大変光栄なことに,general neurologistとして尊敬する福武敏夫先生(亀田メディカルセンター脳神経内科部長)より,ご著書の書評の執筆をご依頼いただきました.本当に多くのことを学ばせていただいた大好きな本の改訂第3版です.以下,ご一読いただければと思います.
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繰り返し読み続けたい,エキスパートの診かた・考えかた
書評者:下畑 享良(岐阜大大学院教授・脳神経内科学)
著者の福武敏夫先生は脳神経内科領域のオーソリティとして,誰もが認める存在である。私は先生と本書の大ファンで,本書は初版から繰り返し読み続けている。病歴聴取と神経診察の実例を通して,一貫したエキスパートの診かた・考えかたを学ばせていただいた。まさに第2版の帯に書かれていた「傍らに上級医がいる」ような感覚になるテキストである。関心のある項目から読み始めてもよいが,本書を持ち歩き,私のように繰り返し読むことをお勧めしたい。きっと先生方の血肉になると思う。
内容は第I編では日常的によく遭遇する症状(頭痛,めまい,しびれ,パーキンソン病,震え,物忘れ,脊髄症状など)を,第II編では緊急処置が必要な病態(けいれん,意識障害,急性球麻痺,急性四肢麻痺,脳梗塞)を,そして第III編では神経診察の手技上のポイントと考えかたに加え,画像診断におけるピットフォールを,いずれも具体的な実例を基に解説されている。私は「どうしたらこれほど具体的で豊富な事例を記載できるのですか?」と尋ねたことがあるが,福武先生は「一日の終わりに診療した患者のことを思い出し,ノートにつけて勉強している」と答えられ,合点がいくと同時に先生の不断の努力に改めて尊敬の念を抱いた。
今回の第3版では多くの記載の追加がなされたが,特に第I編に多彩な全身症状のもととなる「肩こり」が追加されたことと,序章として「臨床力とは何か?」が加わったことは注目に値する。実は後者の「臨床力とは何か?」は自分がずっと考えてきた問いであり,ぜひ福武先生に伺ってみたいと考え,自身が編集委員を務める『Brain and Nerve』誌において原稿依頼をした経緯があった。先生は「例えば,ホスピタルツアーをここで終わりにするとか,医療・医学のレベルアップのために教科書を一行でも書き換えるとか(中略)そういう気概を『臨床力』と呼びたい」と答えられた。そして第3版の目的を,後進の脳神経内科医の「情熱と気概を喚起」することとお書きになっている。私たちが「気概」を得るためにどうしたらよいか? 知識は不可欠だが,それだけでは不十分であり,好奇心(患者への人間としての興味)が大切で,さらに観察力,幅広い注意力,型にはめない推理力・思考力が必要だと述べておられる。つまりガイドラインや診断基準に安易に当てはめるだけではダメということである。それらはある意味で過去のものであり,それらをマスターすることイコール臨床力ではないということだ。全ゲノム解析や多彩な自己抗体の測定により,治療可能な疾患を見出せる時代においてこそ,患者を正しく理解するための症候学の重要性が増していることを認識する必要がある。「症候学は古い学問ではない。日々最も新たにならなければならない分野であり,『最新』の研究こそ症候学のversion upに寄与しなければならないし,寄与しない研究は意味がない」という先生の言葉は肝に銘じる必要がある。神経学を学ぶ者にとって必携の書として本書をご推薦したい。
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繰り返し読み続けたい,エキスパートの診かた・考えかた
書評者:下畑 享良(岐阜大大学院教授・脳神経内科学)
著者の福武敏夫先生は脳神経内科領域のオーソリティとして,誰もが認める存在である。私は先生と本書の大ファンで,本書は初版から繰り返し読み続けている。病歴聴取と神経診察の実例を通して,一貫したエキスパートの診かた・考えかたを学ばせていただいた。まさに第2版の帯に書かれていた「傍らに上級医がいる」ような感覚になるテキストである。関心のある項目から読み始めてもよいが,本書を持ち歩き,私のように繰り返し読むことをお勧めしたい。きっと先生方の血肉になると思う。
内容は第I編では日常的によく遭遇する症状(頭痛,めまい,しびれ,パーキンソン病,震え,物忘れ,脊髄症状など)を,第II編では緊急処置が必要な病態(けいれん,意識障害,急性球麻痺,急性四肢麻痺,脳梗塞)を,そして第III編では神経診察の手技上のポイントと考えかたに加え,画像診断におけるピットフォールを,いずれも具体的な実例を基に解説されている。私は「どうしたらこれほど具体的で豊富な事例を記載できるのですか?」と尋ねたことがあるが,福武先生は「一日の終わりに診療した患者のことを思い出し,ノートにつけて勉強している」と答えられ,合点がいくと同時に先生の不断の努力に改めて尊敬の念を抱いた。
今回の第3版では多くの記載の追加がなされたが,特に第I編に多彩な全身症状のもととなる「肩こり」が追加されたことと,序章として「臨床力とは何か?」が加わったことは注目に値する。実は後者の「臨床力とは何か?」は自分がずっと考えてきた問いであり,ぜひ福武先生に伺ってみたいと考え,自身が編集委員を務める『Brain and Nerve』誌において原稿依頼をした経緯があった。先生は「例えば,ホスピタルツアーをここで終わりにするとか,医療・医学のレベルアップのために教科書を一行でも書き換えるとか(中略)そういう気概を『臨床力』と呼びたい」と答えられた。そして第3版の目的を,後進の脳神経内科医の「情熱と気概を喚起」することとお書きになっている。私たちが「気概」を得るためにどうしたらよいか? 知識は不可欠だが,それだけでは不十分であり,好奇心(患者への人間としての興味)が大切で,さらに観察力,幅広い注意力,型にはめない推理力・思考力が必要だと述べておられる。つまりガイドラインや診断基準に安易に当てはめるだけではダメということである。それらはある意味で過去のものであり,それらをマスターすることイコール臨床力ではないということだ。全ゲノム解析や多彩な自己抗体の測定により,治療可能な疾患を見出せる時代においてこそ,患者を正しく理解するための症候学の重要性が増していることを認識する必要がある。「症候学は古い学問ではない。日々最も新たにならなければならない分野であり,『最新』の研究こそ症候学のversion upに寄与しなければならないし,寄与しない研究は意味がない」という先生の言葉は肝に銘じる必要がある。神経学を学ぶ者にとって必携の書として本書をご推薦したい。
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