① 青森県弘前の春
弘前城は桜の名所である。
もう5年前になるが、
家内の母と一緒に、3人でその満開を堪能した。
その弘前公園の桜祭りだが、今年は中止になった。
それを発表する席で弘前市長は、
報道各社にこんなことを求めたと言う。
『桜が咲いたと知れば、桜を見たいという行動を誘発する。
市民の命と健康を守るため、桜の見頃が終わるまで、
弘前公園で咲く桜の画像や動画を公開しないでほしい。』
報道陣からは、
「個人の表現の自由や報道の自由に踏み込めるのか。」
との声があったようだ。
しかし、例年、県内外から多くの観光客が押し寄せるシーズンだ。
タイミングが悪い。
人の密集を何としても避けたい。
市長として考え抜いた結果の、コロナ感染の拡大防止策なのだろう。
十分に理解できる。
だけど、「そこまでする!?」。
なんて切ない桜の春だろう。
② 私の町の春
一方、地元新聞記事は、
私の町の春をこう告げている。
* * * *
ボランティア団体・・クラブが管理する敷地には、
池などがあり多様な草花が育つ。
今はカタクリやエゾエンゴサク、アズマイチゲが見ごろ。
柔らかな日差しに誘われるようにエゾリスも元気に動き回る。
春の野草の周りを走り、
大きなしっぽを振りながら木から木へ素早く移動する。
・・・現在4,5匹が生息しているという。・・・
「ちょうど鳥が動きだす時季でもある」
と紹介するのは日本野鳥の会・・支部長。
4,5月は夏鳥が繁殖のため、本州や東南アジアから渡ってくる。
同敷地内でも、カワラヒナやキジバト、
ウグイス、ヒバリなどが確認されている。
快晴に恵まれた・日は、
周辺でノルディックウオーキングを楽しむ市民らも。
同・・クラブの・・副代表は、
新型コロナウイルス感染症の対策を取った上で
「家にいると気分が落ち込むこともある。
きれいな花々を見ると気分転換になりますよ」
と話している。
* * * *
4月になり、「だて歴史の杜公園」にも春が訪れている。
弘前とは比較できないが、
こちらはコロナで滅入る気分転換に、
「春を楽しんでは・・」と誘っている。
人出もまばら「3密」など無縁だ。
しばしコロナを忘れることができると思う。
③ 『道民若葉マーク』の春
これも新聞からの転用だ。
某紙の読者投稿欄にすっかり共感し、
拍手喝采した。
昨今、ワイドショー番組のコメント内容に、
不快感が増大し、ストレスが鬱積していた。
話題は全く違うが、このコラムに救われた。
* * * *
春の思い出
松永 正実
あ! え? ミズバショウだ。こんな場所にも咲くんだ。
てっきり夏の花だと思っていたー。
30年前、北海道で迎えた初めての春に、
この花と出合った瞬間の印象である。
そこは雪解け水を集めてできたような、
何の変哲もない小さな湿地であった。
ミズバショウと一緒に鮮やかな黄色の花も咲き乱れていて、
すてきな空間をさらにぜいたくなものにしている。
この花は調べてみて、エゾノリュウキンカだと分かった。
驚いたのはこれだけ見事な群生地に対して、
周囲の人々が大して関心を示していなかったことだ。
ミズバショウは東京辺りではまずお目にかかれない花。
有名な唱歌「夏の思い出」にある通り、
はるかな遠い空の下に咲く憧憬の花だというのに。
翌朝、二つの花の美の競演をカメラに収めようと
早起きして出かけることにした。
幸運にもガスが立ちこめて、絶好の撮影日和だ。
喜び勇んで現場に着くと、様子がおかしい。
なんとおばさんが1人、
せっせとエゾノリュウキンカを収穫しているではないか。
そう、エゾノリュウキンカはヤチブキという
別名がある山菜でもあったのだ。
花の部分は要らないのだろう、
その足元にはバッサリと切り落とされた、
鮮やかな黄色がむなしく散乱している。
カメラを手にぼうぜんと立ち尽くす自分が、
ひどく間抜けに思えた。
春が来れば思い出す、
道民若葉マークだった頃の切ない出来事である。
