T君との会話は続く。
いつしか、映画の話に。
「この前、Aちゃんからヴィデオ借りました」(T君)
Aちゃんというのは、スノッブなM氏の弟で、M氏は
ジャズ、弟はロック野郎という、音楽にうるさい兄弟
なのだが、今回は何故か映画。
「で、中身は?」(私)
「ミツバチのささやきです」(T君)
「なんで、また?」(私)
「ちょっと、前から興味があったんです」(T君)
「それだったら保存版で持ってるのに」(私)
「ええっ、そうだったんですか」(T君)
「それと<エルスール>も」(私)
「エルスール?」(T君)
「知らなかった、同じ監督の代表作だよ」(私)
「誰でしたっけ?」(T君)
「スペインのヴィクトル.エリセ」(私)
「スペイン映画でしたか?」(T君)
「それも知らなかったの?」(私)
「まあ」(T君)
「いづれにしろ<ミツバチのささやき><エルスール>
のどちらかは、良質映画マイベストテンにノミネートし
たいくらいのものだよ」(私)
「それくらい、良い映画ということですか」(T君)
「そう」(私)
「でも、何でAちゃんが持ってたんですかね?」(T君)
「多分、無垢な少女の世界というのが琴線に触れたのだ
と思うよ」(私)
「そういえば<赤い風船>なんてのも好きでしたから
ね」(T君)
「何となく共通点は解るでしょう」(私)
「確かに」(T君)
「映画としては<ミツバチのささやき>の方が全然上だ
けどね」(私)
「というと?」(T君)
「精霊と共に生きる少女の世界、その詩情性とでも言
いますか」(私)
「流行のスピリチュアルな世界ですね」(T君)
「でも、今人気のカバトットとは比べられないよ」(私)
「胡散臭いですものね」(T君)
「そんな胡散臭い世界ではなく、心の基層に押し込ま
れた自然と一体であった世界、なんだよね描かれてい
るのは」(私)
「なるほど」(T君)
「決して守護霊の話ではないからね」(私)
「なるほど」(T君)