風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

リオ五輪番外・中国編

2016-09-07 22:52:08 | スポーツ・芸能好き
 前回の韓国に続いて今回は中国である。五輪メダル獲得数の点で、中国の退潮も著しい。8年前の北京五輪のときには金51個(銀・銅を含めて計100個)を獲得し、地元開催の利点を活かして常勝アメリカを抑えて初めて世界の頂点に立ったが、前回ロンドン五輪では金38個(計88個)に減らし、今回リオ五輪では更に金26個(計70個)まで減らして、英国に追い抜かれて三位に転落した。中でも体操は、北京で金11(計18)と量産し、ロンドンでも金5(計12)と善戦したが、リオでは金ゼロ(銅2のみ)にとどまった。
 中国メディアは、外国メディアが「(中国が)金メダル至上主義ではなくなった、それは大国の自信の表れである」「真の意味でスポーツ大国に近づいた」と報じていることを引用し、「スポーツ大国で金メダルが減ることは悪いことではない」と自ら慰めているようだが、依然、歴史教育を「プロパガンダ」として政府が完全に管理し、何事も国威発揚に利用してしまう彼の国で、民衆の意識がそれほど急に変わるとは思えない。背景に政府の意向が働いていると考えるのが自然である。
 福島香織さんは、NYタイムズが「中国の五輪への執着は依然強い。中国の民衆は日本に対し、深い敵意を抱いているので、中国政府は東京五輪で最多の金メダルをとることを選手たちに要求しているらしい。目標を東京五輪に置いているので、リオ五輪に若手選手をより多く参加させたが、その分、成績が悪くなったという意見もある」と分析しているのを紹介されているが、それも否定は出来ないものの、目の前のご利益に飛びつきがちの中国共産党がそれほど深謀遠慮で奥床しいとは思えない。
 中国研究者の澁谷司さんは、前回ロンドン五輪(胡錦濤時代)直後の秋の中国共産党18回全国代表大会(18大)以降、習近平が総書記へと代わってから、いわゆる「贅沢禁止令」が出ていることに注目されている。また「反腐敗運動」が始まり、中国スポーツ界の監督・コーチは、各方面から賄賂を受け取ることが難しくなり、選手を育てるインセンティブを失ったのではないかとも分析されている。さらに2014年以降、中国経済が停滞し、北京政府にスポーツに多額のカネをつぎ込む余裕がなくなって、選手団の低迷に繋がっているのかもしれないと付言されている。
 同様のことを福島香織さんも指摘されている。中国経済の悪化は切実で、金メダリストに対して、かつてのようなバブリーな賞金や企業スポンサーによる副賞がなくなったと言う。実際に、リオ五輪の金メダリストに対する国家体育総局からの奨金は19万元で、前回ロンドン五輪の50万元の半分以下、前々回北京五輪の25万元、前々々回アテネ五輪の20万元をも下回るようでは、選手たちのモチベーションが下がるのも仕方ないかもしれないと解説される。さらに地方政府とスポンサー企業からの副賞もかなり減ったという。リオ五輪の自転車トラック競技女子チームスプリントで宮金傑と鐘天使ペアが中国史上初の自転車競技の金メダルを獲得した際、宮金傑の故郷の吉林省東豊県の書記が彼女の父親に50万元の奨励金を贈ったことがニュースになったらしいが、北京五輪の頃の奨励金は破格で、卓球選手の王皓が卓球男子団体の金メダルを吉林省初の五輪金メダルとして持ち帰ったとき、吉林省政府から120万元、長春市政府から100万元、さらにスポンサー企業から68万元と豪華マンション一戸が贈られたという。総額にして軽く6倍の差があるだろうという。
 そして、その背景に習近平政権の反腐敗キャンペーンが影響していると言うわけだ。地方政府の奨励金が高騰したのは、もともとバブル経済が膨らんでいたという事情もあるが、地方の官僚の出世と五輪の成績が密接に関係し、スポーツ育成は、地方政府、体育当局や体育学校、ナショナルチーム、スポンサー企業らの腐敗、不正、利権の温床となっていたらしい。それが、習近平政権になって、地方財政が逼迫した上、いびつな体育行政とそれに伴う腐敗の問題が、反汚職キャンペーンのターゲットとして追及されたという。2014年頃から中央規律検査委員会の国家体育総局の本格的立ち入り捜査が始まり、スポーツ行政界隈の腐敗がドミノ式に暴露され、2015年6月には国家体育総局副局長だった蕭天が汚職で失脚し、地方や企業の五輪選手育成熱に冷や水をかけたという。
 何事もカネで動く中国らしいスポーツ・バブルと言えようか。言われてみれば、中国にしても韓国にしても、そのありようが如何にも五輪の成績にも反映されて、微笑ましい。成熟した民主主義国ではない場合、スポーツを含め社会現象が不安定で揺れるものだと思う。
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