今宵、安倍首相が、NHK(ニュースウォッチ9)、テレビ朝日(報道ステーション)、TBS(News23)と、生出演のハシゴをされるという珍しいシーンが見られた。プーチン露大統領との二日間にわたる会談をこなしたその日に登場されたのだから、よほどのことと受け留めるべきだろう。プーチン大統領来日に当たっては、ある時期まで北方領土問題で何等かの進展があるものと、日本人の間で期待が高まっていただけに、結果として成果が乏しく現実的な展開に落ち着いたことについて、テレビ局側の発意かどうか知らないが首相の出演と説明を希望し、官邸側も生出演して釈明したかったであろう(言わば火消しとして)という意味では、双方の思惑が一致したのだろうか。
これより前、今月7日に、読売新聞と日本テレビがモスクワでプーチン大統領にインタビューを行った際に、既に期待値を下げるようなコメントが報じられていた(このインタビュー自体も、官邸筋から読売への要請によるものではないかと睨んでいるが、穿ち過ぎだろうか)。その読売新聞のインタビューで、今年は1956年の日ソ共同宣言以来60周年という歴史の節目で日本国民は非常に大きな期待をしているがと問われたプーチン大統領は、「安倍首相と私の交渉について予測するのは時期尚早だ。もちろん、前進を期待している」と、水を差していた。さらに踏み込んで、「共同宣言には2島について書かれている。だが、(あなたは)4島の問題について言及した。つまり、共同宣言の枠を超えた。これはまったく別の話で、別の問題提起だ」と、クギを刺していた。
北方領土について、日本人は四島返還に拘り、返還を条件として平和条約に至る交渉を渋って来たし、その際、四島の来歴、つまり日本の「固有の領土」という歴史的正当性ばかりに目を向けて、北方領土がロシアにとって戦略的に重要な場所であることは閑却している。地図を見れば分かるが、ロシア海軍太平洋艦隊の母港が置かれている不凍港ウラジオストクから太平洋に抜けるためには、国後・択捉両水道(海峡)は不可欠である。逆に、北方四島を、従い両水道(海峡)を日本に返還し、自らコントロールできなくなると、自らの内海としておきたいオホーツク海への米・攻撃原潜の侵入もあり得ないわけではなくなるし、かつて真珠湾攻撃にあたって大日本帝国海軍機動部隊(第一航空艦隊)が出撃(出港)した択捉島の単冠(ヒトカップ)湾(ここもまた真冬でも流氷の影響を受けない天然の良港)に米・海軍基地が置かれるようなことになれば、ロシアにとって大変な脅威になる。その意味でロシアは、1956年の日ソ共同宣言に沿って歯舞・色丹二島返還に応じることは可能でも、国後・択捉を含む四島返還は、国家安全保障上、そもそも当面は無理筋ではないかと思ったりもする。
領土問題はやはり簡単ではないということには別の意味合いもある。ロシアは、中国やカザフスタンやノルウェーなどとの領土紛争は「引き分け(面積折半)」の原則で政治決着したが、第二次大戦の結果が絡むバルト諸国との領土紛争では一切譲歩しなかったと言われる。北方領土もまた、第二次大戦の結果と、ロシアは主張する。その意味で、2013年2月、森元首相との会談で北方領土に関して「引き分け」という言葉を使い、「勝ち負けなしの解決だ。つまり双方受け入れ可能な解決だ」と解説した意味が問われるが、その時々の環境によって、例えばトランプ氏がプーチン大統領に秋波を送っても変わってしまう。今回の共同記者会見の映像を見ていて、プーチン大統領がなんとも浮かない顔をしていたのが印象的だったが、独裁者プーチンと言えども、また安倍首相との個人的関係を以てしても、ロシア国民感情を無視して妥協するわけには恐らく行かないのであろう。
安倍首相がロシアとの平和条約締結に拘る背景には、命を削ってまで日露(当時ソ連)関係改善に拘った父上・安倍晋太郎氏(元外相)の存在があると言われる。そんな情念は分からないでもないが、語るべきは安倍首相の「地球儀を俯瞰する外交」が遠交近攻の兵法によって兵法の本家・中国を包囲しヘッジするものであり、ロシアはその重要な構成要素となることだ。その意味では、私も日本人として領土問題に拘りたい気持ちはやまやまだが、そこは100年のスパンで取り組むとして(それくらい時間が経てば戦略環境も変わるかも?)、依然、ロシアのクリミア併合の傷跡は癒えず、欧米によるロシア経済制裁は続く中、先ずは平和条約締結に向けてじっくり環境整備に取り組むとする方向性もやむを得ないかも知れない。くれぐれも「良いとこ取り」されないように・・・これはタフな交渉となりそうだ。
