エレベーターで3人と一緒だった。2人は女性で、若い女性はたくさんの買い物袋を持っていた。もう1人は60歳くらいで、こちらは手ぶらだった。1人の男性は私よりも高齢で、よくしゃべる人だった。若い女性の荷物を指して、「たくさん買い物して来ましたね」と声をかけた。若い女性は「食べ盛りが3人もいるもので、大変なんです」と答えていた。
手ぶらの女性が、「将来が楽しみね」と言う。すると若い女性は、「楽しみですか?3人とも勝手に生きていて、どうなりますやら分かりません」とちょっと口を突き出すように言う。「そりゃー楽しみですよ。子どもは自由気ままでなければ、その方が大変ですよ」と高齢の男性が言う。「全然、親の言うことを聞かないんですよ」と若い女性。「親に逆らうようなら、ビシッと一発やらんといかん」と男性は言う。
「子は宝。どんな子もみんな宝。今は親の言うことを聞かなくても、そのうち親の言うことが分かるようになるものよ」と、手ぶらの女性が仲を取り持つように言う。私も何か言わなくてはと思い、「あなただって自由に生きて来たんじゃーないの」と余分なことを言ってしまった。いつも髪をカールしている色白のポチャとした可愛い女性で、キツイ印象がなかったから。
すると手ぶらの女性が、「私なんかいつも敷かれたレールの上、何にも面白いことなかった」と愚痴を零す。年長の男性は、「それは幸せですよ。レールにも乗れんで困っとる人はいっぱいいます。お子さんをレールに乗せようと強要しないことですね」と言う。ドアが開いて手ぶらの女性が、「子どもは宝。将来が楽しみよ」とささやいて出て行った。「楽しみになってくれるといいけど、どうなることですか」と若い女性が呟く。
ドラマで「私は子どもに、いつもこう言ってきた」というセリフがあった。カミさんに「あなたは子どもたちに何を言ってきた?」と訊くと、「そうね、自分の思うようにいきなさい、かな」と答える。昔は「夫婦で価値観が違うのはダメ」と怒っていたが、ようやく価値観が一致した。子どもたちは子どもたちなりに、自由に生きていくことこそが大事だ。若い女性の子どもたちもそのうち親の言うことを理解するだろう。