旅行で訪れるとある街で、心惹かれる場所は少なからず、ちょっと古びたレトロ感ある場所。
時間を味方につけて古色を帯びた物や場所には、不思議と気持ちが動きます。
なんだかほっこり安心感があるのでしょうか。
たんに古ければ何でもいいということではありませんが、古びたものには、新しいものにはない存在感がある、ということかもしれません。
そんなようなことを、画家・有元利夫はよく文章に残していました。そして有元の画風はまさにそれを体現したもので、新しいキャンパスに描いては汚し、かすれさせ、積極的に古びさせていたようです。
古びることを、愉しむ。
そんな感覚を持ちながらモノづくり、家づくりをできるのは、ぼくにとっては喜びです。
八王子にできあがったこの住宅も、そんな古びる愉しみ満載です。
上の写真は、玄関の一コマ。玄関ドアの脇にはレトロな風合いのガラスがはまり、その表面の独特の凹凸が直射日光に感応してキラキラと輝きます。
その傍らには木で一体的に作られた郵便ポストがあって、外から郵便物を入れて、中から取り出せるという仕掛け。
木でできたポスト箱は濃色に塗られていて、新しいけれども年季のはいった佇まい。
その箱のフタのつまみも真鍮でできていて、今は金ピカだけれども、だんだんと鈍い飴色に変色していくことでしょう。
ポスト箱の上には、ざらついた土っぽい質感のタイルがあしらわれ、棚にちょんと置かれたオブジェの背景となります。
古びていることを求め、古びるていることを愉しむようなあり方は、心に穏やかさと安心感をもたらしてくれるように思います。
そんな気分を生み出すためのデザインの心得は、雅、放胆、枯淡、稚拙、鈍、省略、不整美、無名色、無造作というような魯山人の言葉。
これらの言葉もまた、有元利夫が大切にしていたことのようです。
シャープでカッコいいデザインの、反対にあるものですね 笑