Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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新型コロナウイルス感染症COVID-19:最新エビデンスの紹介(1月23日)  

2021年01月23日 | 医学と医療
今回のキーワードは,無症状感染者からの感染頻度,変異株にもファイザーワクチンはおそらく有効,ワクチン接種の基本知識,神経筋疾患患者におけるワクチン,嗅覚・味覚障害は眼窩前頭皮質の障害,脳静脈血栓症57例の特徴,トシリズマブと抗スパイク中和抗体の臨床試験です.

強調したいことが2つあります.1つ目はトシリズマブや抗スパイク中和抗体の臨床試験を見ても分かるように,いまだCOVID-19の予後を大幅に改善する特効薬はないということです.とくに高齢者や危険因子をもつ人は,感染後,重篤な後遺症が生じたり,死亡するリスクが高いことを改めて認識する必要があります.2つ目は,幸運なことに,ワクチンの有効性は極めて高く,かつ副作用は極めて稀ということです.以上より,ハイリスク群に含まれる人は基本的にワクチンを接種することが望ましく,それが自身の命を守り,ひいては医療崩壊を防ぐことにも繋がります.これらのファクトを多くの人に理解してもらうため,行政は正しく分かりやすく情報を伝えること,医療者も患者さんの副作用のリスクを評価しつつ,問題がなければワクチン接種を励ますことが求められます.またワクチン接種が始まれば流行が抑えられるような期待がありますが,実はワクチンが感染力を持つ無症状感染者まで抑制しているかは不明で,流行を本当に抑えられるのかについてはデータがないことが指摘されています(New Engl J Med, COVID-19 vaccine resource center; https://bit.ly/2NjHIMr).その無症状感染者からの感染頻度は,59%と高いというメタ解析が今回,報告されました.

◆無症状の感染者からの感染はなんと59%を占める.
米国から無症状感染者からの感染の割合についての研究が報告された.使用した推定値としては潜伏期間の中央値を5日としたメタ解析のデータを用い,感染期間を10 日間,感染のピークは3~7 日間で変動させた.結果として,全感染の59%は無症候性感染によるものであり,うち35%は発症前の感染者からの感染,残り24%は経過を通してずっと無症状の感染者によるものであった(図1).つまり新規のCOVID-19患者の半数以上が,感染しているものの症状のない人からの感染によるものと推定された.
→ 症状をもつ患者の特定と隔離だけでは,COVID-19の感染拡大を抑制できない.感染拡大の抑制のためには,無症状感染者からの感染リスクを減らすことが不可欠で,そのためにはマスク着用,手指衛生,社会的距離,そしてPCR検査の拡大が絶対に必要である.
JAMA Netw Open. 2021;4(1):e2035057.(doi.org/10.1001/jamanetworkopen.2020.35057)



◆変異株にファイザー/BioNTechワクチンはおそらく有効.
英国における変異株B.1.1.1.7は,従来のウイルス株より感染力が強い.この変異株は,スパイク蛋白にアミノ酸変異を10ヶ所,有するため,中和抗体の効果が弱まることが懸念されている.ドイツから武漢基準株,もしくは B.1.1.1.7 変異株に由来するスパイク蛋白を含む偽SARS-CoV-2-Sウイルスを,COVID-19 ワクチンBNT162b2(ファイザー/BioNTech)を接種した16名の血清を用いて中和できるか検討した研究が報告された.16名のワクチン後の血清は,2つの偽ウイルスに対して同等の中和力価を有していた(図2).以上より,変異株がワクチンによって誘導される体液性・細胞性因子を含む複合免疫から逃れてしまう可能性は低い.すなわちワクチンは有効であると推測される.
bioRxiv. Jan 19, 2021.(doi.org/10.1101/2021.01.18.426984)



