このまえ買ったDVDの最後の一枚、小津安二郎の「一人息子」を見る。この映画、やはり未見であった。初トーキー作品ということで、聞き取りにくいところがあるのは、状況を考えればやむを得ない。映画の主人公は、信州の田舎で暮らす、貧しい母子家庭の母親とその一人息子。内容は、貧乏暮らしから脱出するため、立身出世を息子に託し、苦労して東京の学校に行かせるが思い通りにことは運ばないという、ちょっと暗い話である。テレビの馬鹿ドラマに麻痺した目には、あまりに地味な内容かもしれない。
しかし、この映画、戦前の話ではあるが、結構今の気分にも通じるものがある。立身出世の先にある世界を見通している、小津監督の透徹とした視線を感じないわけにはいかない。それは「東京物語」にも見られるものだ。この辺りが、小津映画が古びない理由でもあるわけだ。しかし、何と言ってもその魅力は、ショットの力強さなのではないか。なんでもない風景の中に浮かぶ二人の姿、無心に働く製糸工場の女工の姿、工場の煙突、それらが何故これほどまでに魅力的なのか。それこそが小津映画の真骨頂であるのだが、この辺りは、物語の展開(要するに筋書き)しか目に行かない人には、おそらく理解出来ないところだと思う。