うみのがくたい/大塚勇三・作 丸木 俊・絵/福音館書店/1964年
ある船で働いている人たちは音楽好きで、楽隊をつくっていました。夕方になると、手の空いている人たちは 甲板で合奏していましたが、そのうち、船の人たちは、おかしなことに きがつきました。いつでも 音楽がはじまると、船のまわりにクジラやサメ、イルカやカツオなど、とにかくびっくりするほど、たくさんの魚が集まってきたのです。
ある日の夕方、船が嵐に巻き込まれ、もう駄目だと思ったことも、何度かありましたが、不思議と、船はしずみませんでした。クジラやサメ、そのほかの魚が、船が沈まないように下から押し上げていたのです。
「昨夜は楽隊をやらなかったね」という クジラに、船の修理がおわった船乗りたちは、知っているかぎりの音楽を、次から次へと演奏します。
やがて「じぶんが やれたら、どんなに いいかなあ」というクジラに、船の人たちはラッパを投げてあげ、ほしいという魚たちには ピッコロ、バイオリン、ビオラ、トライアングル、カスタネットまで投げてあげます。
「さあ、やってごらん」 船の人たちの よびかけで 魚たちの演奏がはじまります。はじめはそろいませんでしたが、いつのまにか、音がそろい、きいたこともない 不思議な音楽が、波の上に 響き渡りました。
これからあと、そのあたりの海を、船が通ると ときどき 海の どこからか 不思議な音楽が響いてきます。とりわけ、うつくしい夕焼けのときなどは、本当に、素晴らしいといいます。
音楽好きの魚という発想にびっくりです。しかし、素晴らしい音楽は、人間のものだけではないのかも。
最後の夕焼けの絵は、まさに幻想的です。