(養鶏業・八雲)
* * * *
ミズバショウについては、
私にも同類の「道民若葉マーク」がある。
兄の住まいがある登別市に、
数年前に『キウシト湿原』と言う公園ができた。
そこへはまだ行ったことがないが、
住宅街に湿原があり、貴重な自然が残っているらしい。
その公園が開設された翌年のこと、
兄と一緒にお彼岸の墓参を済ませた帰り道だ。
助手席に座っていた兄が指差して言った。
「あそこにキウシト湿原があるんだ。
もうすぐ、ヘビマクラがいっぱい咲くんだ。
今度、行ってみるといいぞ。」
『ヘビマクラ!』。
何のことか、見当がつかなかった。
「なに、それ?」。
ハンドルを握りながら訊いた。
「池の脇なんかに咲く白い花だ。知らないか。」
「春の白い花か・・?、
ミズバショウなら分かるけど・・・。」
「それだ、それ。ヘビマクラって言うべ。」
かなりショックを受けた。
あの可憐な花が、「ヘビマクラ」とは。
あまりにもドギツイ。
④ 変わりない春
花壇の土が、所々小さくひび割れ、盛り上がっている。
まもなく緑色の新芽がのぞくのだろう。
芽吹きにはまだ少し早いが、
ジューンベリーの花芽が確実に膨らみ、
その先に白みがおびている。
物置の屋根に、冬を無事に越えた雀の親子が時々並び、
交互にさえずり合う声が私の部屋まで聞こえてくる。
朝は、いい天気が続く。
その日は、うす雲が多くても、
その切れ間から明るい青空がのぞいていた。
ランニングの荒い息のまま、畑のすぐ横を通った。
農家さんの若夫婦が、並んで整地した畑にかがんでいる。
やや離れていたが、春野菜の苗植え作業だと分かった。
2人のかすかな話声が聞こえてきた。
それは柔らかな日差しの、のどかさに溶けていた。
そして、次に、
若々しい奥さんの、コロコロと転がるような笑い声が、
走り抜ける私の背中を追いかけてきた。
そんな北の春に、私は生まれた。
今日で、72歳になる。
交通安全を見守る 冬はニット帽にマフラーだけど
弘前城は桜の名所である。
もう5年前になるが、
家内の母と一緒に、3人でその満開を堪能した。
その弘前公園の桜祭りだが、今年は中止になった。
それを発表する席で弘前市長は、
報道各社にこんなことを求めたと言う。
『桜が咲いたと知れば、桜を見たいという行動を誘発する。
市民の命と健康を守るため、桜の見頃が終わるまで、
弘前公園で咲く桜の画像や動画を公開しないでほしい。』
報道陣からは、
「個人の表現の自由や報道の自由に踏み込めるのか。」
との声があったようだ。
しかし、例年、県内外から多くの観光客が押し寄せるシーズンだ。
タイミングが悪い。
人の密集を何としても避けたい。
市長として考え抜いた結果の、コロナ感染の拡大防止策なのだろう。
十分に理解できる。
だけど、「そこまでする!?」。
なんて切ない桜の春だろう。
② 私の町の春
一方、地元新聞記事は、
私の町の春をこう告げている。
* * * *
ボランティア団体・・クラブが管理する敷地には、
池などがあり多様な草花が育つ。
今はカタクリやエゾエンゴサク、アズマイチゲが見ごろ。
柔らかな日差しに誘われるようにエゾリスも元気に動き回る。
春の野草の周りを走り、
大きなしっぽを振りながら木から木へ素早く移動する。
・・・現在4,5匹が生息しているという。・・・
「ちょうど鳥が動きだす時季でもある」
と紹介するのは日本野鳥の会・・支部長。
4,5月は夏鳥が繁殖のため、本州や東南アジアから渡ってくる。
同敷地内でも、カワラヒナやキジバト、
ウグイス、ヒバリなどが確認されている。
快晴に恵まれた・日は、
周辺でノルディックウオーキングを楽しむ市民らも。
同・・クラブの・・副代表は、
新型コロナウイルス感染症の対策を取った上で
「家にいると気分が落ち込むこともある。
きれいな花々を見ると気分転換になりますよ」
と話している。
* * * *
4月になり、「だて歴史の杜公園」にも春が訪れている。
