どんぴんからりん

昔話、絵本、創作は主に短編の内容を紹介しています。やればやるほど森に迷い込む感じです。(2012.10から)

不幸のパン

2014年06月10日 | 創作(外国)

     不幸のパン/フィオリモンド姫の首かざり/アリ・ド・モーガン・作 矢川澄子・ 訳/岩波少年文庫/1996年初版


 イギリスのメアリ・ド・モーガン(1850-1907)の辛子がきいていて、コクのある童話。これまで読んだ中で、中学生向きのものがあまりないと思っていたが、よくできた短編小説を読む感じで、中学生にも楽しめる感じ。

 あるむら気でおこりっぽいパン屋が全部のパンを焦がしてしまい、パンを床にぶちまけると、その中から出てきたのは、黒い小鬼。この小鬼がパンがまの中に住みこませてくれるなら、焼け具合をみてあげる、そうすれば一本の焼き損じはなくなるよともちかける。
 この小鬼がパンがまに入り込むと、焼き時間などにろくに注意もしないのに、できあがったパンは、申し分のないパン。
 ところがこのパン。人に不幸をもたらすパン。

 はじめに、パンを買った判事は、叔母さんの遺産を受け取ることになったにもかかわらず、もう少し欲しかったと、言いだし、奥さんはもう少し若いときにほしかった、子どもたちは何の楽しみもないといいだし、一家はお金をめぐって、喧嘩しはじめます。
 
 村の医者がパンを食べると、せっかく患者をなおしたのに、これからどんな不運に見舞われるかもしれない、ほっといたほうがよかったといいだします。そして、医者など一人もいないほうが、よっぽどいいのにと言い出す始末。

 新婚早々の若い夫婦がパンを食べると、こんな幸せは、考えてみれば恐ろしい。何か大きな不幸せがさっさと起こってくれるのが望ましいといいます。

 一方、先祖伝来の立派な屋敷をもっていた農夫は、パンを食べたとたんに、家が崩れるのではないかという疑念にかられます。

 村じゅうが、パンを食べた者は不機嫌に怒りっぽくなり、ぶつぶついうか、いらいらするか、涙に沈むかになります。

 ところがパン屋だけは、商売が繁盛して、一人幸せそうにしています。
 これを妬んだ村人たちは、判事に裁きをつけてもらうことに。
 パン屋は鞭打ちになり、村人からは、パンがまを壊されてしまいます。
 そして、小鬼が、かまから逃げ出すと、村人の様子がすっかりかわってしまい、元の村にもどります。

 パン屋は、パンが黒焦げになることより、もっと悪いことがあるのを思い知ります。

 イギリスの女性作家というと、推理小説フアンだったらアガサ・クリスティの作品にふれない人はいないはずで、ブロンテ3姉妹の小説に引き込まれた人も多いはず。
 この作者はあまり多くの作品を残していないが、もっと知られてもおかしくない。