自宅療養できるのか 島根県方針に医療現場 往診対応、大勢は困難 プライバシー保てない
2021年8月24日 (火)配信山陰中央新報
新型コロナウイルス感染急拡大による医療体制の逼迫(ひっぱく)に備え、島根県が、軽症か無症状で日常生活を送れる患者に限り、宿泊施設や自宅での療養に切り替える方針を示した。猛威を振るう変異株の「デルタ株」は若者でも重症化しやすいとされ、往診が必要となることが予想される中、負担の大きい医療現場が迅速に対応できるかどうかは見通せない。
県内では感染が確認されると、感染者を受け入れる「重点医療機関」が、65歳以上▽息切れ、呼吸困難症状▽妊婦―といった11項目を基準に入院の必要性を判断する。
入院の必要性がないと判断された場合、保健所が宿泊療養施設か、自宅療養かを見極める。基本的には、宿泊療養がまず選択肢になるが、家庭内に隔離できる個室があるかどうか▽感染リスクの高い同居人がいるかどうか―などの条件を考慮し、自宅療養を選ぶ場合もあるという。
■都会とは違う
自宅療養患者の健康観察や問診は地域の訪問看護ステーションの看護師と、開業医が担うと想定される。
県医師会(森本紀彦会長)は23日、県と連名で、加盟する約450の開業医に、対応可能かどうか、アンケートを始めた。どれだけの体制が整うかは現時点で未知数だ。
江口内科医院(出雲市塩冶有原町6丁目)の江口春樹院長(38)は協力する意向だが、どこまでやれるか懸念する。通常業務の合間の対応は難しく、休み時間や診療後になりそうで「大勢は診られない。(なるべく)宿泊療養でとどめてほしい」と話す。
医療人材が限られる地域は悩みが深い。大田市健康福祉部の林泰州部長は「都会地と同じことはできない」と憂う。小さな集落では、看護師や医師の訪問が目に付きやすく「あの家はコロナが出たのか、と感染者の特定につながりかねない」とプライバシー保護も気に病む。
訪問看護現場も人手が足りない。訪問看護ステーション協会松江支部の森美由紀支部長(訪問看護・介護ステーションすずらん所長)は、コロナ禍で病院の面会制限が在宅医療の希望者増につながっており「通常業務で手いっぱい」と明かす。「電話での対応が限界ではないか」とみる。
■「仮想待機室」
7月下旬から自宅療養を始めた鳥取県も対応方法は同様だ。既に病床に余裕がなく、最初から自宅療養を求めるケースが増えており、県医療政策課医療人材確保室の担当者は「より症状の重い人に自宅療養を求める場合に備えた対策も検討している」という。
島根県医師会の森本会長は「感染者や現場の不安、負担軽減を検討する必要がある」と話す。オンライン診療も一対一は効率的ではないとみて、オンライン上で患者が待機する「仮想待機室」を設け、対応可能な開業医が順次問診する仕組みの検討に入った。
県感染症対策室の田原研司室長も自宅療養の不安解消のため感染者の家族を別の施設に退避させる方法などを模索しており「走りながらだが、よりよい体制づくりに努める」と強調した。