さて先週末の5月米雇用統計はヘッドライン(雇用増33万9000人増)と2カ月連続で加速し、市場予想の19万人増を大幅に上回った。
昨年来何度か見られてきた雇用増の予想比上振れを受けた連邦準備理事会(FRB)の利上げ継続観測の高まりでNY金下落が、利上げサイクル終盤とみられる足元のタイミングでも起きることになった。
雇用統計の結果を受け、下げ足を速めた。通常取引終了後のNY時間外取引では一時1963.70ドルまで売られ、週末の取引を1964.30ドルで終了した。ほぼ安値引けに近い形での終了といえる。
一方で市場が反応した割には雇用統計の評価は高くなかった。雇用者増加数を見る分には、なお過熱を思わせる内容といえるが、細目からは軟化の兆しが示されているとされる。そのため今回の結果を受けてもFRBによる6月利上げは見送りとの見方が大勢を占めている。
インフレとの関連で平均時給の伸び率がまず注目されるのは毎回のこと。引き続き鈍化傾向を示し、インフレの鎮静化を示唆した。
今回注目されたのは失業率の前月からの上昇幅。前月比0.3%ポイントの伸びは20年4月以来の大きさで、失業者数は5月に前月比44万人増加となった。新型コロナウイルス禍が始まった直後に記録的に急増した時期があったが、それに次ぐ大きさとなった。FRBはこの上昇に注目するとの指摘がある。
さらに、週平均労働時間が34.4時間から34.3時間に低下し、やはり20年4月以来の低水準となったこと。景気が弱まり始めると、雇用主は人員を削減するよりまず労働時間を減らす傾向があるとされる。企業は採用に熱心だが見た目ほど需要は強くない、との指摘がある。
来週13~14日の日程で開かれる連邦公開市場委員会(FOMC)を前に、すでにFRB関係者は発言を控えるブラックアウト期間に入っており、雇用統計に対する当局の見解を見極めることはできない。市場では雇用統計の結果は総じて6月利上げ見送りの考えを変えるほど明確な強さを示したものではなかったというのが大勢となっている。
最後に価格展開について書くと6月2日に至る先週1週間のNY金の値動きは興味深かった。
5月31日の講演で次期FRB金融政策担当副議長に指名されているジェファーソン理事が6月の利上げ見送りに前向きな姿勢を示したことに反応。ちょうどNYコメックスは6月物から8月物への限月交代があったことで、それに伴い短期金利に見合ったプレミアムの押し上げ効果もあり、一時2000ドル大台に復帰した。
その際に節目とみられる1950ドルは何の抵抗もなかった。欧米投機筋がフル参戦していない展開ゆえに、いわゆる「しこり玉(しこり)」がないといえる。チャート上の節目もそれゆえ意味をなさないのかもしれない。これは2000ドルでも同じだった。
押しは深くないと思われる。