どんぴんからりん

昔話、絵本、創作は主に短編の内容を紹介しています。やればやるほど森に迷い込む感じです。(2012.10から)

ひみつのとびら・・モロッコ

2013年09月29日 | 昔話(アフリカ)

    ひみつのとびら/大人と子どものための世界のむかし話11 モロッコのむかし話/クナッパート・編 さくまゆみこ・訳/偕成社/1990年初版


 モロッコというと映画「カサブランカ」が浮かぶ。これに出演した女優のイングリッドバーグマンは、私生活でも波乱にとんだ人生をおくっているが、ハリウッドが生んだ偉大なスターもスエーデンの出身と聞くと意外なきもする。

 ハリウッド女優というと、オードリーヘップバーンもイギリスの女優であるが、ブリュセル生まれで、第2次世界大戦中には、ナチス・ドイツが占領していたオランダにも住んでいて、バレリーナとなっていたヘプバーンがオランダの反ドイツレジスタンスのために、秘密裏に資金集めに協力していたようである。
 また当時の混乱した中で飢えに苦しむ生活をおくっていたようで、女優という華やかな存在の裏に、こんな歩みがあることを知ると、距離がずっと近くなったことを思い出す。(やはり古い かな・・・)

 ところでモロッコの昔話に「かしこいむすめと砂漠の王さま」というのがある。(大分長い話で、語るとすると1時間ほどかかりそうなお話)

 七人の娘が登場し、末娘のフルジャが姉たちと知恵をめぐらし、四十人の盗賊をこらしめる場面がでてきて、アランビアンナイトの「アリババと四十人の盗賊」と重なります。
 むくつけき盗賊を、フルジャやモルジアナのような賢い娘が盗賊をこらしめる対比を思い浮かべると楽しくなるが、ここで登場する盗賊が二つの話とも四十人というのは、やはりなにか意味がある数字なのか知りたくなります。

 おなじモロッコの昔話で「ひみつのとびら」は、開けてはならないと言われた部屋を開けてしまった若者の話。開けてはならないと言われると開けてみたいのが人間の常。

 しかし、この話のオチは他の話と一味ちがっている。

 貧しい若者が仕事を探していたとき、一人の老人にあう。この老人が若者を連れて行った家には、おおぜいの老人がすんでいた。若者は食事をつくったり、買い物をすることを条件に、この家にすむことになるが、この家にはたくさんの金貨があって気楽な生活をおくるようになる。 

 しかし、この家にすんでいた老人たちは、次々に亡くなっていく。そのたびに若者はたくさんの金貨をつかって立派な葬式をだしてあげる。最後の老人が、亡くなる前に家の鍵を全部若者にわたし、どの部屋を開けてもいいが、この小さな鍵だけはわざわいをもたらすと言い残す。
 どの部屋にも金貨や宝物がぎっしりつまっていたが、それにも飽きて、誘惑にかられて、開けてはならないといわれた部屋をあける。

 すると若者は、ある都にいき、お姫さまと結婚することになる。しかしこの<さいわいの国>では、女が国をおさめる仕事をうけもち、男たちは土地を耕し、種をまいて取り入れるだけ。
 王さまとなった若者は、どんな食べ物でも衣服でも手に入れられるし、馬を乗り回したり、王室の帆船で海をかけたりすることもできるなど、何不自由ない生活。
 
 ところがある日、他の国がせめてきたというので女兵士は戦にでかける。(この国ではいくさをするのも女たちの役割)。

 女たちは、王国の鍵束を若者にわたし、どの部屋に入ってもいいが、この小さな鍵があう扉だけは開けてはいけないと言い残して出発する。

 開けてはいけないと言われた部屋をあけると、そこは以前、若者が老人たちと暮らしていた家が。鏡をのぞくと白髪としわと、むねまでたれるながい白髭の自分の姿がうつっていた。

 この話は、何回、繰り返されてもおかしくない構造になっているが、若者が<さいわいの国>にいくことができた鍵は、<さいわいの国>においたままなので、もういくことはできない。
 
 女がすべてを取り仕切っているというあたりに、男性優位社会への皮肉がこめられているよう。