© 婦人公論.jp明るく自由な娘・ひなたと生真面目な母・るい。親子でありながら育った背景は大きく違う(写真提供◎NHK)
最終週を迎え、伏線回収で盛り上がっている朝ドラ『カムカムエヴリバディ』。4月6日の放送は、岡山で懐かしい人々がクリスマス・ジャズ・フェスティバルに集まる一方、大阪ではアニーとひなたの爆走で次回へ…。
その時期ならではの「推しドラマ」を、テレビウォッチャーで、ライター・編集者・コラムニストのかわむらあみりがご紹介します。今回は、NHKの連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』です。(写真提供◎NHK)
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【写真】るいに回転焼きの焼き方を教わるひなた
脚本とテンポの良さがドラマの魅力を倍増
いよいよ4月8日に最終回(4月9日放送終了)を迎え脚本とテンポの良さがドラマの魅力を倍増る2021年度後期 NHKの連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』(月〜土曜 午前8:00 NHK総合ほか)。100年の家族の物語を描く今作は、朝ドラでは初めての試みとなった母娘3代のヒロインが織り成す物語だ。
初代ヒロイン・安子(上白石萌音)、その娘となる2代目ヒロイン・るい(深津絵里)、るいの娘となる3代目ヒロイン・ひなた(川栄李奈)が登場。これまでに、岡山編・大阪編・京都編と、《ラジオ英語講座》と《あんこ》とともに歩んだヒロインのバトンが、次の世代へと受け継がれていった。
4月5日の放送回には、「クリスマス・ジャズ・フェスティバル」の様子が窺え、懐かしい顔ぶれも見えてほっこりさせられた。そして何よりも心をグッと掴まれたのは、最終週の予告編。かつて安子に「I hate you」と言い放ったるいが、涙を流しながら伝えた「I love you」という言葉。きっとその瞳の先には、安子がいるのだと思いたいし、そう願わずにはいられないのは私だけではないだろう。
今作は藤本有紀によるオリジナル脚本だが、なんとも観る者の心をソワソワさせる。2007年度後期 NHKの連続テレビ小説『ちりとてちん』、2012年大河ドラマ『平清盛』、2015年に第34回向田邦子賞を受賞したNHK木曜時代劇『ちかえもん』などを手掛けた藤本の力量にうなるばかりだ。
安子が生まれた1925(大正14)年から張られていた伏線が、後にどんどん回収されていくさまは実に快く、最終的には大阪万博が開催される予定の未来2025(令和7)年までが描かれる。
ヒロインだけではなく、登場人物たちの親子の関係性や、人々との出会いといった人間模様を巧みに描く藤本。3人のヒロインが違う時代を生きるゆえに、テンポ良く物語が展開していくスピーディーさも小気味いい。脚本とテンポ感が、ドラマの魅力をより増しているのだ。
© 婦人公論.jpヒロイン3人で紡ぐ物語。「未来なんてわからなくたって、生きるのだ。」のキャッチフレーズが、今こそ心にしみる(写真提供◎NHK)
三者三様のカラーを見せるヒロインが生きる時代
そして何よりも、ドラマを輝かせているのは、3人のヒロインたち。安子、るい、ひなたが生活しているのは、府県は違えど、町の商店街だ。今作は商店街で繰り広げられる人情劇もベースになっており、セットや衣装、商品、ヒット曲ほか、各時代を感じさせる小道具や美術設定に着目する視聴者も少なくない。
そもそも3人のヒロインのうち、1925(大正14)年3月22日、岡山市内の商店街にある和菓子屋に生まれた安子を演じる上白石は、純和風の愛らしいルックス。現在24歳ながら、どこか肝っ玉母さんを思わせるような貫禄とひたむきさは、安子にも通じるところがあるように感じる。
安子が生まれた当初、商店街にはまだ着物姿の人たちが溢れ、人力車も活躍。幼少時の安子は下駄を履きながら飛び回り、同じ商店街にある荒物屋「あかにし」で、店主がこの時代いち早くラジオを入手して聴いている様子に見入る。ラジオはまだ庶民には貴重だった時代にラジオを欲しがる安子のために、兄の算太(濱田岳)が「あかにし」からラジオを盗んでくるわけだが、後のひなたの時代にも同じようなことが起こる。