◆ワクチン接種に関して知っておくべき知識.
ハーバード大学医学部のPaul E. Sax教授によるワクチン接種に関するQ&Aが,New Engl J MedのCOVID-19 vaccine resource centerに掲載された.重要なポイントを列挙する.
1)ファイザー/BioNTechのワクチン(BNT162b2),モデナ社のワクチン(mRNA-1273)とも,驚くほどの効果があり,有効性はこれまでで最も効果的なワクチンに匹敵する.偽薬と比較して,約95%の確率でCOVID-19の罹患を低下させた.
2)いずれも2回接種であるが,1回目の接種からわずか10~14日後で,ある程度の予防効果がみられる.しかし疾病管理予防センター (CDC) ,食品医薬品局 (FDA)とも,可能な限り2 回接種を推奨している.
3)効果の持続期間についての情報はまだない.モデナ社のワクチンの第1相試験の結果からは,中和抗体はほぼ4ヶ月間持続する.
4)ワクチンが無症状感染者まで抑制しているかは不明である.よってワクチン接種が開始されても,従来の対策(マスク着用,手指衛生,社会的距離)は継続すべきことを強調する必要がある.
5)どちらのワクチンも100%とは言えないが,非常に安全である.しかしごく稀な副作用の事例がニュース報道され,実際のリスクとは不釣り合いな程度に懸念が増幅される可能性がある.副作用のリスクは,COVID-19で重篤となるリスクよりもはるかに低いことを理解してもらう必要がある.
6)最も多い副作用は注射部位の痛みで,とくに接種後12~24時間は痛みを伴う.疲労と頭痛も比較的多いが,高熱は一般的ではない.これらは通常,数日以内に消失し,非ステロイド性抗炎症薬で改善する.一般的に,高齢者よりも若年者に副作用が多く,1回目より2回目接種で多くみられる.
7)重篤なアレルギー反応(アナフィラキシー)の報告があるものの,稀であることを理解いただくことが極めて重要である.推定で約10万回に1回の頻度である.この頻度は他のワクチンよりは高いが,ペニシリンで報告されている頻度(5000 回に 1 回)と比べ大幅に低い.
COVID-19 vaccine resource center(https://bit.ly/2NjHIMr)

◆神経筋疾患患者のワクチン接種をどうするか?
神経筋疾患はCOVID-19罹患の高リスク群と考えられていない.しかし今後,十分な量のワクチンが入手できるうようになれば,米国ACIP(予防接種の実施に関する諮問委員会)やCDC(疾病対策予防センター)が神経筋疾患を優先群に含める可能性がある.米国から神経筋疾患患者のワクチンについての指針が,Muscle Nerve誌に掲載された.神経筋疾患患者への推奨部分のみ日本語訳する.
1)ワクチン接種は,16~18歳以上の人に推奨される.ACIP/CDCがリスクを評価し,決定したスケジュールに基づいて行われる.
2)ワクチンは同じ製薬企業のものを,初回注射とブースター注射の両方に使用する.他の会社のワクチンの14日以内に接種すべきではない.
3)免疫抑制剤,免疫調整剤を服用していない神経筋疾患患者は,COVID-19感染によるリスクが,ワクチンの潜在的なリスクを上回る可能性が高いため,ワクチン接種が推奨される.
4)免疫抑制剤,免疫調整剤を服用している神経筋疾患患者では,この集団におけるワクチンの安全性や有効性に関するデータは現在のところない.しかし感染リスクを減らすことによるワクチンの利点は潜在的なリスクを上回る可能性が高いことを理解する必要がる.有効性が低下したとしても,COVID-19感染症に対して有益である可能性がある.
5)自己免疫性神経筋疾患患者では,ワクチンの安全性と有効性に関するデータは現在のところない.しかしワクチンの臨床試験参加者では,偽薬と比較して自己免疫疾患や炎症性疾患を発症するリスクの増加は認めなかった.ワクチン接種において禁忌のない自己免疫疾患患者は,ワクチンを接種することができる.
6)ギラン・バレー症候群の既往歴がある人や自己免疫疾患のある人は,ワクチンに対する禁忌がない限り ,ワクチンを接種できる.
7)ワクチンが全身性のCOVID19感染を誘発するものではなく,患者のDNAを変化させるものではないことを,患者にカウンセリングにより説明する必要がある.
8)ワクチンの既知の副作用について理解してもらい,さらにCDCによるV-safeのようなワクチン安全性追跡プログラムへの参加を奨励する.
9)ワクチンが妊婦や胎児にリスクをもたらす可能性は低いと考えられるが,潜在的なリスクは不明である.妊婦がワクチン接種が推奨されている群に属する場合,ワクチンの是非について医療者と話し合う必要がある.
Muscle Nerve. Jan 20, 2021(doi.org/10.1002/mus.27179)

