常住坐臥

ブログを始めて10年。
老いと向き合って、皆さまと楽しむ記事を
書き続けます。タイトルも晴耕雨読改め常住坐臥。

磐梯山

2023年06月04日 | 登山
台風2号が東の太平洋沖へと進路を変えていくなか、台風一過を期待して磐梯山に登った。朝の雲は厚く、風も吹いている。頂上付近の気温は5℃と予測されている。登山口は八方台。微妙な天気なのに、駐車場には10台をはるかに超える車がとまっている。登山道に入るとすぐにまぶしいような新緑の雑木林。しっかと整備された登山道である。本日は、いつものメンバーに加え、10代の大学ワンゲルの女性が加わって、華やいだ雰囲気になった。最近のトレンドは、低山へ高齢者や若い未経験者の参入である。山中で若い人と交流できるのは、貴重な経験である。
ムラサキヤシオの色がひときは目を引く。今日の発見は、光りのさし加減で変化する花の色だ。朝は雲で光が届かないが、午後には青空が広がった。光があたるほど、ヤシオの色は輝きを増していく。緑の色も、次第に生きいきとしてくる。その光景のなかにいるだけで、脳内にセレトニンが分泌されたらしく爽やかな気分に満たされる。但し、登山道は登った後、雨が落ちたらしく登りでは濡れていなかった道が、下りではやや泥んこ状態だ。

若い女性の興味の中心は、サンカヨウの透明な花。沢筋に咲いた花の撮影に余念がない。「ワンゲルの仲間は、登るだけに夢中で花に興味がないんですよ。〇〇が咲いているよ、とはなしかけてフーン、という状態」いっぱい写真を撮って送ってくれた。今回の山行の写真、3枚、彼女の写真を使わせてもらっている。

下山開始12時15分。1時過ぎに日がさしてきた。見晴らしのよい登山道から、大きな檜原湖の絶景も見えてきた。下山はところどころに石積みの段差があるものの、歩きやすい道である。転倒しないように注意深く下山。登山口近くで一気に気温が上がる。上着を脱いで、水分を小まめにとる。本日の参加者9名。うち男性4名。事前のトレーニング。千歳山2回。日々のウォーキング。足の疲労はあるものの、足の動きはすこしずつ戻っている。
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2023年06月01日 | 読書
村上春樹の初期の短編『蛍』を読んだ。村上の初期の作品は、自分にとって青春へのノスタルジーである。蛍はここへ移り住んだころ、周りの田の稲の茎に止まって光を放っていた。その頃、周りには多くの田があり、朝には雉の鳴き声で起こされた。この季節には、蛍がいるはずもないが、季節感を失わせる出来事が続いている。季節はずれの台風の進路が放送されと、つい秋の気配を感じ、道端に咲く花をコスモスと間違えたりする。

村上の『蛍』は青春の喪失の物語である。主人公は学生で、寮生活をおくっている。彼には友人がいた。この寮へ来る前、友人とその彼女と青春時代を過ごした。高校時代の5月の午後、主人公はその友人とビリヤードで遊んだ。4ゲームを戦って最初の1ゲームは主人公が取ったものの、残りの3ゲームは友人が取った。その日の夜、友人は自動車の中に排気ガスを入れて自殺した。遺書もなければ、自殺する動機も知れない、突然の出来事であった。

付き合っていた彼女にもあまりにも突然の出来事であった。大学に入って、東京へ出た主人公は、偶然に電車のなかでその彼女に会う。面と向かって話をする彼女ではなかった。電車を降りたのは四ツ谷、そこからまともな会話なしに市ヶ谷へ向かって歩きだした。「ここは何処?」「駒込だよ」「ぐるっと回ってきたんだ。どうしてここにいるの?」「君が来たんだよ。僕はついてきただけ。」

週に1回、こんなデート繰り返すうち突然饒舌になった。終わりのない話をしながら、主人公の目を見つめたいた彼女の目から涙があふれだした。それはとめどない涙であった。その夜、主人公は初めて彼女と寝た。それから、短い手紙を残して彼女は東京を去った。心を癒すため、京都の療養所へ行くという手紙だった。寮の部屋の同居人が、帰郷する前に、庭にいた蛍をコーヒー瓶に入れてプレゼントしてくれた。蓋に空気穴をあけ、草を敷いてあった。

瓶ののなかの蛍は、か細い光りしか放たなかった。今にも死んでしまいそうな弱々しい光りであった。ここまで読んできて、主人公の思いは、療養所に行った彼女に向かっていると想像した。今にも死んでしまいそうな光、瓶から出して蛍を自然に帰そう。そして寮の屋上に行く。放った蛍は給水塔の縁から離れようとしない。そして、そこから蛍は飛びたっていく、光の軌跡を闇のなかに残して。青春の日、主人公の失ったものは、友人であり、その彼女であった。友人の変わりを果たそうとして、それに失敗した主人公の心には、苦い青春の後味が消えない。
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