ぴかりんの頭の中味

主に食べ歩きの記録。北海道室蘭市在住。

【本】超常現象をなぜ信じるのか

2007年07月23日 22時34分39秒 | 読書記録2007
超常現象をなぜ信じるのか 思い込みを生む「体験」のあやうさ, 菊池聡, 講談社ブルーバックス B-1229, 1998年
・日常、誰もが経験する『勘違い』などの現実の誤認識。その脳内の情報処理のメカニズムについて、『超常現象』を例にとり認知心理学の立場から解説する。これを読むと、人の記憶や推論というものがいかに危うく、信用できないものであるかを思い知らされます。タイトルからはイロモノ的印象を受けますが、実はしっかりした内容の良書。
・「言った」、「言わない」が喧嘩の原因になることがよくありますが、皆、これを読んでおけばそんなトラブルも解消!? 本書を読んでなお自分の記憶や推論に絶対の自信を保てる人は少数派ではないでしょうか。
・「したがってこの本では、超常現象の正体を解明すること自体を目的とはしません。考えてみたいのは、私たちが経験をもとに、いとも簡単に超常的解釈を信じてしまうという事実です。」p.6
・「「超常現象からの認知心理学入門書」」p.7
・「これらの表現に共通する意味を辞書的に考えてみると、「信じる」とは「何か(が存在すること)を疑わずに、本当のことと思いこむ心の働き」であり、言いかえると「あることが事実であると想定する心理状態」をさしているようです。(中略)ですから、信じるという言葉を使う場合は、信じる対象が不確実であるという意味を帯びて使われます。もしも確実なことであれば、ただ単に「知っている」とか「ある」か「ない」かだけで述べるほうがしっくりきます。」p.17
・「このような何かを信じる心の動きを、心理学用語では「信念(ビリーフ)」と表現します。心理学辞典によれば、信念とは「ある対象がある特性をもつことについての主観的可能性を述べたもの」と定義されています。」p.18
・「例をあげれば、血液型性格判断を信じている人で、「本に書いてあったから信じる」というのは情報的信念であり、「自分の血液型が当てられたし、血液型で人の性格を予想できた。だから信じる」というのは推論的信念ということになります。」p.21
・「そしてこうした誤信念は、科学的な知識や常識の不足から生まれるとはかぎらないというのが非常に興味深い点です。そこにはもっと深く、人間の心の本質に根ざした心理システムが影響を与えているのです。」p.23
・「不思議現象が科学的に認められないのは、科学的常識に反しているという理由からではありません。(中略)これらの現象が実在するという主張に、いまのところ信頼性と妥当性が欠けており、証拠として著しく不完全であるからです。」p.25
・「不思議現象を信じる心は、決して無知や教育の欠如によって生まれるのではなく、必ずしも科学的な態度と対立するものでもないことがうかがえます。」p.33
・「エンゲルスは「自然科学を神秘世界に媒介するのは思考を放棄した平凡な経験」であると指摘したそうですが、体験は信念を形成する上で実に強い力をもっているのです。」p.35
・「私は、この認知バイアスこそが、不思議現象に対する誤った信念を生み出す大きな要因になっていると考えているのです。」p.39
・「19世紀後半に知覚心理学の端緒をひらいたドイツの生理学者ヘルムホルツは「知覚とは、外界を単に再現することではなく、感覚情報のパターンから無意識的な推論を行った結果である」と考えました。この考え方は、当時から賛否両論がありましたが、後に認知心理学の立場から再評価され、有力な知覚理論の一つに位置づけられています。」p.44
・「目がとらえているまだら模様は何も変わっていません。変わったのは私たちの知識と、それにもとづいて絵を見ようという「予期」だけです。  予期によって、ダルメシアンについての知識が呼び起こされ(活性化され)、それにもとづいて絵を見ようという知覚の構えが形成されます。」p.48
・「このような、ものを見たり考えたりする際の枠組みになる知識のことを、認知心理学では「スキーマ」と呼びます。言いかえれば、スキーマとは個人が経験を通して形成してきた外部環境に対する総合知識のことです。」p.49
・「問題1  あなたがふだん見慣れている百円玉の両面を思い出して、できるだけ正確に描いてみてください。描きおわるまで、次のページはめくらないように。  さて結果はどうでしょう。」p.79
・「バートレットは、このような記憶の変容の原因が、その人の知識や経験の総体であるスキーマにあると考えました。つまり人はスキーマにそって新しいできごとを記憶するため、スキーマと整合するように記名や想起を行い、スキーマと矛盾する情報はゆがめられたり、思い出せなくなるなどして、徐々に失われていくのです。」p.82
・「こうした偽の記憶を植え付ける実験は、他にも多く行われています。それらの結果からも、イメージを膨らませる暗示を与えることで、まったく実在しなかった体験ですら、生々しい記憶として思い出されることがあるという驚くべき事実が明らかになっています。」p.89
・「自分の記憶について確信している程度と、実際にその記憶内容が事実であるかどうかの相関を調べた多くの研究では、日常の記憶場面における相関はごく低く、確信度が高いからといってそれが正しい記憶であるとは判断できないことが明らかになっています。」p.93
・「こうした記憶研究の成果から、UFOや幽霊などの不思議現象の目撃談は、非常に誘導を受けやすい性格をもっていることがわかります。  たとえば何か正体不明の物体を目撃した人に「どんなUFOを見たのですか?」とか「その霊の様子はどうだったのですか?」といった聞き方をしただけで、誘導尋問(事後情報)になります。」p.94