◆嗅覚・味覚障害の原因は眼窩前頭皮質の障害である.
発熱,全身の疼痛,咳嗽,嗅覚・味覚障害にて発症した25歳女性.翌月には嗅覚・味覚障害は改善傾向を示したが,回復期に入り,不快な悪臭と味覚異常を感じるようになった.内視鏡やCTで副鼻腔の異常はなし.ステロイド,ビタミン,亜鉛による治療と嗅覚訓練を行ったが,症状が3ヵ月持続した.神経学的診察でも異常なし.頭部MRIでも嗅球や嗅裂を含め異常なし.機能的MRI(fMRI)を施行し,快適な香り刺激によるBOLD活性化マップを作成した.右側の鉤・梨状皮質では強いBOLDシグナルを認めたが,眼窩前頭皮質のシグナルを認めなかった(図3).健常者では,嗅覚刺激により,一次嗅覚野(梨状皮質,扁桃体,内嗅皮質)と二次嗅覚野(眼窩前頭皮質,視床下部,島皮質)のBOLD活性化のパターンがほぼ一致する.とくに眼窩前頭皮質には二次および三次嗅覚野と味覚野が含まれている.以上より,COVID-19の嗅覚・味覚症状の持続には,眼窩前頭皮質を中心とした中枢嗅覚経路の障害が関与している可能性が示唆された.
JAMA Neurol. Jan 22, 2021(doi.org/10.1001/jamaneurol.2021.0009)



◆脳静脈血栓症57症例の特徴.
COVID-19に関連した脳静脈血栓症(CVT)に関するシステマティック・レビューが報告された.28論文から57症例を同定した.性差はなく,50歳未満の発症が11例で認められた.90%の症例で,神経症状は呼吸器症状後に出現し,その間隔は平均13日であった.多発病変が67%,深部静脈系の閉塞が37%,脳実質出血の合併が42%で認められた.COVID-19以外の危険因子(経口避妊薬,多血症,腫瘍等)は31%に認められた.院内死亡率は 40%であった.3万4331人のデータを用いたCOVID-19入院患者におけるCVTの推定頻度は0.08%であった.入院患者における脳血管障害の4.2%が CVT であった.
Eur J Neurol. Jan 11 2021(doi.org/10.1111/ene.14727)

◆英国で使用推奨されたトシリズマブは,ブラジルでは早期打ち切りになった.
REMAP-CAP試験により,英国にて使用が推奨されることになった抗ヒトIL-6受容体モノクローナル抗体(トシリズマブ;アクテムラ®)であるが,ブラジルでもその効果を検証する無作為化オープンラベル試験が行われた.対象は酸素吸入または人工呼吸器管理を受け,少なくとも2つの血清バイオマーカー(CRP,Dダイマー,LDH,フェリチン)に異常を認めた重症者とした.トシリズマブ(8 mg/kgの単回点滴静注)+標準治療(n=65)と,標準治療単独(n=64)の比較が行われた.主要評価項目は,15日目の臨床状態(7段階の順序尺度)とした.トシリズマブ群では65名中18名(28%),標準治療群では64名中13名(20%)が,人工呼吸器管理の継続ないし死亡した(オッズ比1.54,P=0.32).15日目の死亡はトシリズマブ群で11名(17%),標準治療群で2名(3%)であった(オッズ比6.42).データモニタリング委員会は,トシリズマブ群で15日目の死亡数が増加したため,早期に試験を中止するよう勧告した.
BMJ Jan 20, 2021(doi.org/10.1136/bmj.n84)

◆抗スパイク中和抗体の早期治療の効果.
スパイク蛋白に対する抗体薬バムラニビマブ(LY-coV555)単剤療法,およびバムラニビマブとエテセビマブ(LY-CoV016)併用療法の効果を検討するBLAZE-1試験が報告された.軽度~中等度の症状を有する外来患者613名に対して米国で行われた無作為化第2/3相試験である.今回,第2相部分の最終解析が報告された.5つの群(バムラニビマブ単剤療法の用量を変えた3群,バムラニビマブとエテセビマブの併用療法を行った1群,偽薬群)が含まれる.主要評価項目は,11日目におけるSARS-CoV-2対数ウイルス負荷の変化とした.第2相部分は577名を対象としたが,3種類の異なる用量のバムラニビマブ単剤治療では,偽薬と比較してウイルス負荷の変化に有意差はなかった.一方,バムラニビマブとエテセビマブを併用した群では,偽薬と比較して11日目のウイルス負荷を有意に減少させた(群間差,-0.57,P=0.01).即時過敏症反応は9例に報告された.現在,3相試験が進行中である.
→ 米国FDAは,軽症から中等症で,重症化の危険因子を有する患者を対象に,抗スパイク蛋白抗体の併用療法の緊急使用を認めている.今後,どのような患者に治療効果があるのか明らかにする必要がある.
JAMA. Jan 21, 2021(doi.org/10.1001/jama.2021.0202)




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