大分のむかし話/大分県小学校教育研究会国語部会編/日本標準/1975年)
ある浜辺の村に、サザエとりのうまい漁師がおった。
ある日、今までにないくらいサザエがようとれて、日が暮れかかっとるのも気がつかんで、漁をしているうちにとうとう夜になってしもうた。
サザエでいっぱいの船は、重さでしずみそうになっていた。はらはひる、船は重い、早く帰ろうと思っても、櫓をこぐのが おっくう。漁師は、小さい島に船をつないで、焚火をしてサザエをならべて焼きはじめた。
いっときすると、ジュジュ、ジュジュと ええにおいがしてきた。ひもじゅうてたまらん漁師は、あわてて、あちち、ちゅうて、サザエをつかんでみると、中身はからっぽ。そのつぎもそのつぎもからっぽ。おかしなことがあるもんじゃと、船の後ろについている綱をとおす鉄の輪からのぞいてみると、やせこけたはだかのおじいが、うまそうに、口をもぐもぐさせているのが、よう見えた。海じじいじゃ。こいつにおうたらろくなこたあない。おれまで食われてしまう、はようにげなきゃ。
漁師は、あわてて船に積んどるサザエを海にすてて、船を軽くすると、櫓をギッコ、ギッコさせて、じいのところから にげだした。そしたら「もうちょっと、サザエを食わせえ」と、おじいの声がした。
海じじいという珍しいキャラクター。漁師は、ほかの漁師より、いつもよけいにとるほどの腕前。村の人からは、「あげえとったら、サザエは、こん海からなくなってしまう」といわれるほどだったが、その後どうしたことやら?