Pの世界  沖縄・浜松・東京・バリ

もの書き、ガムランたたき、人形遣いPの日記

ブレヒト・ソング《マック・ザ・ナイフ》

2007年06月13日 | CD・DVD・カセット・レコード
 数日前、那覇のタワーレコードでエラ・フィッツジェラルドの1960年のベルリンライブのCDを買う。このCDでとりわけ有名なのは、彼女の歌う《マック・ザ・ナイフ》である。この曲はクルト・ワイル〈三文オペラ〉の挿入歌で、本来のドイツ語のタイトルは「Die Moritat von Mackie Messer 殺人鬼のマッキー・メッサー」。美しい旋律のわりには、その詩はグロテスクである。このアンバランスが素敵だ。
 だいたいこの《三文オペラ》は、タイトルに「オペラ」がついているとはいえ、少なくても私が音楽史で学んだ「オペラ」とは全く違って、「音楽劇」に近い。学生時代、18、19世紀の西洋芸術音楽に溢れ、お嬢さんの集まる音楽大学に嫌気がさした時、ブレヒト脚本で社会の底辺を描いたこの作品は、ことさら新鮮に映り、特にジャズやタンゴなどの影響を受けたドイツ人作曲家、ワイルの音楽に魅了された。
 ワイルの原曲とは異なり、フィッツジェラルドのジャズ風《マック・ザ・ナイフ》はまるで別ものである。途中で歌詞を変えてしまったりしていることころが、なんとなくライブ録音らしい。ただ、やっぱりモダンジャズ・ミュージシャンが演奏しているために、その編曲がワイル原曲の「ラグ」風な響きがなくなってしまって、それが個人的に気に入らない。どちらかといえば、マリアンヌ・フェイスフルのライブ録音に収録された《マック・ザ・ナイフ》の方が、編曲も原曲に近いし、ハスキーな「ドス」が効いていて好きである。
 実は大学時代、東京文化会館でクルト・ワイル〈三文オペラ〉を観たことがある。ドイツからきたグループで、もちろんセリフと歌はドイツ語で、当時は字幕もなく何を言っているのか全くわからなかった。私がお金を払ってホールで見た最初で(最後)の「オペラ」である。もちろんその上演や音楽についての印象は残っているが、一番記憶にあるのは、そのチケットの値段の高さである。たぶん当時で、1万円以上はしただろう。
 この「オペラ」の最初のセリフはこうだ。
「これから乞食のためのオペラのなかのいくつかのソングをお聞かせします。このオペラは、乞食だけが夢想できるような豪華さを考えてつくってあり、そして乞食も入場料を払えるように廉価になっておりますから、「三文オペラ」という外題になっています。・・・」(岩淵達治訳)
 どう考えても、1万円もするチケットを「乞食」は買えないと思うのですが・・・。