弘前とは比較できないが、
こちらはコロナで滅入る気分転換に、
「春を楽しんでは・・」と誘っている。
人出もまばら「3密」など無縁だ。
しばしコロナを忘れることができると思う。
③ 『道民若葉マーク』の春
これも新聞からの転用だ。
某紙の読者投稿欄にすっかり共感し、
拍手喝采した。
昨今、ワイドショー番組のコメント内容に、
不快感が増大し、ストレスが鬱積していた。
話題は全く違うが、このコラムに救われた。
* * * *
春の思い出
松永 正実
あ! え? ミズバショウだ。こんな場所にも咲くんだ。
てっきり夏の花だと思っていたー。
30年前、北海道で迎えた初めての春に、
この花と出合った瞬間の印象である。
そこは雪解け水を集めてできたような、
何の変哲もない小さな湿地であった。
ミズバショウと一緒に鮮やかな黄色の花も咲き乱れていて、
すてきな空間をさらにぜいたくなものにしている。
この花は調べてみて、エゾノリュウキンカだと分かった。
驚いたのはこれだけ見事な群生地に対して、
周囲の人々が大して関心を示していなかったことだ。
ミズバショウは東京辺りではまずお目にかかれない花。
有名な唱歌「夏の思い出」にある通り、
はるかな遠い空の下に咲く憧憬の花だというのに。
翌朝、二つの花の美の競演をカメラに収めようと
早起きして出かけることにした。
幸運にもガスが立ちこめて、絶好の撮影日和だ。
喜び勇んで現場に着くと、様子がおかしい。
なんとおばさんが1人、
せっせとエゾノリュウキンカを収穫しているではないか。
そう、エゾノリュウキンカはヤチブキという
別名がある山菜でもあったのだ。
花の部分は要らないのだろう、
その足元にはバッサリと切り落とされた、
鮮やかな黄色がむなしく散乱している。
カメラを手にぼうぜんと立ち尽くす自分が、
ひどく間抜けに思えた。
春が来れば思い出す、
道民若葉マークだった頃の切ない出来事である。
(養鶏業・八雲)
* * * *
ミズバショウについては、
私にも同類の「道民若葉マーク」がある。
兄の住まいがある登別市に、
数年前に『キウシト湿原』と言う公園ができた。
そこへはまだ行ったことがないが、
住宅街に湿原があり、貴重な自然が残っているらしい。
その公園が開設された翌年のこと、
兄と一緒にお彼岸の墓参を済ませた帰り道だ。
助手席に座っていた兄が指差して言った。
「あそこにキウシト湿原があるんだ。
もうすぐ、ヘビマクラがいっぱい咲くんだ。
今度、行ってみるといいぞ。」
『ヘビマクラ!』。
何のことか、見当がつかなかった。
「なに、それ?」。
ハンドルを握りながら訊いた。
「池の脇なんかに咲く白い花だ。知らないか。」
「春の白い花か・・?、
ミズバショウなら分かるけど・・・。」
「それだ、それ。ヘビマクラって言うべ。」
かなりショックを受けた。
あの可憐な花が、「ヘビマクラ」とは。
あまりにもドギツイ。
④ 変わりない春
花壇の土が、所々小さくひび割れ、盛り上がっている。
まもなく緑色の新芽がのぞくのだろう。
芽吹きにはまだ少し早いが、
ジューンベリーの花芽が確実に膨らみ、
その先に白みがおびている。
物置の屋根に、冬を無事に越えた雀の親子が時々並び、
交互にさえずり合う声が私の部屋まで聞こえてくる。
朝は、いい天気が続く。
その日は、うす雲が多くても、
その切れ間から明るい青空がのぞいていた。
ランニングの荒い息のまま、畑のすぐ横を通った。
農家さんの若夫婦が、並んで整地した畑にかがんでいる。
やや離れていたが、春野菜の苗植え作業だと分かった。
2人のかすかな話声が聞こえてきた。
それは柔らかな日差しの、のどかさに溶けていた。
そして、次に、
若々しい奥さんの、コロコロと転がるような笑い声が、
走り抜ける私の背中を追いかけてきた。
そんな北の春に、私は生まれた。
今日で、72歳になる。
交通安全を見守る 冬はニット帽にマフラーだけど