
「ちむどんどん」は不思議な“イラ朝ドラ” 残り1カ月半で解決されるべき問題は意外に多い(ディリー新潮 2022年08月18日 00:21:25)
厳しい評価もあるNHK連続テレビ小説「ちむどんどん」が終盤に近づいた。残すところ約1カ月半弱。辛口の採点もある理由は何か。また、解決していない問題がいくつも残されているが、有終の美を飾れるのだろうか。
【写真5枚】イラッとさせられるヒロイン
不思議な朝ドラ「ちむどんどん」
「ちむどんどん」は不思議な朝ドラだ。アンチが少なくないが、視聴率はそう悪くない。
例えば8月11日の視聴率は関東が世帯15.7%で個人全体が8.7%。関西が世帯14.7%で個人全体8.3%。名古屋が世帯18.5%で個人全体9.5%。2021年度前期の「おかえりモネ」とほぼ同水準である(ビデオリサーチ調べ)。
観ていると、ヒロインの暢子(黒島結菜)や夫の青柳和彦(宮沢氷魚)、暢子の兄・比嘉賢秀(竜星涼)たちにイラッとさせられることがある。だが、それもこの朝ドラを観る動機になっているのかも知れない。イラミス(イライラするミステリー)ならぬイラ朝ドラである。
全体の構成も個性的。暢子ら比嘉家の4兄妹が子供だった第2週までは一家が貧しさと対峙したり、父親の賢三(大森南朋)が心臓発作で急逝したり。悲哀の漂う物語だった。
ところが、その後は作風が徐々に変転。明るくなっていった。比嘉家は叔父の賢吉(石丸謙二郎)に借金問題などで責められようが、妙に楽天的だった。
第6週からの東京編はより明るくなった。さらに和彦の母親・青柳重子(鈴木保奈美)が登場した第16週ころからはコメディ色が鮮明になった。
第18週で暢子の姉・良子(川口春奈)と賢秀は重子に会うため、青柳邸を訪れたが、まるでドタバタ喜劇だった。2人は暢子と和彦の結婚を許してもらうため、青柳邸にアポなしで出向いたものの、玄関前で激しく揉め、重子の前でまた争う。おまけに賢秀は重子のオルゴールに勝手に触って、壊した。全ては喜劇の教科書通りだった。
これまで約4カ月半の物語が単調ではなく、変化に富んでいたのは確か。だから批判の声はあるものの、「飽きた」「マンネリ」という意見は聞かない。制作陣の計算通りに違いない。
暢子のキャラクターが観る側にとってイラッとするものになったのも制作陣の意図の通りのはず。プロなのだから、暢子のキャラクターがどう受け止められるか分かったうえで撮影しているはずだ。

暢子にイラッとするのは相手の気持ちを酌み取らないから
暢子にイラッとさせられるのは忖度が出来ないためである。忖度が相手の気持ちを推し量ることなのは知られている通り。官僚が政治家を庇うことではない。忖度は中学生くらいになったら誰でも求められる。
ところが暢子は25歳になった今も忖度が出来ない。やらない。子供のまま。第1話で賢三からそう教えられたからだ。
1964年、小5だった暢子に賢三はこう説いた。
「暢子は暢子のままで上等。自分の信じた道を行け」(賢三)
以後、暢子は変わらない。高3だった第3週から第5週の1971年から1972年、山原高校の同級生で陸上部キャプテン・新城正男(秋元龍太朗)に好意を持たれたが、気づかなかった。これも相手の気持ちを推し量ろうとしないからだ。
砂川智(前田公輝)の思いも1978年になった第12週で幼なじみの前田早苗(高田夏帆)から教えられるまで分からなかった。暢子にとっては平常運転だ。そんな暢子にイラッとする視聴者もいるのは仕方がない。
暢子は相手の心情を酌み取ろうとしないから、重子が拒絶しているにもかかわらず、和彦との結婚を許してもらうため、手作り弁当を持って青柳邸に日参した。第16週だった。これは最終的にマイナス点にならなかったものの、相手の気持ちを推し量ったら、できない。
暢子は青柳家のお手伝いさん・岩内波子(円城寺あや)に弁当を渡した。波子は渋面で固辞したが、暢子は「絶対おいしいですから」と押し付け、満足そうに帰っていった。
暢子は事の本質すら分かっていなかった。その時点の波子にとって、味なんてどうでもよかったのは言うまでもない。重子が暢子の接近を拒んでいたから、弁当は受け取るわけにはいかなかった。暢子の忖度の欠落は凄まじい。

