初春松
万代のはしめの春としらせけり今朝初風の松にふくなり
(後鳥羽院御集~続群書類従15下)
けふといへは-まつわかみつを-むすへとや-つららふきとく-はるのはつかせ
(沙玉集~日文研HPより)
いはそそく-たるみのおとに-しるきかな-こほりとけゆく-はるのはつかせ
(正治初度百首_二条院讃岐~日文研HPより)
こほりとくはるのはつかぜたちぬらし霞にかへる志がのうら波
(拾遺愚草~久保田淳「藤原定家全歌集」)
麗景殿女御の歌合の歌 平兼盛
山川のみかさまされる春風に谷のこほりはとけにけらしも
(続後拾遺和歌集~国文学研究資料館DBより)
はつ春の歌とて きのとものり
水のおもにあや吹みたる春風やいけの氷をけふはとくらん
(後撰和歌集~国文学研究資料館DBより)
長家卿家歌合によめる 源季遠
いかなれは氷はとくる春風にむすほゝるらむ青柳の糸
(金葉和歌集(初度本)~続群書類従14上)
浅みとり染てみたれる青柳の糸をは春の風やよるらん
(新勅撰和歌集~国文学研究資料館DBより)
さほひめの-いとそめかくる-あをやきを-ふきなみたしそ-はるのはつかせ
(兼盛集~日文研HPより)
承久元年内裏百番歌合に、野径霞といふことを 順徳院御歌
夕附日かすむ末野に行人のすけの小笠に春風そふく
(風雅和歌集~国文学研究資料館DBより)
梅風
遠近の霞吹きとく春風にむすはほれたるむめかかそする
(草根集~日文研HPより)
依梅知春
梅のはなさきにけらしも深山べの雪ま打ちいづる春の初風
梅
春の花色の千くさの行へまでほのかに匂ふ梅のはつかぜ
(春夢草~新編国歌大観8)
むめかえに吹はるかせをしるへにてはなのやとゝふうくひすのこゑ
(未詳私撰集~「古筆への誘い」国文学研究資料館編、平成17年、三弥井書店、30ページ)
榊ふくはつ春風にさそはれて千世をこめたるうくひすのこゑ
(後鳥羽院御集~続群書類従15下)
更けゆくままに、霞の迷ひなく澄み昇る月影に、物の音(ね)すごく聞きなされて、名にし負(お)ふ梅津の里の春風(はるかぜ)、香りなつかしう吹き迷(まよ)ふほど、艶(えん)なるにも、(略)
(恋路ゆかしき大将~「中世王朝物語全集8」笠間書院)
きさらぎのころそらの気色のどやかにかすみ渡りてゆるらかに。吹春風に軒の梅なつかしくかほり来て。鶯のこゑうらゝかなるもうれはしき御心ちには物うかるねにのみきこしめしなさる。
(増鏡~国文学研究資料館DBより)
比はきさらぎ十日餘の事なれば、梅津の里の春風に、餘所の匂もなつかしく、大井河の月影も、霞にこめて朧也。
(平家物語~バージニア大学HPより)
建仁二年三月、和歌所にて六首歌めしける時、春歌 従二位家隆
桜花ちりかひかすむ久かたの雲ゐにかほるはるの山かせ
(新千載和歌集~国文学研究資料館DBより)
夕べの雨も吹く春風もなほ見る人からに分きける心の色にや、ほかの梢よりはにほひことなる花の錦も、ただ遠方此方(をちこち)にかひなき御ながめにて、雲居に馴れし春の恋しさ、南殿の桜の盛りには、必ず上の御局にて見せさせ給ひしものを、など思(おも)ほし続くるに、(略)
(いはでしのぶ~「中世王朝物語全集4」笠間書院)
たちまがふ霞ばかりは払ふともはな吹きのこせ峰の春風
(光経集)
花の歌の中に 藤原為道朝臣
桜はなよきてと思ふかひもなく此ひともとも春風そ吹
(新後撰和歌集~国文学研究資料館DBより)
大空におほふはかりの袖もかな春さく花を風にまかせし
(後撰和歌集~国文学研究資料館DBより)
(略)若宮、
「まろが桜は咲きにけり。いかで久しく散らさじ。木のめぐりに帳を立てて、帷子を上げずは、風もえ吹き寄らじ」
と、かしこう思ひ得たり、と思ひてのたまふ顔のいとうつくしきにも、うち笑まれたまひぬ。
(源氏物語・幻~バージニア大学HPより)
亭子院歌合に 延喜御製
はる風のふかぬ世にたにあらませは心長閑に花はみてまし
(続後撰和歌集~国文学研究資料館DBより)
(略)春の夕暮に、山々を見てあれば、折しも春風に、桜の花が散りかゝる、ちりちりはつと花の散りたるは、空に知られぬ雪かと見えて面白や、(略)
(岩波文庫「松の葉」より「春風」)
高砂の。 松の春風吹き暮れて。 尾上の鐘もひびくなり。
(謡曲「高砂」~バージニア大学HPより)
千鳥鴎の沖つ浪。ゆくか歸るか春風の。 空に吹くまでなつかしや。空に吹くまでなつかしや。
(謡曲「羽衣」~バージニア大学HPより)
怪しぶことなかれ紅巾(こうきん)の面(おもて)を遮(さしかさ)いて咲(わら)ふことを 春の風は吹き綻(ほころ)ぼす牡丹の花
(和漢朗詠集~岩波・日本古典文学大系)
(延喜六年正月)廿一日乙亥。内宴於仁寿殿。題云。春風散管絃。
(日本紀略~「新訂増補 国史大系11」)