風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

マスク外交から人質外交まで

2020-05-13 22:42:48 | 時事放談
 昨日の日経朝刊一面を飾った記事は、薄々分かっていたこととはいえ、あらためて衝撃的だった。「医療品、海外依存度高く 感染爆発の備えに不安」と題して、後発薬の原薬(50%を韓国、中国、イタリアから)をはじめ、人工呼吸器(90%超を欧州、米国から)、サージカル・マスク(70~80%を中国から)、医療用ガーゼ(約60%を中国から)、全身防護服(ほぼ100%を中国、ベトナム、米国から)など、輸入依存度の高さを一覧表にまとめたものだ。日本の産業の、なんと脆弱なことだろう。サラリーマンの端くれとして、日本経済のためではなく、企業の資本の論理のままにやって来たことがこのザマとは、まさに衝撃的だった。
 このあたりは既に、消毒用アルコールの原液は国内で用意できても、プラスチック・ケースやスプレー部品の調達が追い付かないため商品化できないと言われたときに感じていたし、マスク不足が深刻化したときに、輸入比率が8割に達すると聞かされて愕然とし、主要な輸入先である中国が輸出規制をしているらしいことは、もはや誰も口にすることはなく、ただ我慢するほかなかった。そもそも日本は、食糧にしてもエネルギーにしても、多くを輸入に依存し、私が小学生の頃と言えば50年近く前のことになるが、資源が乏しい加工貿易立国だから自由貿易が死活的利益だと教えられ、今なお自由貿易を国是とする資源小国のままなのである。
 このコロナ禍では、中国による「マスク外交」が(恐らく一部の国で、ということだと思うが)甚だ評判がよろしくない。そもそもコロナ・ウイルスの発生源のくせに、どのツラ下げて・・・と思うところがある上に、品質の悪さもさることながら、日頃付き合いの良い国をこれ見よがしに優遇し、フランスに対しては華為との5G商談をバーターにするなど、弱みに付け込む悪徳商人ぶりが際立った。日本は、かかる状況下で、只管マスク支給を乞うしかない。
 コロナ禍で霞んでしまったが、中国による「人質外交」が話題になったことがあった。2018年12月、カナダが華為創業者の長女で同社副会長の孟晩舟氏を拘束した際、中国は中国・国内にいる2人のカナダ人を「国家安全に危険を与えた」などの容疑で拘束する報復措置に訴えたのである。その衝撃が冷めやらぬ昨年9月、北海道大学の岩谷將教授が、北京訪問中に急遽、国家安全当局に拘束された。幸い11月に無事釈放されたのは、日中戦争史や中華人民共和国建国前の政治史などを研究することが「反スパイ法」違反容疑とされたことの恣意性と、学問の自由が侵される由々しき事態に、日本の言論人が立ち上がり、日本政府やメディアと協力したお陰で、中国から救出された最初の事例となった。かねて中国政府は2015年春頃から中国内で「日本人スパイ狩り」を始め、これまでに10人以上を拘束したとされ、中には懲役15年の判決を受けた人もいるらしいが、問題は、日本の外務省は中国を刺激したくないばかりにこれらを一切公表していないことだ。岩谷氏の事件についても、いざ記事にする際、外務省高官は「絶対に書くな」「責任をとれるのか」などと恫喝したらしい(産経・矢板明夫氏による)。
 結局、無実の日本人が人質になろうが、香港やウィグルで人権侵害があろうが、日本は非難がましいことは何も言えない。仮に日本が何か言って、中国の機嫌を損ねるようなことがあると、何かモノを止められて(かつてレアアースを止められたように)息の根も止められてしまいかねないのである。ちょうどオーストラリアが、新型コロナウイルス発生源の調査を求めたばかりに、中国から大麦に高額の輸入関税をかけられたり、一部の牛肉加工業者の輸入差し止めをチラつかされたりしたように。しかも日本は、中国にとって歴史認識問題を抱えて恨み骨髄に徹する国である。かつては全方位外交と呼ばれる、誰にでも良い顔をする八方美人外交しか生きる術はなかったし、その後、中国との間で、戦略的互恵関係と呼んで、何か個別の案件で利害の衝突があったとしても全体として日中関係を害することがないよう、大人の対応をする取り決めを行ったが、長らく政冷経熱が続き、ようやく習近平国家主席の国賓招聘に合意したばかりだ。
 これが大東亜戦争による荒廃から目覚ましい復興を遂げ、ほんの二十数年で世界第二の経済大国に上り詰めた日本の成れの果てだとすれば、なんと哀しいことだろう。かつて石油ショックの危機意識から、軍事的安全保障ばかりでなく食糧安全保障やエネルギー安全保障までカバーする「総合安全保障」を策定するに至った(1980年)ように、コロナ・ショックの危機意識から、同様に国のありようを見直すこと、超大国・中国が相手であろうと是々非々でモノ申し、小さくても(GDP世界第三位は十分に大きいが)キラリと光る高品質・高品位の国であろうとすることは、途方もない夢のまた夢なのだろうか。
(つづく)

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