これより前、今月7日に、読売新聞と日本テレビがモスクワでプーチン大統領にインタビューを行った際に、既に期待値を下げるようなコメントが報じられていた(このインタビュー自体も、官邸筋から読売への要請によるものではないかと睨んでいるが、穿ち過ぎだろうか)。その読売新聞のインタビューで、今年は1956年の日ソ共同宣言以来60周年という歴史の節目で日本国民は非常に大きな期待をしているがと問われたプーチン大統領は、「安倍首相と私の交渉について予測するのは時期尚早だ。もちろん、前進を期待している」と、水を差していた。さらに踏み込んで、「共同宣言には2島について書かれている。だが、(あなたは)4島の問題について言及した。つまり、共同宣言の枠を超えた。これはまったく別の話で、別の問題提起だ」と、クギを刺していた。
北方領土について、日本人は四島返還に拘り、返還を条件として平和条約に至る交渉を渋って来たし、その際、四島の来歴、つまり日本の「固有の領土」という歴史的正当性ばかりに目を向けて、北方領土がロシアにとって戦略的に重要な場所であることは閑却している。地図を見れば分かるが、ロシア海軍太平洋艦隊の母港が置かれている不凍港ウラジオストクから太平洋に抜けるためには、国後・択捉両水道(海峡)は不可欠である。逆に、北方四島を、従い両水道(海峡)を日本に返還し、自らコントロールできなくなると、自らの内海としておきたいオホーツク海への米・攻撃原潜の侵入もあり得ないわけではなくなるし、かつて真珠湾攻撃にあたって大日本帝国海軍機動部隊(第一航空艦隊)が出撃(出港)した択捉島の単冠(ヒトカップ)湾(ここもまた真冬でも流氷の影響を受けない天然の良港)に米・海軍基地が置かれるようなことになれば、ロシアにとって大変な脅威になる。その意味でロシアは、1956年の日ソ共同宣言に沿って歯舞・色丹二島返還に応じることは可能でも、国後・択捉を含む四島返還は、国家安全保障上、そもそも当面は無理筋ではないかと思ったりもする。
領土問題はやはり簡単ではないということには別の意味合いもある。ロシアは、中国やカザフスタンやノルウェーなどとの領土紛争は「引き分け(面積折半)」の原則で政治決着したが、第二次大戦の結果が絡むバルト諸国との領土紛争では一切譲歩しなかったと言われる。北方領土もまた、第二次大戦の結果と、ロシアは主張する。その意味で、2013年2月、森元首相との会談で北方領土に関して「引き分け」という言葉を使い、「勝ち負けなしの解決だ。つまり双方受け入れ可能な解決だ」と解説した意味が問われるが、その時々の環境によって、例えばトランプ氏がプーチン大統領に秋波を送っても変わってしまう。今回の共同記者会見の映像を見ていて、プーチン大統領がなんとも浮かない顔をしていたのが印象的だったが、独裁者プーチンと言えども、また安倍首相との個人的関係を以てしても、ロシア国民感情を無視して妥協するわけには恐らく行かないのであろう。
安倍首相がロシアとの平和条約締結に拘る背景には、命を削ってまで日露(当時ソ連)関係改善に拘った父上・安倍晋太郎氏(元外相)の存在があると言われる。そんな情念は分からないでもないが、語るべきは安倍首相の「地球儀を俯瞰する外交」が遠交近攻の兵法によって兵法の本家・中国を包囲しヘッジするものであり、ロシアはその重要な構成要素となることだ。その意味では、私も日本人として領土問題に拘りたい気持ちはやまやまだが、そこは100年のスパンで取り組むとして(それくらい時間が経てば戦略環境も変わるかも?)、依然、ロシアのクリミア併合の傷跡は癒えず、欧米によるロシア経済制裁は続く中、先ずは平和条約締結に向けてじっくり環境整備に取り組むとする方向性もやむを得ないかも知れない。くれぐれも「良いとこ取り」されないように・・・これはタフな交渉となりそうだ。
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