ひなたの弟・桃太郎(青木柚)が、失恋からヤケを起こして「あかにし」からCDプレーヤーを盗むのだ。安子のために盗んだ算太、自らの憂さ晴らしで盗んだ桃太郎と理由は違うものの、血の繋がりを感じてしまった。「あかにし」の売り物も時代によって変わっていき、懐かしく観た視聴者も多いのではないだろうか。
1962(昭和37)年に18歳になったるいが岡山を離れて大阪へ移ってからは、大阪・道頓堀の商店街にある「竹村クリーニング店」で生活する。故郷も家族も捨てて孤独に生きることを決めたるいを、竹村夫妻が大きな愛で包んだ。錠一郎のもとへ嫁ぐるいを親代わりとして送り出す回では、涙腺が崩壊した視聴者も多いのでは。4月5日放送の「クリスマス・ジャズ・フェスティバル」の客席に店の竹村和子(濱田マリ)の姿も見えたが、暗いトーンだった岡山編とは打って変わって、大阪編の明るさに救われた気がした。
それは、ロングヘアで十代のるいを演じた深津が、大阪でジャズと恋を知り、トランペッターだったジョーこと大月錠一郎(オダギリジョー)と出会って、ひなたの道を歩くようになったからだ。ラジオからは、1915(大正4)年に発売された「ゴンドラの唄」の「命短し 恋せよ乙女♪」というフレーズが聴こえ、ヒロインの心境や時代とともに、観ているこちら側も気持ちが軽くなる。
笑いと芸事の町でもある大阪という明るい土地柄。町には洋服を着る人たちが増え、高度成長期という時代もあって、戦争という悲しい時代と肉親との辛い別れを背負った安子の切なさが薄まっていく。女性たちが装う、昭和レトロなワンピース姿などは、今見てもカラフルでおしゃれでキュート。悲しくても心に刻んでおくべき時代を経て、力に溢れた時代へと、ヒロインの魅力のおかげで自然に引き込まれていった。
100年経っても受け継がれていく家族の絆
1965(昭和40)年、ひなた誕生。結婚したるいとジョーが移住した京都にある下町の商店街で、回転焼きの店を営むようになったふたりのもとに生まれたひなたは、ジョーの影響でテレビの時代劇をよく観る活発な子に育つ。
時代劇以外にも、1975(昭和50)年からスタートした朝ドラ『おはようさん』、1983(昭和58)年からスタートした『おしん』など、歴代の朝ドラも登場。ラジオが貴重だった安子の時代を経て、戦争の影に怯えることもなく、各家庭でテレビを観ながら団欒できるようになった、「安心の時代」に生きるひなた。
ゆるりとした日々を過ごせる時代でもあり、家族の愛情にも恵まれて育つひなたは、何をやっても三日坊主になりがちな現代っ子に育つのも無理はない。現在にもっとも近い時代背景ゆえに、すんなりと物語に入っていけたが、そんな大阪パートでちょっとびっくりしたエピソードも。
条映太秦映画村で働くようになったひなたは、大部屋俳優の五十嵐文四郎(本郷奏多)と恋に落ちる。だが、ひなたのもとを去り、ハリウッド映画の監督アシスタントになって10年後に再会した文四郎が、別人と結婚を決意したくだりにはずっこけた。そもそも京都編では、コミカルな描写や劇中劇など、ポジティブな仕掛けがたくさんあるが、さすがに文四郎の決断には「なんでやねん!」とツッこんでしまった大阪人の筆者である。
最終回が迫る今作だが、英会話とともにキーポイントだったのが、あんこのおまじない。もとは父・金太(甲本雅裕)から安子が教わった「おいしゅうなれ」というこの言葉を安子・るい・ひなたが守り続け、小豆を煮る際に3世代にわたってつぶやく姿は、脈々と受け継がれていく家族の強い絆を感じさせる。
4月5日の放送では、日本を訪れたアニー・ヒラカワが大阪で磯村吟(浜村淳)のラジオ番組に出演。初めて観た映画をきっかけに押し黙った後、突然日本語で半生を語り始め、最後は岡山弁で涙ながらに「るい」と語りかけたのだ。母への愛ゆえ、岡山での過去ごと母を忘れようとしたるい。娘への愛ゆえに姿を消すことを選んだ母…。
100年の物語の結末は? 最終回まで、これからも見逃すことはできない。
『カムカムエヴリバディ』激走の意味…戦争や時代に翻弄された母の後悔と娘の赦し。母、娘、孫と100年にわたる愛と再生の物語。昭和・平成・令和の時代を映して
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