・「つまり、催眠状態で得られた証言は信憑性が低いため原則として信用ができない――これが認知心理学からの妥当な結論と思われます。」p.100
・「超常現象よりも深刻な問題として、現在欧米で社会問題となっている「幼児期の性的虐待の記憶の回復」があります。これは「偽記憶症候群(False Memory Syndrome)」とも呼ばれ、典型的なケースでは、催眠や誘導イメージ法などの暗示性の強い心理療法を受けた相談者が、幼児期に家族から性的な虐待を受けていたことを思い出し、その結果、父親を裁判に訴えるなどして家族関係を崩壊させてしまうものです。」p.102
・「私は、この思考の段階での情報処理のバイアスこそが、誤った信じ込みを生み出す最大の要因であると考えています。」p.104
・「この例のように、個別の事例から一般的な法則性が導かれる推論形式は「帰納推論」と言います。逆に、一般的な法則から個別のできごとについて推論する形式は「演繹推論」と言います。私たちは帰納推論と演繹推論を繰り返しながら、日常生活を送っているのです。」p.109
・「ある仮説を証明するために、その仮説の否定を考えるということは、直感的にはなかなか理解しにくいことですが、論理的には適切な思考法です。」p.118
・「私たちが予知夢に関してかよった信念をもっているとすれば、それは目立つできごと相互に関連性があると考えてしまい、反証事例を考慮せずに確証事例のみで判断するという思考バイアスに大きな原因があるのです。」p.125
・「もちろん、動物の敏感な能力によって、人間や計測機器が感知できない微妙な地電流や電磁波の変化を感知している可能性までは否定できません。しかし地震の前に暴れた動物がいるという事例だけでは、動物に予知能力があるかどうかはわからないのです。そして、本当に必要な反証事例(地震前に暴れなかった例、暴れても地震がなかった例)は、ほとんど注意を引きません。そもそも、日本では有感地震のない日の方が珍しいことも忘れてはならないでしょう。」p.134
・「このような錯誤は、うっかりすると医学専門家や心理療法家でもおちいることがあります。そこで「治療した、治った、ゆえに治療に効果があった」というロジックで治療を評価することは「三た論法」と呼ばれて厳しく戒められています。」p.138
・「このように、理論的に厳密な手続きに頼らず、確実ではないが効率よく問題を解決しようとする考え方(方略)を「ヒューリスティクス(簡便法)」と呼びます。これに対し、論理的な一定の手続きにしたがって問題を厳密に解決するシステマティックな処理法略を「アルゴリズム」と呼びます。」p.149
・「あなたの身のまわりで、後になれば不吉な予兆と思うようなことは、日常的に起こっているはずです。何か事件が起きると、そうした日常的なできごとの中からふさわしい予兆が選ばれて、不思議な体験と解釈されます。しかし、事件といえるようなことが何も起こらなければ、日常的なことはすぐに忘れられてしまいます。」p.156
・「たしかに、あなたが一年間にそんな体験をする確率はわずか10万分の3にすぎません。しかし日本の人口(約1億2000万人)を考えれば、毎年3000件以上もこんなできごとが起こっていることになるのです。」p.161
・「確率にもとづいて起こるできごとは、対象となるケースが多くなればなるほど真の値(この場合は理論値)に近づきます。これはベルヌーイの「大数の法則」として知られています。(中略)自分自身や身近な体験談など少ないケースを論拠に全体を判断することは、非常に危険です。」p.166
・「そこで知覚システムは、そうした不完全で多義的な感覚情報を、適切な形に推測、補完して、情報の解釈を一つの安定したものにする働きをもっています。こうした知覚の再構成能力のおかげで、私たちは感覚器の能力以上の知覚情報を効率的に利用できるわけです。(中略)ですから、さまざまなできごとの中から不思議現象が容易に発見されるのは、私たちにとって自然なことだと言ってもよいでしょう。ただ、この能力が働きすぎるために、ときには力余って本来関連性のないところにまで関連性を見いだしてしまうのです。」p.180
・「反証情報を無視するには、自分のスキーマに合わない証拠は、例外として別枠に放り込んでしまい、事実上考えないですませることです。これを「サブタイプ化」と言います。」p.185
・「私たちの認知的保守性のあらわれの一つに、「偶然性に支配された、原因のないできごと」という考え方を嫌い、どんなできごとにも確固とした因果関係があると考える傾向があります。」p.188
・「まず、自覚しておかなければならないのは、再三再四指摘しているように、体験を構成する知覚や記憶、思考といった認知情報処理はエラーに対してもろく、容易に情報の変容を引き起こすことです。認知システムには、情報の変容を起こす仕組みが根本的に組み込まれているのです。」p.197
・「自分がしている認知情報処理に注意し、これを理解する働きを、認知自体を認知する上位(メタ)の認知という意味で「メタ認知」と呼びます。」p.198
・「メタ認知の大切さを含めて、人が陥りやすい思考の落とし穴や先入観の影響などを充分に自覚し、ものごとを感情論を排して冷静に、論理的に考え、判断を下す思考の技術、これを総称してクリティカルシンキングの技術と呼びます。」p.204
・「「敵を知り、己を知れば百戦して危うからず」という言葉がありますが、何よりもまず、日常のさまざまな活動の中で、過ちを犯しやすい自分自身の認知を謙虚に知ることこそ、人生や社会のさまざまな問題に立ち向かう際の基本ではないでしょうか。」p.206
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