暢子に対する裏切り、約束破り
暢子は和彦の元婚約者・大野愛(飯豊まりえ)に対しても忖度しなかった。暢子にとって愛は上京後に出来た唯一の友人と言っていい。それなのに愛への謝罪も釈明もなく、和彦の思いをシラッと受け入れた。
第14週、和彦は6年間交際し結婚するはずだった愛に対し、「全部なかったことにしてくれ」と告げ、別れた。オイオイ、である。一方、暢子は愛との約束を破る。暢子は第13週で愛にこう告げていた。
「和彦君は前から愛さんのことが好きで 、愛さんと付き合っている。だから(私も)好きだけど、きれいさっぱり、あきらめる」(暢子)
ところが暢子は自分の言葉をきれいさっぱり、忘れてしまう。愛は恋人と友人に裏切られて、二重に傷ついたはすだ。
これでは観る側がイラッとさせられても何ら不思議ではない。もちろん、制作者側も分かっているはずだ。
朝ドラはもう61年105作品も放送された。たまにはイラッとするヒロインがいたっていいと制作者側は考えたのではないか。ただし、それを受け入れるかどうかを判断するのは一人ひとりの視聴者である。

賢秀の更正を描くのは至難
9月30日の放送終了まで約1カ月半弱。残された問題は山積している。まず暢子が開業する店。その資金を賢秀が使い込んでしまう。 最終回までに店を軌道に乗せられるのか。それより難問なのは賢秀の更正だ。
この物語は「心はつながって支えあう美しい家族」を描くという触れ込みだが、現時点では微妙。賢秀は29歳になったものの、いまだ比嘉家の悪性腫瘍。こんなにも長く賢秀のダメ男路線が続くとは思わなかった。
更正はかなり難しい。妹3人を思う言動を見せているものの、おためごかしであり、自分が良い顔をしたいだけだからだ。
ヤマッ気が異常に強いのも賢秀の大きな欠点。1971年だった第4週、我那覇良昭(田久保宗稔)による通貨交換詐欺に遭ってから、一攫千金ばかり狙い続けている。だからバクチですり、我那覇にまた騙された。
それでも更正の糸口はある。賢秀が出入りを繰り返す千葉・猪野養豚所の娘・清恵(佐津川愛美)は賢秀に好意的だ。父親の寛大(中原丈雄)も賢秀を憎からず思っている。制作者側が賢秀と清恵を結婚させてしまい、猪野養豚場の跡継ぎにして、大団円にすることは可能である。
ただし、賢秀が更正せず、観る側が納得しない形での結婚だと、「御都合主義」の誹りは免れない。今のままで賢秀に所帯を持たせるのは無理がある。猪野養豚所を売り飛ばしたって、おかしくない。どう更正を見せるのか。
歌子の問題もある。歌子は第13週で母親の優子(仲間由紀恵)と良子に向かって「何年かかってもいいから、ウチは民謡歌手になりたい」と宣言した。その後、修業を積んでいる。
誠実で勤勉な歌子の夢は、かなえられても観る側は疑問に思わない。ただし、制作者側が歌子と智を結婚させるつもりなら、これは容易には視聴者を納得させられない。双方にわだかまりがあるはずなのだから。やはり、どう見せるのだろう。
4兄妹を描いている分、賑やかな物語になっているものの、時間に余裕がないように映る。だから、ある時期に重い立場だった登場人物のその後も最終回までに描けないのではないか。存在感が薄れ、暢子の結婚式にも出ていない叔父の賢吉や山原高陸上部キャプテンの新城、歌子の才能を見出した同高音楽教師・下地響子(片桐はいり)、そして大野愛らである。
ナレーション処理でもいいから、この人たちが幸福になったことにしてほしいと願う。そうでないと、比嘉家が自分たちの幸せのみ追求するエゴイストたちに見えかねない。
まだある。この朝ドラは沖縄の本土復帰50周年記念作。沖縄が返還された1972年からの現在までの50年が描かれる。最終回までの最大の課題は、本土復帰が比嘉家にとって何であったかをどう表すかだ。
高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。大学時代は放送局の学生AD。1990年のスポーツニッポン新聞社入社後は放送記者クラブに所属し、文化社会部記者と同専門委員として放送界のニュース全般やドラマレビュー、各局関係者や出演者のインタビューを書く。2010年の退社後は毎日新聞出版社「サンデー毎日」の編集次長などを務め、2019年に独立。デイリー新潮編集部
放送コラムニスト、ジャーナリスト。大学時代は放送局の学生AD。1990年のスポーツニッポン新聞社入社後は放送記者クラブに所属し、文化社会部記者と同専門委員として放送界のニュース全般やドラマレビュー、各局関係者や出演者のインタビューを書く。2010年の退社後は毎日新聞出版社「サンデー毎日」の編集次長などを務め、2019年に独立。デイリー新潮編集部
