グラのきこり/山の上の火/クーランダー、レスロー・文 渡辺茂男・訳/岩波書店/1963年初版
読んでて楽しい話があれば、聞いて楽しい話もあったりして、両方が一致すれば一番ですが そうそう うまくはいきません。「とんだ ぬけさく」は、読むと「なんじゃ これ?」となりますが、聞くと楽しい昔話。
ある日、もうじき子どもが生まれるといわれたテスファというお百姓が、そんな子どもが生まれるかと心配になり、山の洞穴にすんでいるおぼうさんのところへ、お礼の牛をいっぴきつれて、たずねていきました。
テスファもお坊さんも すこし抜けた人。
このおぼうさん、「おまえのうむ子どもは、男の子か、それとも女の子か、どちらかじゃ」という。それを聞いたテスファは、「ほう、なんともしあわせなこった!」と 喜んで家に帰りました。
うまれたのは、男の子。テスファは、「ぼうさんのいうとおりになったでないか!」と 繰り返しいいました。名前をつけるだんになって、おかみさんと言い合いになり名前がきめられません。テスファは、また牛をいっぴきひっぱっておぼうさんのところにでかけました。
おぼうさんは、「名前を おまえの手の中にいれてやるから、落とすんでないぞ」といい、テスファが両手を出してつくったおわんのかたちの手の中へ、口を近づけて、手の中にむかって、なにかをつぶやきました。
テスファが、手をしっかり握りしめてかえるとちゅう、ムギをうっているお百姓たちにむかって、「名前をもってるだ! 名前をもってるだ! おらあ、うんのいいおとこだぞ! おらのせがれの名前をもってるだ!」と叫んだのはいいが、もみがらで つるりとしばって すってんところびました。名前を落としてしまったと思ったテスファが、あちこちをさがしはじめると、百姓さんたちも手伝いはじめました。あちこちさがしていると、おばさんがやってきて、そこで何をしているかと、聞きました。わけを聞いたおばさんは、「とんだ ぬけさく!」というと、そのままいってしまいました。
家にかえったテスファは、おかみさんから聞かれて、「ぼうさまからさずけてもらったけど、わらの中へ、おっこしちまっただよ。」「それで、あわててさがしとるとな、村のおばさんがやってきて、『とんだ ぬけさく』って、おしえてくれたっつうわけだ。そんで、さがすのはやめたけんで、どうして、あのおばさん、しっとったかのう?」
テスファとおぼうさんのやりとりも とぼけています。読んでいると、なにこれ となりますが、笑い話には、極端なものがあって、おおかれすくなかれこうしたことがみられます。
「とんだ ぬけさく」という名前がつけられたのでしょうか。現地の言葉だったら、日本語訳と違う意味になるのかも。