バッグにランボーの「地獄の季節」をしのばせて、古い洋館の二階にあるカフェに入る。はじめて入るカフェの壁は、時代を感じさせる漆喰の壁。そこに、古い木製のイコンが飾られていた。高い天井から吊るされた、琺瑯製の傘からこぼれる電球の光に揺れるイコンは、疲れた身体をいたわるように微笑んでいる。静かに、身体を椅子に沈める。深煎りブレンドの香りが全身に染み渡る。ふと、備え付けの本棚に目をやると、普通あるファッション誌や情報誌は一切無く、建築の専門書や、固い評論などが並んでいる。その中にレヴィ・ストロースの本があった。日本での講義をまとめた本らしい。死んだのは、ちょうど一年くらい前だ。早速手に取り、コーヒーの脇に添えられたかりん糖をかじりながら目を通す。ゆったりとした時間が流れていく。
なんてエッセイが如何にも生まれそうな「カフェ.ラボラトリオ」。確かに雰囲気のあるカフェでした。それにしても、帰りに階段の場所を見失い、店の人の思わず聞いてしまったのは、一体何故だろうか。他のお客さんに笑われるのも宜なる哉。