第3の狭心症、実態が判明 国際共同研究で新知見 性別、人種問わず要注意 「医療新世紀」
休みなく働く心臓には絶え間なく血液が供給される。 その血流が何らかの原因で滞ると起きるのが「狭心症」だ。 動脈硬化で太い冠動脈が狭くなるタイプ、冠動脈が縮んでふさがる「攣縮(れんしゅく)」が起こるタイプが知られていたが、近年、もっと細い血管(微小冠動脈)の機能異常による第3のタイプ「微小血管狭心症」が注目されている。 国際共同研究の結果が発表され、ほかのタイプと同等のリスクがあることが明らかになった。
▽見えないリスク
下川宏明(しもかわ・ひろあき)国際医療福祉大副大学院長(東北大客員教授=循環器内科学)によると、微小血管狭心症は心臓カテーテル検査による冠動脈造影だけでは見えない。 ごく細い血管が、広がりが悪くなったり一時的に収縮したりして起こる。 体を動かしたときに限らず安静時でも胸苦しさや胸の痛みなどが生じて持続する場合があること、ほかのタイプでは効くニトログリセリンの効果が一定しないことなどが特徴だ。
下川さんによると、従来の狭心症の治療では「冠動脈の狭くなったところを治す」という考え方が主流だった。 しかし、血管を通すバイパス手術やステント手術で冠動脈の血流が戻っても、約4割の患者で胸の痛みが残ることが分かっている。
「心臓に血液を送る血管のうち血管造影検査で見えるのは5%にすぎない。見える血管が狭くなることだけでなく、微小冠動脈が機能的に血流を調整できないことに留意する必要がある」と言う。
▽男性にも
下川さんが主導した今回の国際共同研究には、東北大など日本の4機関と米英、ドイツ、イタリアなど計7カ国14施設が参加。 2015~18年、統一基準でこの病気と確定診断した患者686人を19年末まで追跡した。
平均年齢は61歳。 背景として患者の持病を調べると、高血圧症と脂質異常症が各52%と半数以上が該当し、以下、糖尿病が17%、過去の心血管病が34%だった。 喫煙している人が16%いた。
微小血管狭心症はこれまで、血管保護作用のある女性ホルモン「エストロゲン」が急激に減る閉経前後の女性に多く見られる病気とされてきた。 しかし今回の研究で、患者のうち36%と男性にも無視できない数の患者がいることが分かった。
追跡中の患者に不安定狭心症や急性心筋梗塞など四つの重大な「心血管イベント」が起きた割合が、年率7・7%だったことも重要な発見だ。
「動脈硬化による中等症から重症の狭心症と同等かそれ以上の影響がある」と下川さん。 内訳は不安定狭心症による入院が63人と最多で、急性心筋梗塞5人、急性心不全で入院1人。 9人が心血管の病気で死亡した。
▽生活の質の低下
胸痛の頻度、治療の満足度などで調べた患者の生活の質には男女差があり、女性の方が低下していた。 また人種別では、欧米人はアジア人に比べて心血管に関わる重大な症状の発生率が高かったが、持病などの背景因子の条件をそろえると、人種差を問わず要注意であることも分かった。
今回の研究結果は研究グループではなく欧州心臓病学会が直接報道発表するなど世界で注目された。 下川さんは「診断法は日本でも保険適用されており微小血管狭心症の診療を普及させる必要がある」と強調。 成果を生かした新しい治療法の開発も急がれるとしている。
では、一般の人はどうしたらこの病気に気付くことができるのか。
下川さんは「男女を問わず、患者の背景因子として多かった高血圧や脂質異常がある人は、閉経前後の女性と並んでリスクが高いと考え、自分の症状に注意して」と助言し、たばこを吸う人は禁煙が極めて重要だと指摘した。 (共同=由藤庸二郎)