の重みを読もうとした。風景をみて、そのなかに書物にあるような情報を読み取れるとしたらどんなにいいだろう。それがこの本を買った理由である。
「ヨーロッパの都市の魅力は、むしろ小さな地方都市にある。パリ近郊のエタンプという都市などは、フランスのルネッサンス期がそのまま今日まで生き続けている、小さく磨きぬかれた街です。ルネッサンス様式の建物が多いのはもちろんですが、人口が少なく、大型の乳母車にのんびり赤ちゃんを乗せている若い母親の姿などみると、16世紀の人間がそのまま歩いているような感じさえします。」(木村尚三郎『風景は生きた書物』)
最近になって本棚の整理を始めた。先ず読まない本を取り出してダンボールに詰める。ブックオフに持ち込んで整理するためだ。なかには、買い取ってくれる本もある。自分の興味のジャンル別に本をまとめる。作家や著者別に本をまとめる。読みたい本をすぐに探せるようにする。空いた棚には、ブックオフから買った本を入れておく。まるで夜の睡眠のように、自分の興味の遍歴が書物群のなかに見てとれる。木村の懐かしい文章に再会できるのも、こんな本棚の整理という、いわば終活の整理のような作業の中だ。
こんな本を読みながら、いつか海外を旅してみたいと思っていたが、ついにその夢を果たすこともなく、老いを迎えた。こんなブログを読んだ友人が、ヨーロッパのバルセロナに旅をして、泥棒の被害にあった話を書いてくれた。木村の本にも旅の心得が書いてある。「人を見たら泥棒と思え、水を見たら飲めないと思え」というのが、ヨーロッパを旅する者の心得、鉄則であった。もっとも18世紀の話だが、そんな伝統も祭りなどと一緒に今も生き残っているのだろうか。
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